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ガッチャーン…
図書室の扉を開けた途端、普段は静かな図書室に響く金属音に驚いて室内を見回すと
「お前…、何度目?」
そういって工藤先輩に手を差し出す 瀬名先輩が目に入った。
「今日はまだ二度めだよ……っつ」
「捻ったのか?」
「う…ん…? ちょっとズキってする?」
そういって足首に手をやる様子に、瀬名先輩は自分が痛い様な顔で見ている。
「保健室行くぞ」
「だ、大丈夫だよ、まだ、作業一杯有るし…」
すると、騒いでる様子に、書棚の奥から榎木も出て来て
「瀬名先輩、お願いします」
「悪いな、また、戻ったら続けるから」
自分を置いて話が決まった様子に、工藤先輩は軽く溜息を付いて
「ごめん…」
呟くように言うと 、瀬名先輩と図書室を出ていった。
「騒がしくて悪いね」
工藤先輩を見送ると。榎木が俺に寄って来て、差し出した本を受け取りながら苦笑する
「 先輩がいなかった間、何時もより盛況でね、なのに人数少なかったから、ちょっと整理する事にしたんだけど…、愛海先輩何かいつも足元のブックストッパーに躓くんだよね…」
「そんな運動神経悪そうには見え無かったけど…、体育祭の時も足早かったし…」
やけに盛り上がっていた今年の体育祭を思い出して居ると
「運動神経は良いみたいだよ、問題は注意力散漫、端的に言えば周りを見ていないんだ…なんて瀬名先輩は言ってた」
その言葉に、確かに色々周りは見えていないよな…と納得はいった。
「で? テキストはどんな感じ?」
あれから、火曜と木曜は図書室に立ち寄って、先日選んだテキストの具合を聞いて、軽いアドバイスなんて柄にも無い事をして居た。
榎木はやたら申し訳ないなんて言うけれど、普段隙のない彼女が、、珍しく百面相しながら解いているのは見てて面白かったし、感心した様に大人しく俺の話を聞いてるのは気分が良かった。
「ん? ちょっと時間無いかな…、今日中にこれ何とかしたいんだよね、明日はちょっと用事あるからここ来れないし」
「じゃぁ、テキスト出して? 進めた分見ておくよ」
「や、それは悪い」
「いーから」
強く重ねるお手数かけます、何てテキストを出して来て、書棚に戻る。
俺はそのすらりとした後ろ姿を見送って、テキストに目を落として
「どうしちゃったのかね? 俺は」
ふと、おかしくなる
参考書を口実に、一緒に出掛けたあの日、本屋で参考書を選んで、その後作家の作業展なんて中学の時でさえやらなかったデートコース。
疲れたねなんて言って、喫茶店に入って、洋菓子が苦手なんて涼しげな顔でストレートティーを飲む前で、俺は、ココアにケーキなんて頼んでた。
いつもなら女の子の前では好きでも無いブラックコーヒーなんて飲んでたのに、榎木と居ると、そんな事が馬鹿らしく思えて、気が付いたら気分のままオーダーして居た。
喫茶店を出る時も当たり前のように伝票持って二人分の支払いをしてるから驚いて、でも、レジ前で揉めるのはあんまりだから、終わるのを待って二人分のお金を渡したら、付き合って貰ったからなんて言って受け取りもしない。
そりゃ、年上のお姉様に誘われた時は、お言葉に甘える事もあったけど、同年代の女の子にそんなことされた事なんてなくて、あり得ないって呟いたら
「お世話になったのは私なんだから当たり前でしょ?」
なんて言われて…。
けれど、その健康的過ぎるデートとさえ言えないような一日は、本当に楽しかったから、其れから、何だか何時ものように女の子と居ても何か物足りないような気持ちになってしまい…。
だから、週に二回は此処で彼女とテキストを解いて居たりして、本当どうかしてるんだ…。
「ごめんね?」
勢い良く、扉が開いて小走りに榎木近づくさっきこけたばかりの先輩。
「どうでした?」
「大丈夫!」
威勢良くかえした言葉に
「一日、余り動くな、だろ? 走るな…、俺が言う通り動くから座って指示しろ」
「あ、なら、床の本を机に並べて、先輩にキャスターに並べて貰いませんか?座りながら」
「ちょ…動けるよ!?」
「良いなそれ」
工藤先輩がそう言うのを無視して、椅子に座らせた彼女の前に積まれる本と運ばれる キャスター。
そのことに観念したのか諦めて手際良く本を並べ始めると、その指示通りにクルクル図書室を動き回る榎木と王子 。
王子カタナシ…。
そう思いつつも、ちゃんと使いこなせ? なんて、合間に笑う姿は様になって居て…
そんな使い走りな真似をしてもやっぱり王子なのが何か悔しかった。
戻りました。
又、続きを頑張って行きたいと思います。
ペースが少し落ちるかもなのですが、頑張って続けて行きたいと思いますのでよろしくお願いします。