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思いの向こうに

作者: なおみ

朝の日光が窓から届いて、部屋の中が段々と明るくなっていく。

ルーニャは目を薄っすらと開けて、隣を見た。

いつもある夫の姿がないのに気づき、目を覚まし、体を起こす。

彼が寝ていた跡を触ると、もう暖かさは残っていなかった。

「……」

心にまた一つ、曖昧な寂しさ、苛立ち、悲しみが混じった感情が積もる。


ベッドから降りて、身支度をする。

気分を晴らす為に、結婚のとき夫からもらった耳飾をつける。

それは金と宝石で作られている品のよい物で、ルーニャは気に入っていた。

つけると、もらった時嬉しくてたまらなかった私を思い出す。


ちゃらり、と耳飾を揺らしてリビングに向かうと、彼――――アキスはいた。

水浴びをした後らしく、上半身が裸だった。

彼は私に気づき、「おはよう、ルーニャ」といった。

「おはよう、アキス。…水浴びしたのね。寒くなかったの?もうすぐ夏だけれど朝はまだ寒いわ」

「大丈夫だよ。浴びたい気持ちだったんだ」

アキスは「着替えてくる」と言って、寝室に向かった。

ルーニャは朝ごはんを作ろうと思って、外に向かった。

庭で鶏が産む卵をとり、配達されるミルクとパンを取り、また戻った。

いつもの朝ごはんを作っている間、ルーニャの頭にはアキスの男らしい筋肉がたくさんついた上半身がちらついていた。

アキスは力仕事である建設の仕事をしているのと、若いのもあって、彫刻みたいな体をしていた。

ルーニャはアキスの胸にもたれて、眠るのが好きだった。

今は無いけれど。


「できたか?ルーニャ」

アキスが戻ってきた。

「ええ。いまから、皿を持っていくわ」

「俺も運ぶよ」とアキスは言い、私が持っていた皿を持っていった。

アキスは優しい。けれど、今の私にとっては残酷だ。

残りの皿を持っていき、二人で食べ始める。


「もうすぐ、王城の一部の再建設が始まる」

とアキスが言った。

「そうなの。あなたも行くの?」

「ああ、かなり大事な役を任せられた」

「まあ…じゃあ、帰りは遅くなるのね」

「ああ」

アキスの顔からは何も読み取れない。

「わかったわ。待ってい…」

といいかけた時、アキスから「先に寝ていていいからな」といわれた。

ルーニャは、少しの驚きと悲しみが心に迫るのを感じた。

「でも……」

アキスは少し目をそらして、

「いいから。無理しなくていい」

といった。

心にまた一つ嫌なものが、積もっていく。

「そう…わかったわ」

アキスはちょうど食べ終えて、立って仕事に行こうとした。

私はアキスに私の求める心を知ってほしくて、言葉をもらした。


「そろそろ子供がほしいわ」


アキスは止まり、私のほうを見ないで、言った。

「いつかな…」

そして、出て行った。


むなしさが漂う中、朝ごはんの後片付けをして、リビングのソファにもたれる。

「結婚したばかりのときはよかったなぁ…」

彼は私を求めていてくれていたのに。

愛してくれていると実感できたのに。

少し泣きそうになる。アキスは、結婚して一ヶ月くらいから私を求めるのをあまりしなくなった。

私が求めたらしてくれたけれど彼からのがないのが空しくなり、一ヶ月前から私からもしなくなった。

結婚して半年。

「私に魅力がないからかしら」

「気弱くなってるねー」

若々しい少年の声が聞こえてきた。すぐさま、声がした方向を見た。

やっぱり、と思った。

「ルアン。また来たの!」

金髪でかわいらしさが残る少年の顔をもつルアンが、にっこり笑う。

「うん。久しぶり~。ルーニャを慰めてあげようと思って来た」

そして、私の隣のあいている所に座った。

「前振ったのに、それでも来るなんて思わなかったわね」

ルアンが家の中に入ってきたのは、一ヶ月前から。

一応家には魔力による防御を張られているが、

ルアンは国の中でも高い魔力を持っており、入ってこられるのだ。

初めはびっくりしたが、彼が何もしないし、魔力があるの他には一応普通の少年だった。

そして高い位にいるとわかった。

この国では、高い位であり魔力を持ってる者は、国の内情を知るために庶民の家を訪れるのは結構あるからだ。

ルーニャは慣れて、少し楽しみにもなっていた。およそ毎日来ていた、一週間前まで。

およそ一週間前に、

「僕さ、ルーニャとなら結婚してもいいと最近思うんだ。これって、恋だよね」

とルアンにいわれた。早急に断ったけれど。そしたら、

「でも、アキスと仲はよくないんでしょ。僕なら毎日してあげるよ?」

と言って美しい顔を近づけてキスをしようとしたので、当てはめられた恥ずかしさとパニックで、

「出て行けー!変態少年がぁ!」

と言ってしまった。それからこなかったのに。


「うん。やっぱりルーニャが好きだと思ったから」

リオンはまたにっこり笑った。

「応えてあげられないのに」

「いつかアキスに飽きるかもしれないじゃない。そん時は、僕のとこに来てね」

とウインクされた。「それに、そのときは僕もハンサムな男になっているだろうし」

「そうね……」

楽しいだろうな、とは思う。リオンのような自由奔放な少年、いや、男と生活していったら。

リオンは少し鋭く笑って、「今からでも歓迎するよ」と言った。

私は曖昧に笑ってごまかす。この関係を壊したくなくて。

「言っておくけど、僕それなりに高い位置にいるから、ルーニャが人妻でも娶れるよ?」

とリオンは冗談半分、本気半分に言ったようだ。

「そこまで私を気に入ってくれて嬉しいわ。でも、別の女を捜したほうが早いわ」

私は、やっぱりアキスを愛しているから。

愛してくれなくても、愛しているから。

「ううん、ルーニャが振り向くまでここに来るよ。じゃあ、そろそろ時間だから、またね」

とリオンは私の頬にキスして消えてしまった。

その頬に手を添えて、思わずつぶやいた。

「……これって浮気になるのかしら」


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