第2話 sub:無題
"sub:無題"
彼はいつもメールに件名を入れない。
そこに「ごめん」でも「元気?」でも、何か一言あれば心の準備が出来るのに、とユキは思う。
ユキは大きく深呼吸してメールの本文を開いた。
「ユキ、どうしても会って話がしたいんだ。メールじゃ伝わらない。これで最後にする。
いつも二人で行った、恵比寿のカフェで待ってる。
ずっと待ってるから。今すぐ来てほしい。」
彼には明日とか明後日がない。
今会いたいと言ったら、もうその瞬間から待ち人を待っているのだ。そうしてずっと、何時間でも待っている。
今日は行けないと言っても、ずっとずっと、待っているのだ。
ユキは一度彼に会いに行かなかった事がある。
その日は身内の葬式が入ったので遠出しなければならず、どうしても行けないということを彼に伝えた。
でも彼の返事は
「待ってる。」
それだけだった。
結局ユキは親戚の家で長居をしてしまい、その日はそのまま親戚の家に泊まろうということになったのだが、深夜になって、彼が待っていると言った店の店員からユキの携帯に、彼女が来ない限り彼が帰らないといって困っているという連絡が入った。
その夜、彼は結局店の前で一晩を明かし、ユキはユキで朝一番の電車に乗り込んで彼を迎えにいくはめになった。
「今日で最後にする。」その言葉をユキは待ち望んでいたはずなのに、最後になんて本当にできるの?とユキは思ったりもする。
終わらせなくてはいけないという思い、終わらないのではないかという不安、そして、本当は終わらせたくないんだという押し殺している痛みを感じながら、ユキはメールを返した。
「今から行く。」




