†第11話《『記憶』陰謀》†
†第11話《『記憶』陰謀》†
「俺達が帰って来なくなってから5日間も放置とは、呑気なもんだな。」
更に皮肉を続けるヴァンス。
「救出が遅れてしまってすまない…。お前らは先にアジトへ帰ってくれ。」
「5日間も監禁されてた人間がここから徒歩でか?」
アルフに食いつくヴァンス。
他の補給部隊は
「リーダーは俺らを助けてくれたんだ!早く行くぞ!」
とヴァンスを急かすが、
「うるせえ!そんなに行きたいなら先に行け!」
と一蹴する。
「森林の道を辿った先にバイクが置いてある。無理すれば5人くらい乗れるはずだ。」
何とか仲間を帰そうとするアルフだが、
「いや、俺は残らせてもらう…お前に貸しをつくるのはごめんだ。」
「ふざけてるのか!今の状況をみろ!貸し借りがどうとか言ってる場合か!」
ヴァンスの言い分に流石に怒鳴るアルフ。
その言い合いに堪えられなくなった他の補給部隊はアルフの来た道から森を出て行ってしまった。
「お前最悪だよ。いつも汚れ仕事は自分で片付けようとしやがって。お前このあとこいつらと何か交渉するつもりだろ!」
「………。」
何も答えられないアルフ。
「俺はお前がやってることをずっと見てたんだ。いつも俺らを守るために無理な交渉に応じて汚れ仕事をやってきた!気に食わないんだよそういうの!自分一人で戦ってるつもりか?見くびるなよ!お前はリーダーだが俺らの仲間だ!そんな仲間が一人苦しんでるなんて!一緒に戦わせろよ!何のための仲間だ!」
いつも冷静(というよりもこの時のヴァンスは冷徹に近かったが)なヴァンスがここまで心をあらわにしたことに驚くアルフ。
(知られていたのか…とんだ茶番だったな。)
と心で自嘲するアルフ。
「すまない…。」
とだけいうと、鳩尾に衝撃を与えてヴァンスを気絶させた。
「さぁ、交渉を始めようか。俺らがここから無事に帰る為にはどうしたらいい?」
「そうですね〜。ある戦線に傭兵として参加して欲しいですね。」
傭兵部隊に傭兵を頼むという思いの外当たり前の要求に若干の安心を覚えるアルフだったが人質を使ってまで聞かせたい要求などがろくなものである筈はない
「その戦線は?」
「ええ、別に対したものじゃ無いですけどね………。」
「だからどこだ?」
「ユグドラス防衛戦に来てくれませんか?」
「なっ!?お前本気か!」
動揺するアルフ
それもその筈
そこは独立国最大の防御要塞でそこには独立国の元首の住む屋敷もある為、並の要塞の防衛戦とは比べものにならないほど過酷で危険な戦場だ。
それにこれまでのように、行動不能だけですむほど生易しいものばかりではなく、兵士数がとにかく多いため確実に命のやり取りになる。
アルフにとって1番出てほしくない名前だった。
「本気ですよ。貴方が一人居てくれればそれだけで一区画くらい余裕で守れそうですからね。元肆騎士の一人、アルフレット・ブレスクさん。」
「何故その名を知っている?」
「有名な話じゃないですか。騎士団長の息子、ブレスク家の長男。ああ…今はフラッシュと名乗っているんでしたっけ?」
「白々しい奴だな。」
「ふっ…よく言われますよ。」
「それで?受けていただけますか?」
(この状態で拒否権なんか無いだろ)
と思ったが、黙って頷くアルフ。
すると満面の笑みを浮かべたカワードは
「あははは!そうですか!受けていただけますか!あはははは…。」
笑い続けるカワード。
その不快な笑い声が聞くに堪えなかったアルフは、
「これで交渉成立だろ!もう帰っていいな!」
ヴァンスを抱え、来た道を引き返そうとするアルフ。
だが来た道を塞いでいる兵士は、
「まだ大佐はなにも言ってないので通すことは出来ない!」
とアルフの額に銃を突き付ける。
その言葉に怒りを覚えたアルフは、
「もういいだろ…。通せ!」
と兵士を睨みつけると、今にも殺されそうなその気迫に耐え切れなくなった兵士は道を開ける。
そしてアルフはヴァンスを抱えなおすと再び歩き出した。
しばらくして見えなくなるアルフ達。
すると道を開けた兵士の前にカワードは立ち
「てめぇ使えねぇな…。」
「すみませ…」
謝りかけた兵士の首を腰に下げていた軍刀で斬り飛ばした。
「まぁこれで許してあげますよ。あはは、あはははは、あははははは!」
首を切り落とした返り血を浴びて笑い狂う余りに残忍なその姿に兵士達はただ黙り、次が自分で無いことを祈るばかりだった。