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樹里ちゃん、赤ちゃんに会いにゆく

 御徒町樹里は、居酒屋と喫茶店と新聞販売所で働くスーパーメイドです。


 年明け早々、樹里は弁天様の格好で新聞配達をし、近所の浪人生達がありがたがって拝んだそうです。


 但し、弁天様が受験には関係ないのは、浪人生達には内緒です。


 しかも樹里を拝んでも、合格する事はないでしょう。


 


 そして三が日が終わった四日に、暮れに女の子を出産した姉の璃里の家へ夫の杉下左京と訪れました。


「いやあ、昨年はいろいろとお世話をおかけしました」


 璃里の夫の竹之内たけのうち一豊かずとよは、璃里の父親くらいの年齢です。


 前の奥さんとは死別で、子供もいないので、璃里との赤ちゃんには大喜びです。


「この子が成人するまでは、元気でいたいですね」


 一豊は実里みりと名づけたその子を抱いて言います。


「私達も早く赤ちゃん欲しいですね」


 樹里が笑顔全開で言いました。すると左京は、


「そ、そうだな」


と顔を赤らめます。またよこしまな事を考えているようです。


「抱いてあげて下さい」


 一豊が左京に言います。


「え、お、俺がですか?」


 ビビる左京です。大木さんの相方ではありません。


「はい」


 一豊があっさりと左京に実里を預けます。


「おお」


 顔を強張らせて、左京は実里を抱きました。


 その途端、まさしく火が点いたように実里が泣き出しました。


「ひい!」


 左京は驚いて樹里に実里を預けました。


 すると、何かのスイッチを切り替えたかのように、実里が笑い出しました。


「……」


 左京は酷く落ち込みました。


(俺が怖いのだろうか?)


「どうぞ」


 璃里がキッチンからやって来て、左京達に紅茶を出してくれました。


「どうしたのですか、左京さん?」


 璃里が左京の暗さに気づいて尋ねます。


「今、実里ちゃんを抱かせてもらったのですが、いきなり泣き出されて……」


 左京も泣き出しそうな顔をしています。


「仕方ないですよ。樹里は病院に毎日来ていて、夫も実里に付きっ切りでしたから」


 璃里が慰めてくれました。


「はあ」


 左京は、


(もし、俺と樹里の子供も、俺に懐かなかったらどうしよう?)


などと妄想を始めています。


「怖がって抱くと、赤ちゃんにそれが伝わります。もう一度落ち着いて抱いてみて下さい」


 璃里に言われ、左京は深呼吸をして、樹里から実里を受けます。


 ところが、今度は左京が触っただけで泣き出しました。


 樹里から離れていないのにです。


「や、やめときます……」


 左京はすっかり落ち込んでしまいました。


 璃里と一豊は顔を見合わせます。


「少し時間がかかりそうですね」


 一豊が言いました。


「心配しないで下さい、杉下さん。私も最初は泣かれましたよ。璃里が離れただけで泣きましたから」


「そうですか」


 左京は少しだけ勇気づけられました。


 


 しばらくして、二人は璃里達の家を出ました。


「左京さん」


 帰り道、樹里が話しかけます。


「何?」


 考え事をしていた左京が、ハッとして樹里を見ます。


「あまり思いつめないで下さいね。実里は左京さんと久しぶりに会ったのですから。そのうちに泣かれなくなりますよ」


「うん」


 左京は樹里に言われて気持ちが楽になりました。


「俺、出産には立ち会うから。育児もできるだけ手伝うから」


 左京は樹里を真っ直ぐ見て宣言しました。


「嬉しいです、左京さん」


 二人は周囲に誰もいないのを確認してから、口づけしました。


「でも、出産に立ち会って、気絶しないで下さいね」


「え?」


 樹里にそう言われ、途端に怖くなる左京です。


(気絶するほど、なのか?)


 前言を撤回したくなる左京でした。


 


 めでたし、めでたし。

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