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記憶の底  作者: 56号
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第三話 八月の風

その晩のニュースは、どのチャンネルも、リチャード・ワン大統領の広島訪問一色だった。

「歴史的瞬間です」「平和への強いメッセージ」――キャスターたちは口々に称賛の言葉を並べた。

一方で、地方都市のとある市長が、ワンという名前が日本語の“一”に似ていることにこじつけて、

「“ワン(ONE)まんじゅう”なる新名物を開発中です!」と満面の笑みでインタビューに答えていた。


「この話題性を活かして、地域活性化を――」

市長の声が軽やかに響くテレビの画面を、神谷諒一はむすっとした表情で見つめていた。


「くだらねえ」


ぼそりと呟いて、リモコンを押す。画面が真っ暗になると、部屋は一気に静けさに包まれた。

諒一はソファから立ち上がり、窓を開けた。

風呂上がりの火照った体に、夜風が気持ちよく吹き抜ける。


遠くで、虫の声がかすかに聞こえた。


広島。

戦争。

原爆。

黙祷。


それらの言葉が、どこか薄っぺらく、型どおりの儀式のように思えてならなかった。

どれだけ花を手向けようと、黙って頭を垂れようと、それで何が変わるというのか。

そしてなにより――


「俺には、あの夏のことなんて、分からない」


ぽつりと、誰に向けるでもなく呟いた。


それは、自分の無知への苛立ちでもあり、

過去に触れることをどこか恐れている、自分自身への言い訳でもあった。



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