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樹里ちゃん、船越なぎさの従妹の家にゆく

 御徒町樹里は、居酒屋で弁天様のコスプレで働き、喫茶店でゴスロリ服で働き、寒さ対策のため、新聞配達は南極越冬隊並みの装備でしているメイドです。


 一部のマニアは、南極越冬隊と言うフレーズで悶絶するらしいです。


 詳細は不明です。各自でググって下さい。


 


 樹里は、親友の船越なぎさに誘われ、なぎさの従妹の家に来ています。


 そこは超有名な推理作家である大村おおむら美紗みさの家なのです。


 ですから、大豪邸です。


 なぎさの従妹は、美紗の一人娘のもみじです。


 もみじは高校二年生で、親のしつけが厳しかったのか、大人しい子です。


 なぎさと同じDNAはほとんど存在しないようです。


「いらっしゃい。いつもなぎさがお世話になっています」


 美紗がもみじと出迎えてくれました。


「お邪魔致します」


 樹里はメイドの時の癖が出たのか、深々とお辞儀しました。


「まあ、礼儀正しいお嬢さんね」


 美紗がニコニコして言います。


「樹里はこう見えても、結婚してるんだよ」


 なぎさが笑顔で言います。


 すると突然、美紗の顔がピクピクッとしました。


 隣に立っているもみじの顔色が悪くなります。


「ここで立ち話も何でしょうから、リビングへどうぞ」


 もみじが慌てて言います。美紗はプイと顔を背け、


「私は仕事がありますので、失礼します」


と言うと、奥へ行ってしまいました。


「どうしたの、叔母様?」


 なぎさがキョトンとします。


「なぎさお姉ちゃん、この前言ったでしょ。お母様、お父様と離婚したばかりだって」


「そうなんですか」


 樹里は心配そうに言いました。


「あれ、そうだっけ? 全然覚えてないや」


 なぎさは笑顔全開で言いました。もみじは溜息を吐き、


「どうぞ」


と先導します。


 樹里達はリビングルームに通されました。


 そこには、美紗がもらったたくさんの賞状が額に入れられて飾られています。


「凄いわね、相変わらず」


 なぎさは自分の失言で場の雰囲気が悪くなった事などまるで感じていないようです。


「お飲み物は?」


 もみじが尋ねます。


「私、クリームソーダ」


 なぎさも相変わらずのようです。


「樹里さんは?」


 もみじが尋ねます。


「私はコーヒーで」


「はい」


 もみじはなぎさに何も言わず、部屋の隅にある大きな冷蔵庫からクリームソーダを出します。


 なぎさ対策は万全のようでしたが、失言対策だけはしていなかったようです。


 どこかの国の政府みたいです。


「樹里さんは、ホットの方がいいですか?」


「はい。お願いします」


 もみじは笑顔で応じ、コーヒーメーカーを操作します。


「もみじ、樹里は喫茶店に勤めているから、コーヒーには詳しいわよ」


「え?」


 もみじが何故かギクッとします。


 いつの間にかリビングの入口から美紗が半身で覗いています。


「なぎさお姉ちゃん、この前言ったでしょ。お母様とお父様の離婚の原因は、喫茶店に勤めていたウエイトレスとの浮気だって」


 もみじが小声で言います。


「あれ、そうだっけ」


 なぎさは全く悪びれもしません。


 どうやら、あの霊感少女より、NGワードが多そうです。


「コホン」


 美紗は咳払いをしてから、なぎさを睨みつけて去って行きました。


 


 しばらく、樹里達はいろいろと話をしました。


 なぎさもその後はNGワードを言わなかったらしく、美紗は現れませんでした。


「そろそろ行こうか、樹里」


「はい」


 二人が帰りそうになったので、もみじは寂しそうな顔で、


「もう少しいてよ、樹里さん、なぎさお姉ちゃん。ね?」


 樹里はなぎさを見ました。するとなぎさは、


「それがダメなのよ。樹里はこれから新聞配達の仕事があるの」


「え?」


 またもみじがピクッとします。


 いつの間にか、美紗が入口に来ていました。


 地獄耳なのでしょうか?


「なぎさお姉ちゃん、この前言ったじゃない。お母様が新聞配達の人と大喧嘩して、新聞を取るのをやめたって」


「あはは、全然覚えてなかった。ごめん」


 謝りながらも大笑いするなぎさです。


「そういう事なら、仕方ないですね。また来て下さい」


 もみじは、美紗がいなくなったのを確認してから言いました。


 もみじは二人を玄関の外まで見送ります。


「お邪魔しました」


 樹里が笑顔全開で深々とお辞儀します。


「いつでもいらして下さいね」


 もみじも笑顔で言いました。


「何か困った事があったら、樹里の旦那さん、探偵だから、相談して」


 なぎさがそう言うと、もみじがビクビクッとします。


「そ、そうなんだ。じゃ、さよなら」


 もみじはそそくさと家の中に入ってしまいました。


「変なの。ね、樹里」


 なぎさはキョトンとして樹里を見ました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開です。


 


 もみじは、急いで美紗の部屋に行きました。


「ムキー! あの子、私の事をからかいに来たのよ! でなければ、あれほど私の聞きたくない事を言わないでしょ! どうせ私は探偵小説を書けない探偵作家よ!」


 美紗は逆上していて、原稿用紙をクシャクシャにして投げています。


 なぎさの「樹里の旦那さん、探偵だから」発言がダメ押しだったようです。


「お母様……」


「あの子は二度とここに呼ばないで! あの子が来ると、私の創作意欲が失われるのよ!」


 ここ数日スランプで、全然ストーリーが浮かばない美紗でした。


 


 なぎさと樹里は駅にいました。


「いつでもいらして下さいって言われたから、私、明日にでも行ってみるわ」


 なぎさは何も感じていないようです。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 ミステリーの女王の大村美紗のスランプはしばらく続きそうです。

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