第3.5話
プロローグ
人には趣味というものがある。
それは、人によってまちまちだが、人に誇れる趣味を持ち、尚且つその趣味に大会があり、それに参加すれば、自分の立ち位置もわかる。そうしたことで、自分をさらに奮い立たせ、さらに高みを目指せることは素晴らしいことだと思う。
大会がない場合でも、自分の中で発展していけば、それも素晴らしいものだ。
いずれにせよ、自分が確立すればこそ出来るものが趣味だ。趣味があること自体、いいことかもしれない。魚釣りにせよ、天体観測にせよ、ゲームにしても、料理にしても、自分が好きなものがあるということは、生き甲斐があるということで、マイナス思考になりがちな人でも趣味さえあれば、生きていけるのだ。
だが、趣味とは言え、人を苛めるだとか、人を脅迫するなどということを持っている人、というか、趣味というのは自分1人で出来るもので、楽しいことだ。人を利用した趣味は趣味とは言わない。悪徳だとか、迷惑という。
どうしてこういう思考から始まるかというと、ちゃんと理由がある。
俺こと柏木広樹は今、とある事情で病院に入院して、退院した。までは良かったのだが、石原に訳の分からない理由で、トランプのスピード大会に出場要請を受け、石原の家の庭にいるのだが……。
「ハァ……。相変わらずデカイ屋敷だな……」
まず、何度見ても驚かざるを得ないこの屋敷の大きさ。東京ドーム何10個か入るんじゃないか?
「ハァ……」
そして、その広大すぎる庭に、ポツンと存在感が消えそうに存在しているトランプの一式。
「……なんで俺がスピード大会なんかに行かなきゃなんねぇんだ」
愚痴をこぼしながら、歩いていくと、桜井、小西、坂田、狩野が俺の後ろにいることに気付く。
桜井はヤクザの若頭で、異常に強いが頭が悪すぎる。詳しくは1,5話を参考で。あと、語尾に長音記号をつける奴だ。
小西は(―ω―)←これに眉毛をつけた坊主頭のサルである。いつからか関西弁を話すようになった。
坂田は毛根を桜井に奪取され、ハゲになったこと以外スルーで。
狩野は最近飛び級してきたことが判明した天才である。言葉遣いが偉人っぽく、後ろ髪が肩にかかるくらい長い。
そんなスピード大会参加メンバーが揃い、大会出場の物語が始まる。
~石原の部屋の中~
「さぁ、早速練習しようよ!!」
「そんな時間があるというのか?」
石原の第一声に、狩野が反応する。
「えぇ~?無いの?」
お前が分からないなら、ここにいる全員が分からないと思う。
「てかよー、どうやって怪獣まで行くんだー?」
「会場だろ。俺も気になっていたんだ。石原、その辺はどうなってるんだ?」
桜井の言葉の間違いを訂正しながら、俺が石原に質問する。
「大会は北海道の札幌で開かれるんだ。今日の16時に召集がかかっているから、それまでに間に合えばいいんだよ。ちなみに交通手段は石原家専用大型ヘリコプターだよ」
それを聞いた俺は、時計を確認した小西に質問する。
「小西、今何時だ?」
「15時50分や」
「「「「………」」」」
「なぁ何でみんな黙ってんだー?」
桜井の言葉が俺の中で瞬間的に抹消される。
そんなことよりも俺の頭には、スピード大会の召集時刻に間に合う、つまり、ここ東京から北海道に10分以内で辿り着く方法を考えていた。
考えるまでもないが、そんなものあるはずが無い。
念のためにだが、石原に聞いておこう。
「オイ、クソガキ。こっから札幌までそのヘリで何分かかる?」
「大体40分くらいじゃないかなぁ」
「「「「………」」」」
「大丈夫、ちゃんと間に合うよ」
どこからその自信が湧いてくるのかと、不審に思いながら、こっちに来てと言う石原に俺達は付いて行く。
だが、あとおそらく8分程度しか時間がない。
しかも、いくら空を飛ぶとは言え、約800kmも距離がある。単純計算で1分に約100km、つまり、約100km/mもしくは約6000km/h、etc…
あー!ダメだ!間に合わねぇ!!
「ここだよ」
残り時間は6分30秒。何が大丈夫なのか分からない。が、しかし、俺は我が目を疑った。
石原が案内した場所、それはワープパネルと思わしきサークルゾーンが大量にあるところだった。
「うちの会社は地方にもたくさんあるからね。どうしてもこういうのが必要なんだよね」
じゃ、お先、と言って石原は札幌へのワープサークルに乗り、粒子化するかのように消えていった。
「オイ、坂田。お前から行け」
「何で俺だ!?」
「悪いが俺も同感だ。坂田、すまぬが了承してくれ」
「早く行けよー。殴るぞー」
「せやで、早く行かんかい」
それでもなお、坂田は食い下がらない。
「こんなもん柏木が行っても良いだろが!」
「俺になんかあったらどうするんだよ!?」
「俺だってそうじゃねーかよ!」
「大丈夫だ、坂田」←柏木
「誰もお前を必要としてねー」←桜井
「それにやな、最悪な話」←小西
「消えても誰も困ることはない」←狩野
「それお前らが安全確認したいだけだろうが!!」
クソッ、勘付きやがったか!
まぁ、この際だ。俺だってここは引き下がれねぇ!!
「いいから行け!時間がねーんだ!」
「オイ、俺は最初に行くのはごめんだ!」
「「「行けって言ってんだろーが!!」」」
“バブシ”
俺達4人に蹴られ、坂田は仰向けにワープサークルに乗っかった。
といっても、腰の辺りしかワープサークルの範囲がない。
俺達が見ていると坂田が粒子化していく。
そして、下着を含めた全ての衣服だけが残った。
「どうやら、石原のように乗らなくてはならぬようだな」
「あぁ」
「せやな」
「りょーかいー」
そして俺達は順々にワープサークルに乗ってワープしていくのだった。
坂田の衣服は、桜井が高知県の四万十川行きのワープサークルに置いていたが、おそらく問題ないだろう。
というか、ひとつ言わせてくれ。
「集合時刻、もっと早く設定しろよ!!」
~北海道札幌市の石原研究所~
「みんな着いたね」
「あぁ」
「着いたぜー」
「問題ない」
「着いたで」
「さ……寒い……」
そこで俺達は気付く。坂田が全裸であることに。
「ギャー!!変態がいるよォォォ!!」
「だ……誰がへへへ変態だバカヤロー!!しししかもお前らが裸にしたんだろうが!!」
石原の叫びに坂田が震えながら反論する。
そして、坂田は桜井に近付きながら叫ぶ。
「おおお俺の服は!!??」
「寄るなー!変態が移るー!!」
桜井は必死の形相で逃げ惑う。
「かかか柏木!助けてくれぇぇぇ!!」
「無理拒否不可能ヤダNOダメ」
全裸の人は、たとえ友人であっても助けたくない!
「狩野ォォォォ!!」
「寄るなァァァ化け物ォォォ!!」
狩野に至っては化け物扱いだ。
「こここっ小西!!」
「誰やお前?」
小西の糸目が開き、8月とはいえ、気温の低い札幌の風より凍てつく視線で坂田を射抜く。
そして、坂田は凍り付いていった。
―――――数分後―――――
あなたは、スピード大会などというマニアックなものに、どれほどの人数が参加するとお考えだろうか。
俺が思うに1チーム3人の設定上、多くても5チームしか集まらないと思っていた。
しかし……。
無駄に大きな会場に入った俺達を迎えたのは、サッカーのワールドカップもびっくりな規模の観客達だった。
それと、世界から集まったと思われる外国人多数が、自分の国の国旗と思われる旗を掲げていた。
「すごいでしょ?」
俺が観客の多さに唖然としていると、石原がさも自分のことのように言ってくる。
てか、よくよく考えたら石原ってスピード総当たり戦のとき6人中4位だったよな?出るかもしれないって言ってたけど、出る可能性ほとんどなくね?
そう俺が頭の中でぼやいた時だった。
『レディース・オブ・ジェントルメン!さぁ!今宵もその時期がやって参りました、スピード大会の幕開けです!スピードと言えば、トランプでお馴染みのあのゲーム、主に瞬発力が即戦力となるものです!瞬間を走るためにはどうすればいい!?そう、ずっと走ればいいのです!!しかし、走り始めてすらない人はどうすればいい!?いつ走ればいい!?』
“今でしょ!!”
観客がどこかのCMのノリのように反応する。
………今のって、この小説の生死問題にならないだろうか。
まぁ、きっと大丈夫だろう。有名な言葉っぽいが、ありきたりで言っていただけかもしれないし、アドリブかもしれない。
そんな第1印象を俺に与えた人は、司会兼進行役をするという赤木清と名乗った。
赤木さんが続けて話し始める。
『それでは試合のルールを説明いたします!基本的には3人1組のチーム、64チームが総当たり戦をします!』
64チームが総当たり戦?
……ってことは何試合やるんだ?
「柏木、試合の回数が気になるのか?」
俺の思考を読んでいたのではないかと思うほど鋭い狩野に俺は言い返す。
「いや、64チームの総当たり戦だと、何試合やんのかなって」
「そうか……。石原よ、貴殿はこの大会を知っておるのだから、何試合やるかなどは知らんのか?」
「え~と、ちょっと待って。63+62+61+……」
「や、やめろー!数字を言うなー!!」
石原の意図的な数列の足し算に、桜井が幽霊を初めて見て泣き叫ぶ子供のように顔を歪める。
「しょしょしょ初項が63、公差が-1の等差数列だな」
何で坂田はまだ服を着ないんだ?
発情期か?人に裸を見せたい病か?I want everyone to look my body期か?いずれにせよキモイわ。
まぁ、失神した桜井はまたすぐに元に戻るだろう。
そう思って、坂田の言った等差数列の和を出す。
項の数は一般項が1になるまでだから、63項か。
ってことは、1/2×63×(63+1)=2008試合やるということになる。
……何時間かかるんだ?1試合が1分だとして2008分、つまり約30時間か……。
……1日じゃ無理じゃね?
そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、赤木さんはルール説明の続きをする。
「追加ルールがあり、それはルーレットで決めます!カモーン、ルーレット!」
大きな声の割には普通のルーレットが出てくる。TVとかで見る、あのサイズぐらいだ。
『このルーレットは特別製!数字は1,2,3のどれかしかありません!そして、数字の高い方がハンデを勝ち取れるのです!ちなみに同じ数字の場合、ハンデはお互いにありません!』
要するに、3を取れるようにすればいいんだな。
そう思ってルーレットを覗き込む。
……見たままを解説しよう。
転がる玉が入る所は84箇所。数字の1の所は全部の2分の1で42箇所。2の所は3分の1で28箇所。3は残りの14箇所だが、何でだろうか、玉が入る所が1,2よりも遥かに小さく見える。
あからさまに驚愕している俺をそのままに、赤木さんはまたも話を進行させていた。
『では第1試合、日本vsアフリカ!』
アフリカのどこの国だ!!
「どないすんねん。ハンデが取れるかどうかにこの試合はかかってるようなモンやで」
「ハンデって結局なんだったんだ?」
聞いてなかったので小西に聞いてみる。
「ルーレットで出た値を勝っている数値、1なら2分の1に、2なら4分の1にカードの枚数を減らしてもらえるんやて」
マジかよ。
「で、結局は誰が出るの?」
石原のその言葉に、全員が項垂れる。
しばしの沈黙の後、狩野が口を開いた。
「では、柏木、小西、俺と一緒に参るぞ!」
まだ誰も何も一言も全く喋ってないんだけど。何でこうも狩野はマイペースなんだろうか?
ルーレット近くに行くと、アフリカのどこかの国であろうチャイナ服の人達が待ち構えていた。おっさんが2人、若い女が1人だ。女と目が合うと、にっこりと微笑んでくる。
俺はこういう女は信用できねぇ。
……ってかさ、チャイナ服って……。
「君達ハ、私達ニ勝テナイアルヨ!私達中国代表ニハネ!」
アフリカですらねぇじゃねぇか!!
「オイお前!」
小西が赤木さんに向かって叫ぶ。
「地名ですら完全に間違えてるやんけ!こんなん今時の桜井にでも分かるわ!」
「分かるわけねーだろー!」
桜井の否定に俺が叫ぶ。
「自分で否定すんな!」
『まぁ、何はともあれ!日本vs中国、ルーレットによるハンデから始めます!』
大会の進行補佐役と思わしき人が、俺達にルーレットの玉を渡してくる。
俺、狩野、小西がひとつずつ受け取ると、中国代表3名も受け取った。
「では、誰が最初に行くのだ?」
狩野が聞いてくる。
俺が思うところ、このゲームは小西の言う通り、このルーレットによってほとんど勝敗が決まる。となると、やはり最低でも2の所に玉を入れなくてはならない。ただし、その確率は28/84、すなわち3分の1な訳で、じゃんけんで勝てるかどうかの確率だ。
そうなるなら、もうじゃんけんでよくね?そう思っていると、俺が背中を押された。
「最初はもちろんコイツで決まりやろ。柏木は運が良さそうやし」
「勝手に思い込むな。負けても仕方ないで済ませよ?」
「いや、貴殿が負けるということはあり得ない」
狩野が意味の分からないことを言ってくる。
「実は先程、観客からのヒソヒソ話が聞こえてな」
お前どんだけ聴力発達してんだよ!
「その話によると、観客からの妨害はありらしい」
なしだろ!!
「そういうことだ。貴殿は妨害など気にせずゲームを楽しめばいい」
楽しめないんですけど!そんなこと目の前でやられたら、いくらなんでも気を遣うんですけど!
俺は、観客席にいる石原と桜井に目を向ける。
「うんめー!」
「おいしいね、これ!」
そば食ってやがる!
『それではルーレットスタート!』
勝手に進行すんな!
俺が文句を言ってやろうと、赤木さんを探すと、それよりも先に対戦相手が目に映った。俺に笑いかけてきた若い変な女だ。
チャイナ服のふとももの裂け目をへその少し上辺りの高さまで開け、首元のつなぎを限界まで解き、かなり肌を露出させている。
そんなもんに俺が魅了されるとでも思ったかクソ女!俺はな、自慢じゃねぇが、これまで異性に興味を持ったことがないんだよ!故にエロチックな方向に一般男性より興味がないんだよ!
俺は「アハーン」とか「ウフーン」とか言ってくる目の前の女に、聞こえるように舌打ちをすると、回っているルーレットに玉を転がした。
結果1。
死にたくなった。
俺以外の人間みんな死ね。
しかも、中国代表の女は、どうやったか3を出し、最早俺に勝ち目がないと見えた。俺に勝機があるとするならば、中国代表の女のおよそ2m真上でそばを食っている桜井に賭けるしかない。
赤木さんにより、トランプの枚数を4分割された中国代表の女が笑いながら言ってくる。
「コレデ私達ノ勝チデスネ」
「……知るかよ」
『それでは!日本が黒、中国が赤です!スタート!!』
“パァァァン”
会場内に響く銃声音。それに驚かず、山札のトランプから1枚ずつカードを出す俺達。
俺の1枚目、黒の1。
2枚目、黒の1。
3枚目、黒の1。
4枚目、黒の1。
「誰が仕組んだんだぁぁぁぁぁ!!!!」
おかしい!スピードと言えば、赤と黒にそれぞれ分けてやるはずだ。だから同じ数字は2つずつのはずなのに、何だこれは!!
『両者トランプを出しましたね!?では、スピード!』
掛け声はアンタがやるんかい!しかも俺の持ち札に何のフォローも入れないのか!?
そう思いながらも、俺は山札の一番上からカードを取ると、それを俺と中国代表の女の間に置く。
女の出たカード、赤の6。
俺の出たカード、黒の1。
「何でだぁぁぁぁぁ!!」
これ、まさか俺の山札全部黒の1か!?絶対あがれねぇぞ!!
そう悟った直後、何もめでたくないのに、俺の後ろから紙吹雪が到来した。
それを直視できないのか、露出女は顔を自分の手で覆う。
俺は何が起こっているのか分からず、キョロキョロしていると、嫌がおうにも状況を理解させられた。
観客席に押し込められていたはずの観客の8割がこの試合を妨害しているのだ。
その中に、小西、狩野も混じっている。
どうしていいか分からず、あたふたしていると、俺の右に俺を本気で殴り飛ばそうとしている黒人がいた。
「え!?ちょっと待っ」
「Get out away!!」
黒人の拳が、俺に届く寸前、ラーメンどんぶりのようなお椀が真上から大量に降ってきた。
「No way!!」
流星群ならぬどんぶり群を喰らい、黒人はダウン。
そして俺が真上を見ると、案の定、桜井が食い終えたそばのどんぶりを投げつけまくっている。しかも、器用にも食べながら。
それから先程から吹いている紙吹雪。全部トランプのジョーカー。
「もらった!!」
その試合、ジョーカーと黒の1を1枚ずつ、つまり2枚1セットで出し続け、露出女は何も出来ずに、あるときはどんぶりに当たり、あるときは紙吹雪に吹かれ、あるときは、どこで新調したのか知らないが、服を着た坂田にセクハラされていて「してねーよ!!」……。
坂田にセクハラされていて「何聞いてない振りして再編集しようとしてんだ!!」……。
坂田に襲われていて「しつけーよ!!」何もできていなかった。
第1試合。柏木広樹、勝ったり!
続いて小西が出る。
「行けー小西ー!負けたら埋めるからなー!」
「負けたら全国に好きな人ばらすよ!!」
桜井と石原の激励を背に、冷や汗をかきながら小西はルーレットに玉を転がした。
結果2。
そして、相手も2。
『おぉ!両者が2とはハンデなしですねぇ!』
赤木さんは誰も反応していないのに健気に解説を試みる。
小西と、中国代表のおっさん1がそれぞれの山札から4枚カードを出した。
今回は俺のように黒の1だけでなく、カードが全部揃っていいるようだ。
『それでは参ります!スピード!』
赤城山の“ド”が言い終わった瞬間、小西は恐ろしい速度でトランプを捌き始めた。
そして、例の如く観客からの妨害が入る。
俺の時は相手に向けたジョーカーの猛烈紙吹雪だったが、石原はそれでは温いと判断したんだろう、消防用のホースから水を噴射し相手の選手を吹っ飛ばした。
小西も小西で空中からウニが大量に降ってきていて、自由に行動できない。
……ウニ落としてるの桜井なんだけど。
「クソッ!水が切れちゃった!」
石原のその言葉に、観客は石原に襲い掛かる。
その時だった。
石原の少し離れた横側で、坂田がバズーカのようなものを構えており、撃ったのだ。
中から人工のクモの巣と思しきものが大量に発射され、石原の周りの攻撃者をきれい捕まえた。
「いってーーーーーー!!」
しかし、坂田が絶叫する。
そりゃそうだろう。アニメなどでは分かりにくいが、現実世界では作用・反作用というものが存在する。
簡単に言うと、壁を殴ったとき、殴った力と同じ力で壁から力を受けているということだ。
あと、水の上でボートに乗って、他のボートを押すと、互いに離れていっていく。
こんな感じの法則なのだが、坂田はあれだけの人口クモの巣を撃ち出した。それほど距離が離れていないとはいえ、坂田が肩に受けた力はとても大きいだろう。
もし、仮に坂田がバズーカを支えていなかったら、バズーカが発射するものと反対の方向に吹っ飛んでいくだろう。その力を坂田は支えたことになる。
以上、作用・反作用の法則だ。テストに出るから覚えて置くように。
まぁ、そんなどうでもいい法則はよしとして、小西は順調にカードを出し進め、安定した勝ち方をした。
3人マッチのルールから、2勝したので日本の勝利だ。
だが、こんなことを延々とやるくらいなら、帰りたくなってきていた俺、小西、桜井、狩野は脱走を図るために集まった。
「オイ、どうやって帰るよ?」←俺
「それが分かったら苦労しないっちゅうねん」←小西
「そういやよー、石原の別の家的な所からワープしないと戻れないんだろー?」←桜井
「しかし、この会場の出入り口は閉まっておるのだぞ?石原の別の家的な所に着くにしても、この会場を抜け出さなければならないだろう」←狩野
「そんなもん百も承知だ」←俺
「何か手は打ってあるんかいな?」←小西
「桜井、壁を破壊してくれ」←俺
「りょーかいー」←桜井
「なるほど、その手があったか」←狩野
そして俺達は、石原に何も告げずに会場を去ったのだった。
後日談
次の日の新聞にこんなことが載っていた。
“スピード世界大会、優勝者は全裸”
その題名を見て、朝のカフェオレを吹き出してしまった。
「まさかとは思うが……」
写真を見ると、全身武装のクソガキ、石原誠と、理由は良く分からないが全裸の変態、坂田学が載っていた。
さらに、帰ったはずの桜井も写っており、何がなんだか分からなくなってきた。
俺はその新聞を何事もなかったかのように閉じ、準備に取り掛かった。
おおっと、回想なのに主語抜けとはいただけない。
修学旅行の準備だ。なんでも、穴場中の穴場らしく、客がほとんど学生しか来ないといい、しかも料金が割安の旅館があるらしい。
ただ、その穴場の理由もちゃんとあるらしく、なんだったかなぁ、確かなんかの昔話がこの時期本当の話になってしまうらしい。
ほら……アナタの後ろにも……幽霊は入るんですよ……。
そんなノリで過ごしていける所だろう。
ここからは自論だが、俺は幽霊なんていないと思ってる。見たことがないってのもあるが、そもそも存在自体が怪しいのに信じる人もいるのがおかしい。
大体、死んでからどこに行くかも分からないのに、やれ輪廻転生だ、やれ生まれ変わりだ、やれ呪いだのとのたまっている学者のなんと多いことか。
「全く、物理的且つ化学的根拠を並べて、理論で通るようにして欲しいよな」
俺は、逸れていた思考を再び修学旅行の準備へと戻す。
なるようになる。
悩むより、前に進む。
ぶつかってから考える。
自分の掟で生きる。
幽霊ってそんなことが出来ていたのかな?
まぁ、俺が何を考えようと、それが俺の価値観だってだけで、他の人は違うだろうし、俺も同じようになれと強要するつもりも、義務もないわけでって何考えてんだ俺は。
とりあえず、要するにアレだ。幽霊になろうとなるまいと、死んでこの世に未練があろうがなかろうが、死んでこの世に残ろうが残るまいが、自分に後悔しないように、自分に嘘をつかないように、自分に合う道を選んで進んでいこう。
誰かと一緒でもいい。
それが、人間ってもんだろ?