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樹里ちゃん、瑠里の恋を応援する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 三学期が始まりました。


 長女の璃里は早くも部活動です。次女の冴里と三女の乃里は宿題が終わり、ホッとしています。


 四女の萌里は、不甲斐ない夫で情けない父親の杉下左京が寝込んでしまったので、保育所の男性職員の皆さんが迎えに来る事になっています。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開です。


「すまないな、樹里。年明け早々、風邪をこじらせるなんて、俺ももう若くないな」


 左京が自虐ネタを言いました。


「ネタじゃねえよ!」


 先回りした地の文に切れる左京です。


「左京さんは元日から猫探しでしたから、仕方ないですよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 年末まで無職だったのに情けないと思う地の文です。


「かはあ……」


 痛いところを突かれて、血反吐を吐く左京です。


「しっかり身体を休めてくださいね」


 樹里は娘達が外へ出たのを確認すると、左京にキスをしました。


「樹里……」


 嬉しさのあまり、涙ぐんでしまう左京です。樹里は妊娠しているので、押し倒すのは思いとどまったようです。


「そんな事考えてねえよ!」


 ちょっとだけ当たっていたので、動揺しながら地の文に切れる左京です。


「では、行って参ります」

 

 樹里は左京に布団をかけ直すと、部屋を出て行きました。


「行ってらっしゃい」


 左京は号泣して告げました。年寄りは涙もろいと思う地の文です。


「うるせえ!」


 真実を指摘した地の文に理不尽に切れる左京です。


 樹里が玄関を出ると、すでに瑠里は出かけており、冴里と乃里はまだいました。


「樹里様と冴里様と乃里様と萌里様にはご機嫌麗しく」


 そこへいつもの人達が来ました。


「ちゃんと紹介してください!」


 省略した地の文に抗議する昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


「萌里ちゃん、行こうか」


 保育所の男性職員の皆さんは、眼鏡男達に敵意剥き出しにして、萌里を連れて行きました。


(おのれ、萌里様は別働隊がお送りする予定であったのに!)


 出遅れてしまった眼鏡男達は悔しがりました。


「どうして今日はこんなに早くお迎えに来たんだろうね?」


 そんな浅ましい者達の確執を知る由もない冴里は首を傾げました。


「そうだね」


 乃里も首を傾げました。


「では、行って参りますね」


 樹里は笑顔全開で出かけました。


「行ってらっしゃい、ママ!」


 冴里と乃里が言いました。


「ワンワン!」


 ゴールデンレトリバーのルーサが、


「ヒモ亭主は任せてください、ご主人様」


 そう言っているかのように吠えました。


「ううう……」


 人知れず、ベッドで泣いている左京です。




「瑠里ちゃんのお母さん、おはようございます」


 樹里達がJR水道橋駅へ向かっていると、瑠里のボーイフレンドである田村淳が現れました。


 でも、噛み噛みの相方はいません。


「あっちゃん、おはようございます」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「瑠里はもう部活で学校へ行きましたよ」


 樹里は笑顔全開で告げました。するとあっちゃんは悲しそうに微笑んで、


「はい、知っています。今日は、お母さんに話があってお待ちしていました」


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。樹里は無粋ではないので、


「私は貴方のお母さんではありません」


 などとつまらない事は言いません。


「瑠里ちゃんは最近、連絡しても出てくれないし、ラインも既読スルーなんです」


 あっちゃんはもう過去の人のようです。


「ううう……」


 核心を突いた地の文のせいで、項垂れてしまうあっちゃんです。


「そうなんですか? 瑠里はあっちゃんに振られたと言っていましたよ」


 樹里はそれにも関わらず、笑顔全開で応じました。


「ええ!?」


 あっちゃんは目を見開きました。


「あっちゃんは、清原納言きよはらなことさんと付き合っていると言っていました」


 樹里はそんな話も笑顔全開で言いました。あっちゃんは引きつり全開です。


「それは誤解です。清原さんが登下校の時にしつこくまとわりついて来るので、僕は困っているんです。付き合ってなんかいません」


 あっちゃんはこの期に及んで嘘を吐きました。


「嘘じゃないよ!」


 捏造を繰り広げる地の文に切れるあっちゃんです。


「そうなんですか?」


 樹里は首を傾げました。


「瑠里ちゃんとは話ができていないんです。だから今日は、お母さんに伝えようと思って待っていたんです」


 今度は樹里に乗り換えるつもりのようです。


「違う!」


 更に捏造をする地の文に切れるあっちゃんです。


「わかりました。私から瑠里に伝えます。ですから、何も心配しないでください」


 樹里は笑顔全開で告げました。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 あっちゃんは何度も頭を下げながら、駆け去りました。


(まずいな。田村からは手を引くか)


 それを電柱の陰からファーストサマーさんが見ていました。


「違うよ!」


 久しぶりの地の文の名前ボケに切れる清原納言です。


(杉下瑠里の母親は多分元ヤンだ。これ以上田村を突くと、昔の仲間が出て来る恐れがある)


 納言は樹里が昔悪かったと思い込んでいます。バカ丸出しです。


(仕方がない。次は野田慶熙のだけいきにするか)


 納言はそそくさとその場から立ち去りました。


 


 そして、その日の夜です。


「只今」


 瑠里が部活を終えて帰宅しました。


「お帰りなさい。瑠里、話があります」


 樹里が真顔全開で出迎えたので、


「はい」


 瑠里は引きつり全開でリヴィングルームへ行きました。


(何だろう? 私、何も悪い事してないよね?)


 自問自答する瑠里です。


「今朝、あっちゃんに会いました」


 樹里は笑顔全開で告げました。


「そうなんですか」


 瑠里は予想と全然違う展開に驚きました。


「あっちゃんは清原さんとは付き合っていないそうです。瑠里、きちんとあっちゃんと話しなさい。一方的に思い込んでしまうのは、よくありませんよ」


 最後はまた樹里が真顔になったので、瑠里は、


「はい、ママ」


 引きつり全開で応じました。


(あっちゃん、清原さんとは付き合っていなかったんだ)


 瑠里はホッとしました。


「ありがとう、ママ」


 瑠里は涙ぐんでお礼を言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


(瑠里は男と別れていなかったのか……)


 またしても人知れず涙を流しいている左京です。


 めでたし、めでたし。

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