表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
記憶の底  作者: 56号
2/26

第二話 両親との語らい

その夜、早苗は静かに灯りを落とした。

テレビも消して、空調の音だけが微かに響く。

車椅子をそっと移動させ、小さな棚の前に向かう。

それは“仏壇”というにはあまりにささやかで、飾り気のないものだった。

けれど、早苗にとっては、両親と語り合う大切な場所だった。


手を合わせる前に、棚の上に草餅をそっと置く。

父がいつも「これは餅じゃなくて草のごちそうだ」と笑っていたのを思い出す。

その隣に、母が好んだ薄紫の紫陽花を添えた。

いつも庭に咲くたび、母は「この色がいいのよ」と花びらを撫でていたっけ。


両親の遺影はない。ただ、古びた箸と湯呑みが置かれている。

思い出がそこに宿っているようで、それで十分だった。


「おとうさん、おかあさん」


小さく、けれどはっきりと声に出す。


「早苗、がんばって生き抜きました」


手を合わせたその姿は、子どものようでもあり、百年を生きた者のようでもあった。


「……そろそろ、そっち行っても許されるよね」


言葉は、ほとんど息のようだった。

静けさのなかで、紫陽花の影が揺れた。


それは、返事のようでもあった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ