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フェアライズ  作者: 海人
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†第33話《其願》†

†第33話《其願》†



ハイドを出発して2日、ヴァンスはヘレニック共和国内に複数ある港町、その一つであるトロープに到着していた。

トロープは港町としてはさほど大きくはないが、軍備施設が近くにあるため、十分な航行本数を誇っており、勿論レアーズィへ行く船はそこからも出ている。

しかし、先日のラグナによる宣戦布告の煽りを受けて港は封鎖、航行もストップしていた。

「船が出てない…。」

ヴァンスがトロープに着いて出た最初の一言だ。

「くっそ!折角アルフに追いつけると思ったのによー!」

イラ立ちを隠さず、頭をかきむしるヴァンス。

どうしていいか分からなかったが、町の近くに騎士団の詰所があることに気づいたヴァンスは、騎士達に船を出せないかを聞いてみることにした。


「あのーすみませーん!」

ヴァンスは詰所に着くとドアをノックし、そう声をかけた。

すると中から扉が開き、甲冑を身に纏った一人の騎士が出てきた。

「何の用だ!我々は今忙しい!出来ればあとに…」

「話を聞いてくれ!」

「急げ!なんだ?」

進軍の準備で忙しいのか、空気はピリピリとしていて、騎士も心なしかかなりイラついている様子だった。

「もしトロープからレアーズィに船を出すなら乗せて欲しいんだが。」

「お前のような民間人を乗せられるわけないだろ!」

「まぁ普通の民間人ならな!でも俺はアルフを助けに行くんだ!」

その言葉に騎士の動きが止まる。

「アルフ?とはアルフレット・ブレスクのことか?」

「ああ、そうだ!あいつは今一人でラグナのもとに向かってる!宮殿に留まった兵士全員と、ラグナ本人を一人で相手にして無事だと思うか?」

「騎士を抜けた者がどうなろうが知ったことか!私達には関係ない!」

騎士はヴァンスの思いがけない言葉を口にした。

アルフレットは昔、騎士であった。

それもそうとうに優秀な。

そんなアルフが周りに慕われないことが、あるのか。

ヴァンスの知るアルフの性格ならば、年は未熟でも人は進んでついてくると、そう思いこんでいた。

「お前はそれでも騎士か!あいつは…」

「おお!ヴァンスじゃねぇか!」

騎士達に反論をしようとしたその時、後ろから信じられない人物の声が聞こえた。

「アルフは元気か?」

後ろを振り向くと、そこにはエアルドが立っていた。


「………ということなんですけど、船に乗せてもらうことは出来ませんか?」

ヴァンスはエアルドをみるなり事情を話し、船を出してもらう交渉をした。

「なるほどな…あのバカ息子は少しは男らしくなったみたいだな。」

「はい!焚きつけたのは俺ですけど、本当に一人で行くとは思わなくて…。すみません。」

そんなヴァンスの言葉を聞き騎士団長であることを忘れそうな程穏やかな顔つきになったエアルドは、

「いや、お前はよくアルフを動かしてくれた、あいつは…いい友を持ったんだな。」

独り言のようにそうつぶやいた。

「それにしてもあのバカ息子!一回負けたくらいでメソメソしやがって!!会ったら一発ブン殴ってやる!」

エアルドは重くなった空気を払拭するように、握った拳を宙に振るった。

「それで、船は出して頂けますか?」

「おお、そうだったな!勿論OKだ!俺も丁度これからゼアサラスに進軍するところだったからな!」

「ありがとうございます!!」

ヴァンスはありったけの感謝を込めて頭を下げた。


アルフ、ヴァンス、エアルド率いる騎士団がゼアサラス宮殿に歩を進める中、もう一つ動き出している勢力があった。


ネイスール独立国 海上戦艦シクザール ブリッジ


「よし…発艦準備は出来たか?」

物々しい格好をした、一人だけ逸脱した貫禄をもつ男、ジェネラウス・アル・グルーべがそう家臣に尋ねる。

「は!準備は着々と完了しており、あと1時間程で、発艦できる模様です。」

「分かった。準備を急がせろ。」

「サー!イェスサー!!」

家臣はその指示を伝えるべく、ブリッジを後にする。

「カワード!!」

そういってジェネラウスがみた先には、眼鏡をした、以前の長髪をバッサリと切ったカワードが、姿勢良く立っていた。

「はっ!!閣下!!」

「お前…この間カルストに軍隊を出すなんて真似をしやがったらしいな。」

「はっ!申し訳ありません!!」

「言い訳…しねぇのか?」

「弁明はないであります。」

「そうか…あの町になんの目的があった?さして戦略的価値があるとも思えんのだが…。」

「そ、それはアルフレットが…。」

ジェネラウスの核心をつく質問にたじろぎながらも答えるカワード。

「アルフレット…?」

「は、はい!アルフレット・ブレスクであります。」

「ほぅ…エアルドの…。で、そのアルフレットがどうした?」

「はい…奴の大事にしているものを脅かせば我々の戦力になるかと…。」

自分の部下の下衆な発言にジェネラウスの顔つきが変わる。

「ほぅ…つまり町全体を人質にとって無理矢理いうことを聞かせようとしたわけか…?」

「は、はい!そうであります。」

「カワードよーく聞いとけよ?戦術上、あいての弱みを握って思い通りにするのは別に悪いことじゃあない。寧ろ、一番効果的とも言えるだろうな。」

ジェネラウスの語りに熱心に耳を傾けるカワード。

「だがな…俺はそんな風にして得た勝ちを、勝ちと認めるつもりはない!!たとえどんな大勝であろうともな!」

「はっ!!」

空気が震える程の声でそういい放ったジェネラウスに確かな信念を感じたカワードはただ返事をすることしか出来ない。

「別に成人君士になれってわけじゃあない…ただ…俺は、俺の軍ではそのやり方が信念であり、信条だ!守る気がないならば抜けてもらって結構!どうするカワード?」

「は、はっ!自分はこの忠誠をグルーべ閣下に誓いました!閣下がそのやり方で勝利を求めるなら、私の勝利もそこにあります!」

カワードの心からのその言葉にジェネラウスは穏やかな顔になった。

「そうか…ならば引き続き俺の下で働いてくれ。」

「サー!イェスサー!!」

カワードは今までの考えを払拭するかのようにそう返事をした。

「さぁて…ラグナの坊ちゃんよ…待ってろ…俺の軍隊に喧嘩売ったつけ…必ず払わせてやるからな!!」

ジェネラウスは険しい顔で、一人そうつぶやいた。


山を抜けて3日、アルフは山脈の先に広がる平野部をようやく抜けようとしていた。

「あーー…山抜けたらすぐな気がしてたんだけどな…全然着かねぇ。」

山道は抜けたものの、あまりにも長い平坦な道に、体力を奪われたアルフは愚痴を口にしながらひたすらに歩いていた。

レアーズィの首都ゼアサラスは市街地と宮殿に分かれており、宮殿は周りを市街地で囲まれている形状で、戦闘時はそこがそのまま要塞のような形になる。

周囲を市街地で囲まれているということはレアーズィ側は地の利を活かした戦いが出来るということであり、実際全戦争時も宮殿内まで踏み込まれることは無かった。

レアーズィの四方には大きな外門があり、そこを通ることでしか町に入ることは出来ない。

そんな門が見えてきたのはアルフがさらに小一時間歩き続けた時だった。

「やっと…ついた…。」

アルフはあまりの達成感に脱力しその場で膝をつく。

しかし、アルフは立ち上がると、ゼアサラスとは別の方向に歩き始めた。

「夜を待とう。夜に行動すんのは奇襲の基本だからな…俺の二つ名は閃光の奇襲者(レイド)…奇襲任務は慣れてるから夜目もきくし、俺の得意分野だ。」

そう一人呟くと、近くにある森林にその身を隠した。


その夜 ゼアサラス市街地


(おかしいな…もっと警戒して人数がいると思ったんだけと、通常の警戒体制くらいの人数しかいない)

アルフの知るラグナならばもう少し堅実に、市街地の警備人数を置いていてもおかしくないと思ったアルフだが、罠に注意しながら先へ進んだ。

途中何度か気づかれたが、他に知らせる前に気絶させたので、周りには気づかれなかった。

そしてとうとう、アルフは宮殿前に辿り着いた。

「随分とゆっくりだったな!アルフ!」

思いがけない声に振り向くアルフ。

そこにはヴァンスとエアルドが立っていた。

「な、何でお前らここに!!」

ヴァンスがゆっくりとアルフに近づく。

「水くせーこと言ってんな!!仲間が助けに来てんだ!少しは嬉しそうな顔しやがれ!!」

そういってアルフの背中を強く叩くヴァンス。

背中の痛みのせいだろうか、目に涙のたまるアルフ。

自分のことを力のあるものだと言ってくれた友人、同じ者を愛する友人、見捨てられたと諦めて一人で来たのに、また目の前にきて、手を差し伸べてくれる、そんな友人。

叩いたあと肩に乗せられたその手から、力が流れ込んでくるような気がした。

ここまでの苦労が嘘のように、自分の身体を、その心を、暖めてくれる。

アルフは気づかれないように、顔を上げつつ涙を拭く。

「嬉しいに決まってんだろ!ありがとな!」

少し、鼻声になってしまっただろうか。

「親父も…来たのか。」

「まぁ俺はお前の為ってより、陛下の為だがな。」

「そうか…でも一緒に戦ってくれるんだな!」

「ふん…陛下が言うからな、仕方なくだ!」

そういってエアルドは少し照れながら何かを差し出す。

「これは?」

綺麗な装飾をされた剣のようだった。

「こいつは俺の出来る、最初で最後の手助けだ。」

それを受け取るアルフ。

その剣は、エアルドの期待、ウルスの期待、ヘレニックに住む人々の期待の分、重く感じられた。

「ありがとう。大事に使う。」

綺麗に鞘に収まったその剣をアルフは自分の剣の上に差した。

その時…

「エアルド!もう来てたのか!」

そこに到着したのはジェネラウスとカワードだった。

ジェネラウスの後ろにいる眼鏡の男、つまりカワードを見るなり目の色が変わるアルフ。

「カワード!てめぇなんで!!」

「待て!アルフ!」

拳を握り走り出そうとするアルフを止めるヴァンス。

すると、アルフとカワードの視線を切るように立ちふさがるジェネラウス。

「お前がアルフレットか?」

「そう…ですが。」

「カルストの件、許してやっちゃくれねぇか?」

「許せだと?」

「この俺に免じて、な!」

文句を言わせない程の気迫をもつジェネラウスだったが、アルフは怯まない。

「たとえ貴方が一国の元帥であろうとも、俺の大事なものを壊したのはその男だ!許すことなんて…」

「確かにな…お前のいう通りだよ。でもなアルフレットよ、こいつも反省してる。俺のやり方は嫌になるほどエアルドから聞いてるだろ?部下ってのは元帥の信念に基づいて行動するもんだ、そりゃあ騎士でも軍隊でも、僧侶(クレリック)でも同じ事だろ?」

「何がいいたいんですか?」

「ようするにだ、今のこいつは俺の信念を知った部下だ。お前がこいつをどうこうしようってんなら…。」

一瞬感じる殺気に、鳥肌がたつ。

「分かりました。ですが、カルストに支援をしてください。」

「おう!そりゃあお安い御用だ!是非させてくれ!この戦いが、終わったあとでな!」

「そうですね…。」

「アルフレット。」

カワードが前に出る。

「その節ではすみませんでしたねぇ。お詫びと言ってはなんですが、この戦いでは貴方と共に戦わせていただきますよ!」

(こいつ…ほんとに反省してるのか?まぁ素直に謝るカワードなんて気持ち悪いか)

カワードの少し傲慢な態度が気になったアルフだったがそう思うことで流した。

「ふん…別に頼んでねぇよ!」

少し悪態をついて宮殿に向き直るアルフ。

「さて…。」

そこにいる全員が宮殿に向き直る。

国を守る為に戦う者。

懺悔の為に戦う者。

忠義を尽くす為に戦う者。

愛するものを取り戻す為に戦う者。

友の為に立ち上がった者。

ある者は国を背負い、

ある者は罪を背負い、

ある者は願いを背負い、

ある者は命を背負い、

ある者は心を背負う。

それぞれの守るべきモノの為に立ち上がった5人。

戦いあった者もいる、ぶつかり合い、互いの心を知った。

そんな者達が同じ敵を打つ為に互いに協力する。

(皮肉なもんだな…ついこの間まで戦争してたこの奴らが、一人の強大な敵を前にすると協力しちまうんだから…)

アルフは一人そんな事を思う。

「ここまで来ちまったしな…あとはラグナを止めるだけ…。」

「ああ…そうだな!最後の一戦だ。」

「俺たちはどんなになろうとも負ける訳にはいかん。」

「世界の為なんて大層なもんの為じゃあねぇがな…。」

「それでも精一杯やるだけですよ。」

アルフに続くヴァンス、エアルド、ジェネラウス、カワード。

「そんじゃあ!行きますか!!」

そういってアルフは誰よりも早い一歩を踏み出した。


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