樹里ちゃん、なぎさとお茶する
御徒町樹里は居酒屋、喫茶店、探偵事務所で活躍するメイドです。
インターネットでは、樹里自身が知らないうちに大活躍する小説とかが書かれていて、動画サイトも大賑わいです。
とりわけ、神村何たらとか言う人は、樹里を勝手にモデルにして、荒稼ぎしているという噂です。
勝手にグッズを作ったり、人形を作ったりして大儲けしているそうです。
樹里の親友である船越なぎさは、最近始めたツイッターでその事実を知りました。
彼女は樹里にその事を知らせるため、杉下左京探偵事務所に来ています。
「樹里はもうすぐ戻ると思いますので、おかけになってお待ち下さい」
左京は顔を引きつらせながら言いました。
「はい」
なぎさは見た目は可愛い女の子ですが、樹里と同じくらい不思議ちゃんなので、左京はなるべく関わり合いになりたくありません。
(樹里の相手だけでも疲れるのに)
それでも樹里の事を愛しているので苦にならない左京ですが、なぎさの奇天烈さはごめんなのです。
(こんな時に限って、ありさの奴、クリスマスだとか言って休みやがって)
いつもなら邪魔な宮部ありさでも、なぎさの「危険球」避けくらいにはなると思う左京です。
「何か飲みますか?」
左京は愛想笑いをして尋ねました。するとなぎさは、
「クリームソーダでいいです」
「……」
喫茶店じゃねえんだぞ! 怒鳴りたい衝動を何とか堪えて、左京は言います。
「それはちょっと無理かな。他にないですか?」
「じゃあ、コーラフロート」
「……」
我慢の限界水位が訪れそうです。
「それもありません。コーヒーか紅茶だったらありますが」
左京は口をヒクつかせて言いました。
「そうですか。じゃあ、日本茶で」
聞いてなかったんかい!
左京は発狂しそうです。
その時、樹里が戻りました。
左京は今日ほど樹里が頼もしく見えた事はありません。
「只今帰りました」
「お、お帰り、樹里!」
抱きついてキスしたいくらいですが、なぎさがいるので今は我慢です。
「はい、なぎささん」
樹里は大きな紙袋をなぎさに渡しました。
「おお、ありがとう、樹里」
中から出て来たのは、クリームソーダとコーラフロートと日本茶でした。
左京はマジックショーでも見ている心境です。
「じゃあ、私はクリームソーダ」
なぎさは嬉しそうにカップを手にします。
「左京さんはどちらがいいですか?」
樹里が笑顔全開で尋ねます。
「じゃ、俺は日本茶で」
三人はソファに座ってお飲み物タイムです。
なぎさの話を聞き終わり、左京は深刻な顔をしましたが、樹里は笑顔全開です。
「そうなんですか」
なぎさは樹里の笑顔を見て、
「樹里、わかってるの? あんた、利用されてるのよ、その神様律子とかいう人に」
神様ではないと思いますが、まあいいでしょう。
「樹里の動画がいろいろなサイトで見られるというのは、以前聞いた事がある」
左京はその話を元同僚の加藤真澄警部に聞きました。
加藤警部も樹里の動画と画像を収拾していると聞き、左京は、激怒して加藤警部のパソコンを壊そうとした事があります。
「あいつら全員、樹里の画像や動画を見て……」
そこまで言いかけて、左京はハッとします。
樹里となぎさがジッと自分を見ているのです。
(い、いかん。下手な事は言えないぞ)
「見て、楽しむのはいいが、金儲けをするのは許せないな」
うまく言い繕えてホッとする左京です。
「きっと樹里を見て、エッチな事してるのよ、男子共は!」
なぎさがあっさり言いました。
左京の努力が水の泡です。
「そうなんですか、左京さん?」
樹里の無茶ブリに左京はお茶を溢しそうになります。
「じゅ、樹里は可愛いからな。そんな事もあるかも知れない」
左京は顔を赤らめて言いました。
「左京さんもそういう事をしてるのですか?」
更に樹里が核心に迫ります。
左京は嫌な汗をたくさん書きましたが、
「そ、そんな事する訳ないだろう」
と慌てて言います。
「そうなんですか」
樹里は何故か悲しそうです。
「どうしたの、樹里?」
なぎさが心配して尋ねます。
「左京さんは私の事を可愛いと思っていないそうです」
えええ? どうしてそうなるんだよ!?
左京は項垂れました。
「まあ、酷い。旦那さんなのに、奥さんが可愛くないだなんて」
助けてくれ。
左京は天然二人に責められて、泣きそうでした。
めでたし、めでたし。




