†第28話《激動》†
こんにちは海人です。
この話からいよいよ最終章となります。
ここまでお付き合いいただいてありがとうございます。
ラグナ、そしてアルフがどうなっていくのかぜひお楽しみください。
それでは
28話激動です。
どうぞ
“ラグナが新皇帝!!?”
三人の思考はそれぞれ同じことを考えていた、第一皇子が失脚、または死亡した際、第二皇子がその座を継ぐのは当然と言えば当然なのだが、今回のツヴァイ暗殺は明らかにラグナ本人かラグナ派の故意である。
それなのに、犯人は裁きも受けず、寧ろ犯人さえ突き止めようともしてはいない、明らかに不自然であった。
「おい、始まるみたいだ。」
ヴァンスはそういってテレビの画面を指差した。
“それでは会見の準備が整った様なので、ご覧下さい。レアーズィ皇国、ゼアサラス宮殿より中継です。”
「皆さんこんにちは!僕はこの度新皇帝になった、フェア・ラグナロク・ツェベート・レガリス。皆さんの中で僕の存在を知らなかった人もいるんじゃないかな?僕は、注目を浴びない方だったからね……まぁ、それはいいや、ここで皆さんに発表がある!兄を殺したのは……この僕だ!」
「なんだと?」
テレビの中のラグナが告げる真実に声を荒げるヴァンス。
リヴィアも驚く様子だったが、アルフだけは驚く様子はなく、なんだか納得している様子だった。
「ヴァンス、今はラグナの会見を聞こう。」
そういってヴァンスを鎮めた。
ラグナによる会見は続く。
「僕は兄を殺して、このレアーズィとその権力を我がものとした、新皇帝の座を得ることでね。次に僕が欲しいのは、どうやら世界のようなんだ、だから…これから僕は、世界を僕の物にしようと思う!ネイスールも!ヘレニックも!そこに付随する全ての街、村、国家!全て僕のものにする!!勿論普通の方法じゃ簡単じゃない、でも僕はこういう手を使うよ!!」
そういってラグナはおもむろに手を上げる。
(ラグナ?お前…何をする気だ!?)
アルフはラグナの行動に注目する。
ラグナが手を上げると、近くにいた僧侶達が大画面様の投影機でネイスールにある、“丘の綺麗な小さな街”の様子を映し出した。
映し出された“その街”には、気味の悪い黒い雲がかかり、その住人達は、空を見て何やら騒然としている様子だった。
まるで突然の天気の変わりように驚くように。
「あれは!まさか、ハイド!?ラグナ!!やめろ!」
アルフはラグナの意図が分かったのかベッドから体を起こし、届くはずのない声を上げる。
ラグナはあげているその手で指を鳴らした。
すると映像内の“その街”にかかっていた黒雲が所々急降下し、地面にあたると同時に爆発した。
どうやら“街”の中のいたるところでその爆発が起こっているようで、聞くに堪えない悲鳴と、爆音がしばらく鳴り響いた。
そして、ラグナが手を下げると誰の悲鳴も聞こえなくなった、燃え盛る“その街”を映し出す投影機が停止した。
「皆さん、分かったかな?これが僕の、新皇帝の力だ!宣戦布告ととってもらっても構わないよ。僕に逆らうならその国すべてを滅ぼしつくすまでだからね。一週間、一週間以内に僕に投降しない場合、一日に一つづつ、街を消していく。賢明な判断に期待しているよ。」
ネイスール独立国 首都ウォクサム 国家軍会議室
ネイスールの大元帥ジェネラウス・アル・グルーベは、ラグナの会見の見て、貫録のあるその重い口を開いた。
「おいおい、これは大変な若者を新しい皇帝に選んだな…。」
会議室内は騒然となるが、黒の長髪に眼鏡をかけた青年が意見をする。
「閣下!我が国は打って出るべきです!このまま奴の支配を受け入れ、またレアーズィの支配を受けるおつもりですか?」
そこで、一大佐如きの出過ぎた発言に怒る家臣。
「カワード大佐!!貴様の意見など聞いてはいない、お決めになるのは閣下だ!黙られよ!」
「別にいいさ。」
「ですが閣下!」
「カワード…とか言ったな。お前確か、前大戦で要塞警護をしていたな?」
「はい閣下!」
「お前は俺たちがゼアサラスを攻めている間、要塞を守っていた。その時お前は何を考えていた?」
カワードは予想もしない質問に一瞬たじろいだが、すぐに答えた。
「私は、国が建ち、何者の支配も受けない自由な国を作ろうと…」
「そういうことを聞いてるんじゃねえんだよな!」
ジェネラウスの鋭い眼光に流石のカワードもひるむ。
「お前は若いな!若いし未熟だ!防人が侵攻してる方に気いっててどうすんだよ。帰ってくる奴らのことを信じて、その場を死ぬ気で守り抜くのが防人だ!戦人には戦人の、防人には防人の、戦っている意味がある、それが分かってから発言をしろ。」
「は!」
そういってカワードは着席した。
「まぁとは言っても俺だってみすみす国を渡す気はないさ、とりあえず一週間でできるだけの準備をするぞ!我々は打って出る!!」
「サー!!イェスサー!!」
ジェネラウスの言葉に全員が立ち上がり、返答の言葉を口にした。
ヘレニック共和国 首都エーモア 光王の聖城 謁見の間
オルト・ウルス・ヴェルムードⅢ世 若きヘレニック国王である彼女もまた、ラグナの映像を見、対策をするべく、騎士団長であるエアルドを謁見の間に呼んでいた。
「エアルド、顔を上げて。これでは話し合いにならないわ。」
国王の前にひざまづいたエアルドが顔だけを上げる、流石に騎士団長だけあって堂々とした姿勢だった。
「はい。」
「相変わらず、堅苦しいわね。」
「殿下の御前ですので…。」
「ふう、まぁいいわ。それでエアルド、私はこのままおとなしく国を渡す気はないのだけれど、あなたはどう思う?」
「私は殿下の意思に従わせて頂きます。」
「なるほど、では、この国の未来の為に戦ってくれるというのね?」
「はい。当然です。」
「分かったわ。それで、あの…。」
ウルスは突然頬を赤らめ下をむく。
「アルフですか?」
「う、うん。」
「お言葉ですが殿下!あれは殿下には過ぎる奴です。どうかお忘れを。」
エアルドがそういうと顔の赤みがさらに増し。
「ちがうわよ!そういうことではなくて!アルフは戻ってこなかったの?」
「見ての通りです殿下。奴は私に似て、頑固でして。」
「う…うー役立たず。」
「ですが殿下。奴は人一倍正義感も強いやつです。今回の件、黙っているはずがありません。」
「それは、アルフはラグナを許しておかないということ?」
「はい。奴は必ず、たとえ一人でもラグナと戦うかと。」
「私もゼアサラスに…」
「殿下、それを私が許すと?」
「えーだってアルフに会いたい!!」
「はー…殿下、アルフは騎士の家系であるとはいえ、ただの人、国王である殿下とはつり合いが取れません!お願いしますからお忘れを。」
「うー。」
(おいアルフ!お前なんてことを、国王惚れさすなんて、騎士団時代一体何しやがったんだ!!)
「まぁそれは、とりあえず我慢するわ。では我が騎士エアルド!!」
先ほどとは打って変わった顔つきにエアルドも顔を下げる。
「はい。」
「我が国土を荒さんとする暴君ラグナからこの国を守れ!!それが私の願いだ!!」
「イェス!!ユア マジェスティ!!」
そうして、二つの国家はラグナの軍門には下らず、徹底抗戦することを決めたのだった。
そして、もう一つ、それに対抗しようとする勢力があった。
ヘレニック共和国 エアツィア州 カルスト 病室
あまりの出来事に黙り込む三人。
(まさか、ここまでやるとはな。ラグナ、お前はあの時改心したんじゃなかったのか?)
この沈黙を破ったのはアルフだった。
「あの黒雲、間違いなくフィアスだな。」
続くのはヴァンス。
「ああ…あいつ、力を見せつけるためだけに街一つを…。」
そしてリヴィア。
「あの街…ハイドだったわよね?」
「ああ…間違いなくハイドだった。」
「くそ!!俺たちが居たあの街が!ハイドが!!」
ヴァンスはそういって机を殴った。
「あいつは、俺を挑発しているんだ!間違いない!ラグナは、俺を呼んでいる。」
「アルフ!!でもそんな体じゃ!」
リヴィアはアルフの体を案じ流石に止める。いくら体が丈夫とはいえ、体に十数か所も傷がある状態で、騎士団長であるエアルドと戦い、まだ一週間しかたっていない。
体が完璧な状態であるはずがないのだ。
「ああ…俺もすぐには行かないさ、とりあえずハイドに行こう。あの映像だけじゃ分からなかったが、酷いことになっているに違いない!」
「そうだな。お前すぐここを立てるのか?って言っても、ダメと言ったところでどうせ来るんだろ?」
「ああ…すまない、世界がこんなことになっているのに、休んでいるわけには行かないからな。」
やれやれ…と手を振りヴァンスは部屋を出ていこうとする。
「いろいろ準備が必要だろ?移動手段とか、そういうのの調達は任せておけ!お前はとりあえず退院手続き済ませとけよ。ドクターが許すとは思えないけどな。」
そういって部屋を出て行った。
「じゃあ私はドクターを説得を手伝うわ!」
さ、行きましょ?立てる?と言い、アルフの手を取った。
「ああ、ありがとうなリヴィア。」
「ふふ、何?突然?」
「いや、無理ばっかり言ってほんとにダメなリーダーだと思ってな。俺はお前らを…」
そこまで言うとリヴィアの指がアルフの口を止めた。
「アルフ。私たちは、アルフのその正義感についてきてるのよ?ただ、アルフの言ったことについていくだけ、もちろん間違っていると思えばそれを止めようとするわ。でもねアルフ、あなたはあなたの心に従って、歩いて行ってくれればいいの、あなたの歩いたところが道になっていくんだから。」
そこまで言うとアルフの唇につけた指を離し、再びアルフの手を取った。
「ああ、ありがとう!絶対に止めよう!ラグナを!」
「うん!」
アルフはこの時、心にあることを決めていた、その心の決意を無くさないないように、アルフはリヴィアの言った言葉を深く、深く心に刻んだのだった。
そして、ガーディアンはハイドへと向かった。