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樹里ちゃん、五反田邸に戻る?

 御徒町樹里は、居酒屋と喫茶店と新聞販売所と探偵事務所で働くメイドです。


 どのお店も、樹里のおかげで大繁盛……のはずなのですが、杉下探偵事務所だけは閑古鳥すら鳴かないほど寂しいです。


 


 そして、その探偵事務所です。


「また今日もお仕事ないの?」


 仕事があってもしたくない宮部ありさがうわ言のように言います。


「お前は仕事がないのが嬉しいんだろ?」


 所長の椅子に沈み込んで、左京は言いました。


「じゃあさ、私と秘密のお仕事、する?」


 ありさが妙に色っぽい顔で迫ります。


「バ、バカヤロウ、何考えてるんだ!?」


 左京は真っ赤になってありさから離れました。


「何想像してるのよ、左京ったら。嫌らしいんだから」


 ありさは嘲るように笑いました。


「じゃあ、秘密のお仕事って、何だよ?」


 左京は椅子に戻って尋ねます。ありさは左京の机にドンとお尻を乗せて、


「某大学の付属病院の霊安室の清掃」


と顔を下から懐中電灯で照らしながら言います。


「わあ!」


 左京はその顔に驚いて椅子から転げ落ちます。


「失礼ね、こんな可愛い顔に驚いたりして」


 ムッとするありさです。


「ほとんどご遺体はないんだけどね」


 何故か嬉しそうに話すありさに身震いする左京です。


「俺、そういうの苦手」


 ありさは左京の態度に呆れます。


「元刑事が、遺体を怖がってどうするのよ? 恥ずかしいわ、元同僚として」


「お前にだけは言われたくない!」


 左京はバンと机を叩きます。


「それから、そのでかいケツを机から下ろせ!」


「触ってもいいわよ」


 また色っぽい顔で言うありさです。


「誰が触るか!」


 左京が真っ赤になって怒ります。


「相変わらず、暇そうね、左京」


 そこへ、警視庁の神戸蘭警部が来ました。


「あんたも相当暇ねえ、蘭?」


 ありさが蘭を睨みます。この二人、仲がいいのか悪いのか、設定資料にも書かれていません。


「左京、警視庁さくらだもんに戻りなさいよ」


 蘭はありさを無視して言います。


「またその話か? 戻らないよ」


 左京は蘭に背を向け、窓の外を見ます。


「樹里も、もうすぐ五反田邸に戻るんでしょ? そうしたら、ここも続けられないわよ」


 蘭は更に説得を続けます。


「樹里がどこで働こうと、俺は探偵事務所を続ける」


「意地っ張りね」


 蘭が呆れて言いました。


「うるせえ」


 左京はまだ外を見ています。


「ありさだって、ここを閉めたら困るだろ?」


「全然」


 ありさのあまりにもあっさりとした返事に項垂れる左京です。


 


 その頃、樹里は成田空港で五反田六郎氏を出迎えていました。


「お戻りなさいませ、ご主人様」


 樹里は深々と頭を下げます。


「悪いね、御徒町さん。情報によると、結婚したそうだね? おめでとう」


 五反田氏は何でも知っているようです。


「ありがとうございます」


「ご主人は探偵事務所を開いているそうだね?」


「はい」


 笑顔全開で答える樹里です。


「あまり繁盛していないと聞いたが?」


「はい」


 それにも笑顔全開で答える樹里に、五反田氏は顔を引きつらせました。


「更に調べてもらったのだが、仕事の大半は、君のお陰で解決しているようだね。君が抜けると、事務所は立ち行かなくなるのではないかね?」


「大丈夫です。お手伝いは続けます」


「それでは君の休みがなくなってしまうよ」


 五反田氏は樹里のあまりにもパワフルな仕事ぶりを心配しているのです。


「そうか。まあ、その話はまた後でゆっくりしよう。行こうか」


「はい」


 二人は迎えのリムジンで、世田谷にある五反田邸に行きました。


 


 説得を諦めた蘭は、警視庁に帰って行きました。


「やっと二人きりになれたわね、左京」


 ありさがまたにじり寄ります。


「お前、今日おかしいぞ? どうしたんだ?」


 左京は椅子から立ち上がって身を引き、尋ねました。


「左京が元気ないから、励ましてるのよ」


 ありさは笑顔全開ですが、どこか狡猾に見えます。


(何を企んでいるんだ、こいつは?)


 左京も油断していません。その時、左京の携帯が鳴りました。樹里からです。


「おう、どうした? え? 五反田邸? あ、そうか」


 途端に動揺が背中から浮き出して見える左京です。


「お、おう、そうか、わかった。帰りが遅くなるので、そのままアパートに戻るんだな? ああ、構わないよ、全然」


 見苦しいほど狼狽える左京です。ありさは肩を竦めました。


「ホントに大丈夫なのかしら?」


 左京は携帯を切ると、ありさがいるのも忘れて、


「樹里ー!」


と寺内○太郎一家のお婆ちゃんのように叫びました。


 


 めでたし、めでたし。

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