†第14話《衝突》†
†第14話《衝突》†
「おいおい…これは。」
首元にファーの付いた銀色のコートを来た40歳程の男は、戦車によって撃ち抜かれ見事に崩れている時計台を見上げて呟いた。
「それにこの気配…あのバカ息子絶対暴走してるな…こりゃあ何か対処しないとあいつ死ぬな。」
不吉な事を一人呟く男は静かにその場を去って行った。
ガキンッ!!
金属同士の弾き合う音が辺りに響き渡る。
先にカワードの懐に入り斬撃をいれるアルフ。
「いいのですか!そんなに悠長に構えていては私の連隊がカルストに着いて殺戮を始めてしまいますよぉ!」
「黙れ!」
カワードの皮肉への怒りに、力の限り剣を振るうアルフ、だがその刃がカワードを捉える事はない。
「どうしたんですかぁ!怒りに身を任せすぎて動きが単調ですよ!」
カワードは両手を前に突き出し、その手に風を集める
「暴風!」
「ぐはっ!」
急に大砲のように発射された風を受け10mくらい吹き飛ぶアルフ、空中で体制を整え綺麗に着地する。
そして、間髪入れずにカワードに切り掛かる。
それを軍刀で綺麗に受け止め、そこから一歩距離をとり斬撃を返す。
アルフは下がった直後に切り掛かる。
同じタイミングで繰り出された斬撃は空中で弾き合う。
そんな刃の打ち合いを重ねる2人
「光速。」
体の発光が強まり一瞬で後ろに回り込むアルフ。
反応の遅れたカワードは後ろから放ったアルフの斬撃を受けきれなくて、胸部の皮膚が服ごと裂けて血が吹き出る。
怯んだカワードの胸倉を掴んだアルフは、力任せに空中に放り投げ、体の浮いて身動きのとれないカワードを光速を使った打撃で打ちのめし最後は地面に叩き衝ける!
「がはっ!」
悶絶するカワードの心臓を剣で一突しようとするアルフ。
だが、
「うおぉ〜!アル〜フ!!!」
辺りに静電気の様な物が発生し、上から降ってきたそれはアルフの顔面を力いっぱいに殴りつける!
突然の出来事で受け身の遅れたアルフは強かに体を打つ。
「いってぇな!何しやがるヴァンス!」
「何しやがるじゃねぇ!お前今何しようとしてた!」
カワードを殺そうとしたアルフを間一髪で止めたのはヴァンスだった。
「何ってこいつを殺そうとしてたんだ!」
「ふざけるな!こいつを殺してどうする!動き出した軍が止まるのか!」
「止まらないさ!止まらないけど…許せないだろ!スレイブの解散だって今回のカルストだって!全部コイツのせいなんだ!」
「悔しい気持ちは分かる!だけどお前だけは!俺達だけは人の命を奪うことを絶対にしちゃいけないだろ!それに今コイツを殺せば軍は本格的に動き出す!そしたらヘレニック共和国とネイスール独立国の間で戦争になる!また沢山の人の命が奪われる!それでいいのかアルフレット!!」
「だけど…俺は…!!俺は……!」
「後ろを見ろアルフ!」
振り向くと崩れかけた時計台がかろうじて建っていた。
「あれは俺達の街だ!その街を護るお前が…その街の人々の命を護るお前が…命を奪っていいのかぁ!!」
「…っ!!」
声にならない嗚咽と共に涙を流すアルフ。
(悔しい…こんな奴に躍らされたことが…カルストを壊されたことが…何よりどうしたらいいかも思いつかなかった自分が悔しい!!)
「何を言っているんですかぁ!殺しなさいよ!憎いでしょう!悔しいでしょう!さぁ!早く!私を殺しなさい!殺して憎しみを広げろぉぉ!」
狂気の叫びをあげるカワード
「お前…!」
何かを言いかけたヴァンスは、泣き止んだアルフに肩を叩かれる。
そして通り過ぎようとしたアルフの腕をつかむヴァンス。
「もう大丈夫だ…大丈夫。」
振り向いたアルフの顔は清々しく穏やかでもう殺意は持っていない様だった。
その顔を信じ手を離すヴァンス。
アルフがカワードへと近づいていく
「アルフ!来ましたね!さぁその手に持った剣で私を殺しなさい!心臓がいいですか!首を跳ね飛ばしますか!それとも出来るだけ苦痛を与えて殺しますか!ははは!あはははは!」
「カワードォォ!!」
もの凄い形相とその声量に
「ひっ…!」
思わずびくりとなるカワード
「歯ぁ食いしばれぇ!!」
アルフは一瞬発光したかと思うとカワードの顔に拳をめり込ませる!
そのあまりに強力なパンチに眼鏡は粉々に砕けカワードは吹っ飛び、後ろに構えていた戦車隊の一台にボゴンッと体が食い込ませ気絶した。
「………はぁ…スッキリしたぁ!!」
いつものアルフにふっと少しにやけるヴァンス。
「あのヴァンス〜…そろそろ降ろして…恥ずかしい…。」
後ろに背負われていたリヴィアが羞恥で泣きそうになっている。
悪い…とリヴィアを降ろすヴァンス。
「おお!リヴィアも来てたのか。悪いな、情けない姿見せちまった…。」
「ううん…気持ちは分かるもん…それに最後のパンチかっこよかったよ!」
「はは…そうか。」
笑顔を見せるアルフ。
「よし!何かこっちは丸く収まったみたいだし…連隊止めに行きますか!」
ヴァンスの提案に反対する者はなく連隊の最先部に向かう3人。
その頃カルストでは、リードら幹部達を筆頭に軍に対する防衛手段を整えていた。
「あいつら大丈夫かしら?」
心配するエルダー
「大丈夫です!アルフさん達は絶対やってくれますよ!」
グレンは自分にも言い聞かせるように周りを励ます。
「そんな事を心配してもしゃーないだろ!あいつらが支えたこの街はわしらが護るそれでいいだろ!」
周りを叱咤するリード。
独立軍連隊がカルストに迫る
「全員戦闘体制!!誰ひとり街に通すな!」
眼前まで近づく軍隊に、臨戦体制をとるガーディアン。
ドサッ!
進軍する軍隊の目の前に何かが降ってきた。
1番前にいた兵士が恐る恐る確認すると、自分達の上司で大佐のカワードだった。
「大佐!どうしたんですか!大佐!」
体を揺さぶるが気絶していて目を覚まさない。
すると今度は、光に包まれた三人組がその場に現れた。
「まさか!お前達が大佐を!」
「ああ…そうだ…。」
「この敵対行動の意味が分かっているのか!」
兵士と話しはじめるアルフ
「分かってるさ…だが…お前達はこいつに言われて無理矢理来さされたんじゃないのか?」
「………。」
「俺らはこれ以上の戦闘もその後起こるであろう戦争も望まない!お前達大切な人はいるか?」
「………いる、妻と子供が。」
俺も恋人が、家族が、友人がと大切な人を上げていく兵士達。
「戦争が起これば、そういう人達の身が危険になるんだ。今なら間に合うから、そいつを連れて国へ帰れ!」
アルフの熱意と大切な人の存在で了解したのかその兵士はカワードを抱えると
「全軍停止!駐屯地まで引き返すぞ!」
隊長のようなその兵士がそう皆に告げると連隊は引き上げて行った。
「さぁて!やることいっぱいあるしな!帰るかカルストへ!」
そう言って上げたアルフの手は弱く…弱く震えていた。