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女子寮前・50メートルの攻防  作者: 青葉盛生
2/10

寮坂の50メートル

雨の夜から数日後。春の風に混じって、街には新歓のにぎやかなポスターが貼り出されていた。


新月寮の前、踏切のカンカンという音が、夕暮れのテンポを決めている。

悠人は車を寮坂の手前に止めていた。


あれから何かが変わったわけではないが、気づくと彼女――遥のことを考える時間が増えていた。


「アッシーじゃなくていい。ちょっとだけ話がしたいだけで」


そんな思いが、アクセルに乗るまでには至らず、ただ窓を開けて外気を感じていた。


すると、坂の下に姿を現した遥は、思ったよりも早く彼を見つけたようだった。


「また……乗せてくれるの?」


その声には、あの夜と同じ“迷い”が混じっていた。でも、その迷いの輪郭は、少しだけ柔らかかった。


「乗ってく?」と悠人。窓越しに笑顔を見せながら。


「うん。でも、ちょっとだけ、遠回りしてもいい?」


車は寮坂をすっと通り過ぎ、線路沿いの道に向かった。そこは、学生街には珍しく静かな通りだった。


「ここの桜、好きなんだ」遥が言った。車窓から見える一本の樹が、まだ五分咲きだった。


「門限、間に合う?」悠人は小さく聞いた。


「今日は……ルームメイトが鍵持ってるから。ちょっとなら平気」


ゆっくりと走る車内には、あの日の雨の音ではなく、春の匂いとエンジンの微かな鼓動が流れていた。


信号で停まったとき、遥は助手席の傘を指して言った。


「あの日、ほんとに助かったんだよ。あんな偶然、ないよね」


悠人は小さく笑い、「偶然じゃなくて……たぶん、タイミングだと思う」とつぶやいた。


その言葉に、遥がどんな表情をしていたかは、信号が青になってすぐに動き出したため見逃してしまった。


ただ――あの50メートルの寮坂が、ふたりの距離感を測る定規になった気がした。



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