†第23話『《記憶》解散』†
†第23話《『記憶』解散》†
「いつになったら起きるの?アルフ…。」
つい一週間前に入院していた病院にまたも入院し、意識不明なアルフ。その手を固く握るリヴィアはそう呟いた。
「前回は一週間、今回ももう一週間経ってる…エアルドさんは1日寝たら直ぐに起きて出て行ったけど…。」
あの闘いの後、二人はその場で気絶してしまい、二人の決闘が気になってこっそりと見に来たリヴィアとヴァンスが気絶した二人見つけを病院に運んだのだった。
「アルフは傷口が開いて大変な事になってるし、エアルドさんは体中に擦り傷と打撲だらけ、どんだけ激しい決闘したのよ!」
もうっ!と頬を膨らませるリヴィアにヴァンスは
「俺らが着いた時はもう終わってたからな…だがエアルドさんが黙って帰っていったのも、傷のつき具合からしても、アルフは勝ったんじゃないか?」
「ふふ…そうかもね。頑張ったんだね?」
リヴィアはそう言うと固く握った手を優しく握り直した。
ヘレニック国 州 ハイド
例の補給部隊救出作戦から半年後…
カワードと傭兵契約を交わしたユグドラス防衛戦が始まる一週間前…。
その日アルフはある決意を秘め、全スレイブメンバーを集めて、集会を開いていた。
「ミッド達が居ないな?今日来てない奴もいるのか…?」
アルフは周りを見渡して、数人の仲間が来てないことに気づく。
「今日からミッドさん達のグループは任務で出ていて帰ってくるのは一週間後だそうですよ。」
知っていた事情を話すグレン・コークス。
「そうか…まぁそいつらは後回しでも構わないか…皆には、今請け負っている任務が終わったら次の任務は請けないで欲しいんだ。」
「………よく事情が掴めんな、どういう事だ?」
幹部の一人のリード・クラスターはメンバーの困惑を悟り、そう問い掛ける。
「今請けてる任務を終えたら…」
言い出せず言葉を止めるアルフ。
(…あれだけ覚悟をしたんだ…!言え!言うんだ!)
「今請けてる任務を終えたら…スレイブは…解散する。」
その言葉を聞いたときメンバーは騒然とする。
「突然何を言い出すかと思えば…。」
とエルダー・マージアス
「言葉の意味が分かっているのか?」
「アルフさん!今までの頑張りを無にする気ですか?考え直して下さい!」
リードとグレンもアルフの突然の解散宣言を受け入れられる筈も無く強く反論する。
そんな想像以上の猛抗議に口を纉んでしまったアルフを見兼ねたヴァンスは
「皆少し黙れ!!アルフ!ちゃんと皆が納得のいく説明をしてくれ。」
「ああ…これ以上組織を続けられない理由が出来た。」
「どういうことだ…?」
「スレイブは今まで色んな戦いに傭兵として参加してきた、国、州、街、団関係無くだ…。」
「そんなのは分かってるさ。俺達はそれを売りにやってるからな。」
「俺達は今までも報酬と事情次第で色んな任務をやってきたが、最近の依頼内容が酷くエスカレートしてきている。」
これまでのスレイブはどんな任務でも可能な限り人は殺さず、戦闘不能にさせるまでに留めていた。
それはスレイブのメンバー全員が決めた事で、メンバーの戦闘力が戦う相手の戦闘力を遥かに上回っていた為に出来ていたことで、強者としての余裕の証だった。しかし、最近になってメンバーの怪我は増え、戦う相手にも死者が増えてきていた。周りとの強弱の差が縮まってきたというのもあるのだろうが、明らかに以前より任務の内容が過酷になっていた。
「確かに命のやり取りは必須になってきてはいるが、それは当然だろ。組織がでかくなれば依頼だってどんどんハードになっていく。」
「だからこそだ…だからこそこれ以上は俺達自身に危険が増える!」
「危険が増える?なぁアルフ…俺達の事を信じてくれてたんじゃないのか?」
「信じてるさ…大切にも思ってる。だけど…。」
変に言い淀むアルフに違和感を感じるヴァンス。
「お前…なんか俺らに隠してるんじゃないのか?」
「………。」
「アルフ!」
「今度俺が任務で行く場所は…ユグドラス要塞だ…。」
「…そりゃあ冗談だろ…?」
「冗談じゃない…ネイスール国軍から依頼を請けた。」
「ってことは…この間レアーズィからの独立宣言を出したネイスールの防衛にまわるってことか?」
「ああ…ユグドラス要塞を防衛するのが任務内容だ。」
「一人で行く気なのか?」
「言っただろ?皆に危険が及ぶ…今回ばかりは怪我じゃ済まないかもしれない…。」
「…なんでそんな任務請けた?」
「人質をとられた。」
「!?まさか!俺達が軍に捕まったのは!」
「ああ…それも人質の一端ではあるけど…多分カワードは、お前らが人質として使えなくなった時の為の保険として、この街全体を人質にしてる。」
「街全体!?」
「ああ…なんとしても自分の思い通りに事を運ぼうとする…その為には人の命なんて何とも思わない、あいつはそういう奴なんだ。」
「………。」
関係のない人達を巻き込んでいるという事実に困惑し、黙るヴァンス達。
「依頼を請けた事、スレイブを解散する事、何と思われても構わない…ただこれ以上人殺しの道具として良いように利用されたくないんだ。」
「もう決めた事なのか?」
「ああ…じゃなきゃこんな話はしねぇよ。」
ふっと場を少しでも和ます為に自嘲したように笑ったアルフの顔は痛々しく、その場にいた誰もがアルフの胸中の覚悟を感じ取った。
「これで俺からの話は終わりだ。最後の集会はこれにて解散。皆今請けている任務が終わったら、それぞれ故郷に帰るんだ。」
そう言い終えるとアルフは静かに部屋を去った。
アルフの居なくなった部屋では皆突然の出来事に困惑ししばらくその場を動けなかった、出て行ったアルフをすぐに追いかけたただ一人を除いては…。
アルフは部屋を出たあとハイドの町外れにあるマグニスの丘と呼ばれる街を一望できる、景色の良い高台で座っていた。
(あれが最善の方法だったんだ…俺にはもう…誰かを守る資格はない)
そんな事を考えながら日の落ちそうな黄昏の街を見下ろしていると後ろに人の気配。
「どうしたんだ?」
「………。」
「俺の言葉に納得いかなかったのか?リヴィア…。」
「………。」
アルフを追いかけたのはリヴィアだった。
「俺は誰かを…大切な何かを護りたくて…ただそれだけの理由で騎士団を抜けてスレイブを作ったんだ…。」
「何かを護りたいのに…なんで名前がスレイブなの?」
「SlaeveはSlay…つまり殺人という意味の言葉とEven…同じ高さの…という意味の言葉からとったんだ、それは誰かを護る事によって普通の人と同じ高さまで更生させる…そんな…矛盾をはらんだ名前なんだ…。」
「………。」
「誰かを護る為に傭兵する筈が結局また人を殺してる…。」
「………。」
「昔はそれが正しいと思っていた。けど騎士団で人を殺すたびに…その手が血で汚れてくたびに命を実感した。殺すことが強さじゃなくて、護ることが本当の強さだって気づいたんだ。」
「………。」
「それでも俺には誰も護れなかった…こんな組織で…何が護れると思っていたんだろうな…。」
「だから…護れないから…護ろうとすることすら止めちゃうの?」
「違うよ…別のやり方を探すのさ…人を傷つけてても、誰も護れないから…。」
「私も探したいな…アルフと一緒に。」
「………。」
凄く嬉しかった…。気持ちが通じ合う事に喜びを感じた。しかし、これから大量の命を奪いに行こうという者にそんな気持ちを感じる事が許されるのか…それがその時のアルフには分からなかった。
「今の俺には…誰も護れない。」
「自分の身ぐらい自分で護れるわ!」
「俺の名前は誰かを傷つける…。」
「そんなことは…!!」
アルフは立ち上がるとリヴィアの方に振り向いた。そして徐にリヴィアを抱きしめると耳元で何かを囁く。
「!!」
その囁きに突然涙を流すリヴィア。
そして、アルフは抱きしめた腕を離すと
「じゃあな…。」
そう言って泣き崩れたリヴィアの横を通りすぎると、頭にしていたバンダナを取り風に流した。
そうすることで罪を、その時の感情を少しでも流したかったのだ。
そしてアルフは、ユグドラス要塞へ向かった。