†第9話《『記憶』開始》†
†第9話《『記憶』開始》†
その日部屋に帰ったアルフは
そのままベットに身をあずけた。
確かに見覚えのあるあの眼鏡の男が気掛かりで、ろくに食事もできなかったせいか、その日はいつもより疲れていた。
(あいつ、どう見ても…でも何でこんな街に…)
などと色々な思考を巡らせているうちに、うつらうつらと睡魔が襲ってきて、アルフは眠りに落ちた。
「おーい!あのー、聞いてますか?」
髪は今より短く、まだ幼さが残るリヴィアの顔が目の前でちらちらする。
「ああ…聞こえてるぞ。」
とアルフは自分の意志とは関係なく返事をする。
『あれ?俺…?ああ…夢か。リヴィアの服装からしてスレイブの頃だから3年以上前か…懐かしいな』
アルフは夢に意識を向ける。
そこはネイスール独立国の国境付近にあるスレイブアジトのアルフの部屋でその部屋にリヴィアが訪れてきていた。
「じゃあ返事くらいして下さいよ。」
と頬を膨らますリヴィア。
「すまない…で、何だっけ?」
されていた質問を聞き直す。
「だから、補給部隊の人達が帰ってきてなくて…何かあったのかなって。」
怪訝な面持ちのリヴィア。
「どこかで道草食ってるだけだろ、心配しすぎだよ。」
とアルフは軽くあしらう。
「そうかな〜?」
とリヴィアは、いつになく心配そうな顔で部屋を出ていく。
国境まで食糧を買いに行っただけだ…大丈夫
アルフは自分にそう言い聞かせた。
そこで意識が飛び、ふっと場面が変わる。
そこは同アジトの作戦会議室
目の前ではリードら幹部4人とリヴィアが議論を交わしていた。
「もう4日目だぞ!何者かに拉致されたに違いない!」
怒鳴るリード。
「まだ分かんないだろ〜もしかしたら組織が嫌になって抜けただけかもしんないぜ〜。」
と反論するミッドに、
「貴様!仲間を裏切り者と言うか!」
更にすごい剣幕でミッドに食ってかかる。
「落ち着けよリード〜俺は可能性の話しをしたんだ。少なくともあいつらにはその傾向があったぜ〜なぁアルフ。」
とアルフに同意を求めるミッド。
「ああ…あいつらがこの組織への不審をまったく持っていなかったかと聞かれると何とも言えない。」
とミッドの意見に同意する。
「ほらな〜。」
とミッドは調子にのる。
だが、
「それでもあいつらは裏切るような奴らじゃない。俺はそう信じたい」
アルフは暑い眼差しで語る。
「貴方についてきてよかったわ。」
とエルダーが言うと、
「はい!流石はアルフさんです!」
とグレンが深く同意する。
「それじゃあアルフ!すぐに捜索部隊をだしましょう?」
切実に提案するリヴィア。
しかしアルフはその提案を受け入れない。
「それはだめだ…もしほんとに拉致されたなら被害者を増やすだけ…これからここにいる6人を3つの部隊に分けて捜索を行う。」
と別に案をだすアルフ。
そのアルフの提案に反論する者はなく、すぐに行動に出た。
アルフのした振り分けは
①アジトの北部、補給部隊が買い出しに行った国境の街ノイスへ行く部隊。
②アジトの北西、国境沿いにある独立国軍の駐屯地へ行く部隊。
③そしてアジトがあるこの街ハイドでもしもの襲撃に備え残る部隊。
の3つで
力を出来るだけ均等に分けるが
②の駐屯地行きは戦闘になる可能性が高いため力の比重を大きく設定し、
まず①は聞き込みでの捜索になるため女性のエルダー、口の達者なミッド、
②には動きが素早く偵察と隠密行動の得意なアルフとグレン、
③はスタミナがあり防衛戦の得意なリードと射撃の得意なリヴィアという配置となった。
「よし、全員反論はないな…。この作戦はこれ以降、補給部隊捜索作戦というスレイブの正規のミッションだ!明朝6時作戦開始だ全員気を引き締めていけ!」
アルフが5人に向けて言い放つ。
「「「はい!」」」
話しを聞いていた5人はその身を奮い立たせるような返事をし、会議は解散した。
『ああ…そんなこともあったな…確かこのあと…』
と現実のアルフが思っていると、場面はその日の夜へと飛ぶ。
その時部屋の窓際で、椅子に座って月をみていたアルフは、ミッションへと逸る気持ちを必死に押さえていた。
コンコンッ
そんなアルフの部屋に木製の扉をノックする軽い音が響く。
「空いてるぞ。」
とノックに対してアルフが答えると、
「リヴィアです…ちょっと今いいですか?」
という小さい声が返ってきた。
断る理由も特にないので
「どうぞ。」
と部屋に通すアルフ。
すると扉が開いて、その小柄な少女が入ってきた。
「どうした?眠れないのか?」
部下の身を案じるアルフ。
「いえ…明日の作戦のことで。」
と顔を曇らせるリヴィア。
「街での待機、不満か?」
リヴィアの気持ちを察したのかそう質問するアルフ。
「いえ不満とかそういうのじゃなくて、ただじっとしていられなくて…私も連れていってくれませんか?」
と勇気を振り絞って願いを言うリヴィア。
アルフには気持ちが痛いほど分かった
自分も月を見て気を落ち着けているくらいなのだ。
だが、
「気持ちは分かるけどな…自分の持ち場を守れ。今回のミッションでいらない役割なんかない。その中でもリヴィアとリードは俺達が補給部隊を見つたときに、帰る場所を守る重要な役目なんだ。だから、俺達の居場所をしっかり守ってくれ。」
とアルフはリヴィアを説得する。
ただじっとしていられない
それ以外に理由の見つからないリヴィアに反論があるはずもなく、ただ黙るばかりだった。
静寂の訪れる室内。
「ふ…物は言いようだよな…。」
と気まずい雰囲気に堪えられなくなったアルフは自嘲してその場を和まそうとする。
「俺は…ただ大切な人に傷ついて欲しくないんだと思う…きっとそれだけなんだ。」
と作り笑いを浮かべるアルフ。
そんなアルフの思いを察したのか
「分かりました。街の警護は任せて下さい!私も大切な人が帰ってくるこの街を守りきってみせます!」
とだけ言うと
「それじゃあ!」
とそそくさと部屋を出て行ってしまった。
(どさくさに紛れて何てことを…)
本人に向けて“大切な人”と言ってしまった事を後になって赤面するアルフ。
作戦に少しでも疲れを残さない為に、そのままベットに横たわるとアルフは深い眠りについた。
早朝5時30分
再び会議室に集まった6人は、目的地や移動手段、弾薬や武器など細かい準備をすませていた。
「よし、全員準備はいいな…。」
アルフの号令に全員が頷く。
時報が6時を知らせる
「これより補給部隊開始作戦を発令する!ミッションスタートだ!」