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樹里ちゃん、クリスマスを祝う

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日はクリスマスイヴです。日本中のホテルが満室になってしまう日です。


「ううう……」


 そんな日なのに、不甲斐ない夫で情けない父親の杉下左京は、珍しく仕事です。


 イヴを一緒に過ごしてくれない事に腹を立てた不倫相手の坂本龍子弁護士の陰謀で、仕事を入れられたのです。


「違う!」


 別の場所でそれぞれ違う理由で地の文に切れる左京と龍子です。


「イヴを一緒に過ごしてくれだなんて、そんな図々しい事、頼んでいません!」


 顔を真っ赤にして地の文に抗議する龍子です。


「俺は樹里と過ごす予定だったのに、仕事が急に入ったんだよ!」


 左京は、多少龍子に恨み言があるようです。


(龍子さん、俺が最近邪険にしてるので、今日の仕事を振って来たのかな?)


 左京は龍子の陰謀を疑っていました。


(よりによって、G県で浮気調査だなんて、惨過ぎるぜ)


 涙ぐんでしまう左京です。


(でも、成功報酬は二百万円だからな。龍子さんなりの気遣いなんだろうけど)


 二百万円なら、左京の年収を超えてしまいます。


「俺はもっと稼いでるよ!」


 過小評価が過ぎる地の文に切れる左京です。


(年の瀬に二百万円は大きい。ありがたいのはありがたいんだけど、日が悪い)


 左京はブツブツ言いながら、新幹線でG県のT駅を目指していました。




 そんな頃、長女の瑠里、次女の冴里、三女の乃里は終業式を終え、帰宅していました。


 四女の萌里も保育所のクリスマス会でもらったケーキを持って帰って来ました。


「ママはまだお仕事なの?」


 萌里が寂しそうな顔で瑠里に尋ねました。


「そうだよ。でも、いつもの時間には帰って来るから、パーティの準備をしようね」


 瑠里は萌里を宥めました。


「うん……」


 萌里は口を尖らせながらも、返事をしました。


 四人の娘達に思い出してももらえない父親は、あまりにも惨めだと思う地の文です。


「かはあ……」


 図星を容赦なく突いた地の文のせいで、新幹線のホームで血反吐を吐いてしまう左京です。


 


 樹里はいつも通り、庭掃除を終えると、一階の廊下から掃除を開始しました。


「樹里さんは今日、何か予定あるんですか?」


 仮面夫婦で暇を持て余している目黒弥生が尋ねました。


「仮面夫婦じゃないわよ!」


 正直に述べた地の文に切れる弥生です。


「今日は娘達とパーティです」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「そうですか。いいなあ、ウチは祐樹が仕事でいないんです」


 弥生は「亭主元気で留守がいい」のはずなのに、心にもない事を言いました。


「そんな事はありません!」


 弥生は話を捏造する地の文に抗議しました。


「ウチも、夫がG県で仕事ですよ」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「そうなんですか」


 弥生は事もなげに言った樹里の言葉に樹里の口癖で返しました。


「それじゃあ、瑠里ちゃん達、寂しがっていますね」


 弥生は更に心にもない事をしれっと言いました。


「うっ……」


 正解なので、地の文に切れない弥生です。


「そうですね」


 樹里は笑顔全開で応じました。


(樹里ちゃん、左京さんがいなくて寂しくないのかな?)


 弥生は樹里自身がどう思っているのか、知りたくなりました。


「樹里さんは、左京さんがいなくて、寂しくないんですか?」


 弥生は大村美紗のような顔で訊きました。


「また誰かが私の悪口を言っているような気がするけど、幻聴なのよ!」


 必死に空耳だと頑張る美紗です。


「寂しいですよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「そうなんですか」


 また樹里の口癖で応じるしかない弥生です。


「でも、私が寂しがったりしたら、娘達に悪影響です。それにお腹の子にも良くないと思うので、そういう事は考えないようにしています」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。


「なるほど」


 弥生はいい事を聞いたと思い、手を叩きました。


 レッサーパンダとボーカロイドに言い聞かせるために使おうと考えたのです。


「長男は風太じゃなくて、颯太! 長女はそのミクじゃなくて、深紅よ!」


 地の文のボケに真剣に反応する弥生です。


「樹里さん、弥生さん、今日は早く上がってください」


 そこへ五反田氏の妻の澄子が来ました。


「ええ? いいんですか?」


 露骨に喜ぶ弥生ですが、


「いえ、定時までは働きます」


 樹里は笑顔全開で完全拒否です。


「そうなんですか」


 澄子と弥生は異口同音に応じました。


 樹里と弥生は定時まで仕事をこなして、帰宅しました。


「樹里様、お迎えにあがりました」


 今回はしばらくぶりに迎えのシーンで登場した昭和眼鏡男と愉快な仲間達です。


「ありがとうございます」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「樹里さん、お疲れ様でした」


 弥生は徒歩五分のところにある目黒邸に帰って行きました。


「お疲れ様でした」


 樹里は弥生に挨拶を返しました。


 


「よし、準備完了ね」


 瑠里達はパーティの飾り付けを終えていました。


「もうすぐママが帰って来るよ、萌里」


 冴里が言うと、


「わーい!」


 萌里だけではなく、乃里も喜びました。


「只今」


 その時、樹里が玄関のドアを開けて帰宅しました。


「ママ、お帰り!」


 今日は部活が休みなので、久しぶりに瑠里も揃って樹里を出迎えました。


「ママ、綺麗に飾り付けできたよ」


 瑠里が誇らしげに告げました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「あれ、誰かいない気がする」


 乃里が言いました。


「パパだよ。パパは今日はお仕事なの」


 瑠里が言いました。


「瑠里、冴里、乃里、萌里、そしてまだママのお腹の中いる五番目の我が娘、メリークリスマス!」


 左京は、樹里が用意したパソコンの画面でリモートで参加しました。


「パパ!」


 一番のパパっ子の乃里が画面に触れました。


「仕事は終わったから、リモートでパーティに参加するぞ」


 成功報酬を受け取った左京はドヤ顔です。でも、樹里の月収の方が多いのは内緒にする地の文です。


「内緒にしといてくれ!」


 血の涙を流して地の文に懇願する左京です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 めでたし、めでたし。

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