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記憶の底  作者: 56号
9/26

第九話  二つの現実


翌朝、ホテルの部屋で目を覚ました神谷諒一は、無造作にテレビのリモコンを取った。

ニュース番組では、政治コメンテーターが熱く語っていた。


しかし、画面に映っていたのは、昨日自分たちが参加した平和イベントではなかった。

トップニュースを飾っていたのは――


「防衛費、ついにGDP比2%に迫る」


政府の次年度予算案において、国防費が過去最大となり、いよいよ“2%”の大台を視野に入れたという。

その数字が、センセーショナルに画面に踊っていた。


ワン大統領が十年前に広島を訪れたとき、あれほど“平和”が叫ばれていたはずだった。

その彼の名を出して、テレビのコメンテーターのひとりが言い放った。


「これはワン大統領の功績に逆行する、大罪とも言える動きです。

 “祈りと和解”を掲げておきながら、裏では武器を磨く――そんな国に、未来はないでしょう」


言葉は鋭く、感情に訴える調子だった。

スタジオの空気が重たくなる。

他の出演者たちは、口をつぐんでいた。


神谷は、静かにリモコンに手を伸ばした。


ピッ。


画面が暗くなる。

部屋のなかに、静寂が戻る。


**


――平和と、現実。

そのあいだに横たわる亀裂は、思ったよりも深い。


昨日、自分の足で歩いた平和公園。

語り部の声。祖母の記憶。手のひらの冷たさ。

あれらは、確かに“本物”だったはずなのに。


なのに今、メディアが映し出すのは、

数字と議席と、他国の脅威におびえる評論ばかりだ。


神谷は、ソファに深く座り直し、天井を見上げた。

そこには何の映像も言葉もない。


「……なあ、ばあちゃん。

 “平和を守る”って、どうすればいいんだろうな」


誰に聞かせるでもない声が、静かな朝の空気に溶けていった。



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