磔刑の神
とある神社で二人の恋人が話し合う。
「ここが幸せを呼ぶ神社?」
「ああ。ここの神様は人間が大好きなんだって」
「そっか。なら、私達の幸せも神様がずっと守ってくれるのね」
そんなことを話しながら二人は仲睦まじそうに歩き去る。
本当に幸せな様子で。
さて、そんな様子を見つめながら神社に潜むモノは舌打ちをする。
「何が神様だ? 何が幸せを呼ぶ神社だ?」
彼が苛立つのも当然だ。
何せ、彼は遥か昔にこの場に突如現れた人間に捕らえられ、無理矢理神様とされたのだから。
そのような経緯もあり彼は人間が嫌いだった。
可能なら滅ぼしたいくらいだった。
しかし、それはしなかった。
何故なら、そんな事をすれば辛うじて残された命も、この場所も奪われると知っていたからだ。
だからこそ、彼は今訪れた恋人達にも幸せの加護を授ける。
もうこれ以上奪われないために。
「くそ!」
彼は苛立ちながら舌打ちをする。
彼は人間よりも賢かったから、何故このような状況にいるかも分かっているのだ。
他者を不幸にして、自らの幸せを臆面もなく望むことが出来る……そんな恥知らずだからこそ、人間は世界の王となれたのだ。
そう理解しているからこそ、彼は苛立ち続けるのだ。
しかし、最早、どうしようもない。
「ちくしょう……」
こうして、彼は今日も神社に囚われていた。
形ばかりの神の名を与えられて。
そんなことを知る由もなく、今日も神社には幸せを求めて人間が足を運び続けた。