樹里ちゃん、ドロントと久しぶりに対決する
御徒町樹里は既婚者ですが、居酒屋と喫茶店と新聞販売所で働くスーパーメイドです。
どこかの妙なお店で働く偽者と違い、世界メイド協会の認定する国際免許を取得しています。
但し、その世界メイド協会の本部は東京の秋葉原にあります。
いつものように樹里が居酒屋で働いていると、ドロントの部下のキャビーがOL姿で現れました。
「いらっしゃいませ、キャビーさん」
樹里は笑顔全開でお出迎えです。
「樹里ちゃん、声が大きいよ」
キャビーが焦ります。
「そうなんですか」
樹里は尚も笑顔全開です。
「いらっしゃいませ、キャビーさん」
今度は耳元で囁きます。
「ああん」
耳が弱点のキャビーは喘いでしまいました。
「って、違うって!」
ハッと我に返り、切れるキャビーです。
「そうなんですか」
樹里はそれでも笑顔全開です。
そして、キャビーは奥の個室に通されました。
「ご注文は?」
先日、キャビーを「子供扱い」した店長が、呼んでもいないのに名誉挽回のために現れます。
「消えなさい」
キャビーにそう言われ、店長は泣きながら去りました。
「首領からの伝言を伝えるわ」
キャビーが真面目な顔で言います。
「酒量ですか?」
「違うわよ!」
キャビーが樹里のボケに気づき、すかさず突っ込みます。
「私達は、明日の午後十一時に、国立近代博物館にある恐竜の化石を頂くわ」
「国立市には、博物館はないですよ」
樹里の途方もない反則ボケにキャビーは項垂れます。
「と、とにかく、この予告状を貴方の旦那に渡して」
キャビーはこれ以上何か聞くと暴れてしまいそうな予感がしたので、樹里に予告状を渡しました。
「そうなんですか」
こうして、キャビーは「樹里ちゃんスペシャル」を食べて、居酒屋を去りました。
「樹里さん、あの子の家、知ってる?」
店長がこっそり尋ねます。
「知りませんよ」
樹里は笑顔全開で答えます。
「そうかあ。今度はいつ来るのかなあ」
店長はキャビーに惚れてしまったようです。
ロリコン伯爵です。
「誰が日に向かいし時告ぐる山羊だ!」
店長が切れます。シリーズが違うので止めて下さい。
こうして樹里は、仕事を終えるとアパートに戻り、左京に予告状を渡しました。
「まだあの貧乳、泥棒を続けているのか」
左京は予告状を見て溜息を吐きます。
「面倒臭いなあ」
左京はやる気がありません。
「左京さん、そんな事だと離婚ですよ」
「え!?」
左京は樹里のその発言にギョッとします。
ふと樹里を見ると、宮部ありさの生霊が取り憑いています。
「ありさ、てめえ!」
「にゃはは、久しぶりに幽体離脱してみたのよん」
ありさは逃亡しました。
「でも、ありささんの言う通りですよ。仕事はきちんとして下さい」
樹里が真面目な顔で言ったので、左京は、
「はい!」
と正座して返事しました。意外に尻に敷かれているようです。
そして翌日の夜十一時少し前です。
博物館の周囲を機動隊員が固めています。
博物館の中の恐竜の化石の展示コーナーの前には、館長と左京、樹里、ありさ、神戸蘭がいます。
「こんなものを盗んで、どうするつもりなんだ、あの貧乳は?」
館長がいるのに「こんなもの」とか言ってしまう左京です。
「こんなものですが、マニアなら、一億円でも買うほどのものですよ」
館長はムッとして言います。
「ほう、世の中には物好きがいるんですねえ」
それでも気にしない左京です。
その時です。
「おーほっほっほ!」
ドロントの素っ頓狂な笑い声が聞こえます。
「出たな、貧乳!」
左京が天井を見渡します。
「久しぶりね、皆さん。今日こそ、頂いちゃうわよ」
「そうはいかないわ!」
蘭が機動隊員を動かし、化石の周囲を固めます。
「防毒マスク着用!」
蘭と機動隊員はマスクを被ります。
「どうよ!」
蘭が胸を張って言います。
「相変わらず、無駄に巨乳ねえ、神戸警部。残念でした」
ドロントの声が言います。
「何?」
マスクの中に睡眠ガスが吹き出します。
「マスクに細工をしておいたのよ、おバカさん」
「く……」
蘭達は全員眠ってしまいました。
残ったのは、館長と樹里と左京とありさです。
「御徒町樹里、貴女の弱点、調べたわ。これでも食らいなさい」
天井からたくさんグミが降って来ます。
「何よ、これ?」
ありさがドサクサに紛れて左京に抱きつきます。
「効きませんよ、ドロントさん」
「え?」
樹里はグミに反応していません。
「私は、竹之内璃里。樹里の姉です」
「何ですって!?」
ドロントは仰天しました。
「ええい、作戦変更よ!」
ドロントと仮面を着けたヌート&キャビーが現れ、化石のそばに舞い降ります。
「そうはさせません」
璃里が飛び上がり、ドロントに立ちはだかります。
「どうして樹里と入れ替っていたの!?」
ドロントは動揺して尋ねます。
「貴女はここ何日か、樹里の弱点をネットで調べていましたよね。私の夫の一豊がその動きを掴んでいたのです」
「く!」
しかし、その間にキャビーとヌートが化石を梱包して持ち去ります。
「こら、待て!」
左京とありさがそれに気づき、追いかけます。
「そうはイカの○玉よ!」
キャビーが凄い事を言います。
「キャビー、恥ずかしいわ、私」
一緒に逃げているヌートが赤くなります。
「じゃあね!」
ドロントは煙幕を張り、璃里から逃げます。
「待ちなさい!」
璃里が出産から間もない人とは思えない身のこなしでドロントを追います。
「樹里と違って、動きが機敏ね。今度から、貴女をマークさせてもらうわ」
博物館の外に出ると、ドロントはハンググライダーを出し、飛び立ちます。
周りには、眠らされた機動隊員がゴロゴロしています。
「化石は頂いたわ、皆さん。今年は私達の勝利で始まったわね」
ヌートとキャビーは、箱詰めした化石を息を切らせて運んでいます。
「連中、諦めたみたいですよ」
二人は建物の陰に隠れ、一休みです。
「重いですねえ、これ。腰が痛くなっちゃった」
キャビーが愚痴ります。
「そうなんですか、重くて申し訳ありません」
その声にギョッとするヌートとキャビーです。
「よいしょ」
箱を破って樹里が出て来ます。
「えええ!?」
仰天するヌートとキャビーです。
「自分では軽い方だと思っていたのですが、もう少し痩せた方がいいですか?」
樹里が笑顔全開で尋ねます。パトカーが近づいて来る音がします。
「逃げるわよ、キャビー!」
「はい、ヌートさん」
二人は樹里を残して逃げ去りました。
「さようなら」
樹里がサイレン音を発しているスマートフォンを持って手を振ります。
こうして、またしても対決は樹里の勝利に終わりました。
左京は璃里の登場に驚いています。
「いつ入れ替ったんですか? 全然気づきませんでした」
「お出かけのキスをした後ですよ」
璃里が笑顔で言います。左京は赤面しました。
「それにしても、樹里の弱点がグミだったなんて、知りませんでした」
すると璃里は、
「ああ、それは嘘です。夫が流した誤情報なんです」
唖然とする左京です。
「お姉さんと樹里ちゃんで探偵事務所を開いた方がいいみたいね」
ありさの心ない一言に項垂れる左京です。
「私は、子育てがありますから」
璃里は樹里と寸分違わない笑顔で言いました。
めでたし、めでたし。