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樹里ちゃん、霜月皐月を見送る

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は日曜日です。まだ午前五時前です。


 樹里は霜月しもつき(旧姓:水無月)皐月さつきを見送るためにミニバンで新東京国際空港(成田空港)に向かっています。


 助手席には、不甲斐ない夫で情けない父親で稼げない私立探偵の杉下左京が乗っています。


「ううう……」


 地の文からの愛に溢れる三連打を喰らった左京は項垂れ全開です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開です。


「すみません、同乗させてもらって」


 中部座席には元泥棒のキャビーが乗っています。


「しつこいわよ、それ!」


 未だに昔の名前ボケをする地の文に切れる目黒弥生です。


「大丈夫ですよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「葉月さんは直接空港に向かっているみたいですね」


 樹里は笑顔全開で言いました。要するに何故貴女は自分で車を出さないのかと暗に言っているのです。


「ううう……」


 後ろめたさ全開の弥生はぐうの音も出ません。


 でも、樹里はそんな事を思っているはずもなく、弥生の被害妄想です。


「あんたのせいでしょ!」


 地の文に八つ当たりする弥生です。


「左京さんは弥生さんがいてくれて、嬉しいそうですよ」


 樹里は何の悪気もなく言い添えました。


「ええ!?」


 樹里のトンデモ発言に仰天してしまう左京です。


(そんな事思っていないと言ったら、目黒さんに失礼だよな)


 リアクションに困っている左京です。


 素直に喜べばいいと思う地の文です。


(喜ばれたら、それはそれで嫌だな)


 左京を軽蔑している弥生は複雑な表情です。


「軽蔑はしていないわよ!」


 樹里の手前、慌てて否定する弥生です。


(瑠里達と留守番していればよかった)


 左京はまた項垂れました。


「申し訳ないので、途中で運転を代わりますよ」


 弥生が心にもない事を言いました。


「心にもあるわよ!」


 変な日本語で地の文に切れる弥生です。でも、おバカなので仕方ありません。


「うるさいわね!」


 正直に述べただけの地の文に更に理不尽に切れる弥生です。


「大丈夫ですよ」


 樹里は笑顔全開で拒否しました。


「そうなんですか」


 弥生は顔を引きつらせて樹里の口癖で応じました。


(目黒さんには悪いけど、元泥棒の人の運転は怖い)


 左京は結構失礼な事を考えていました。


 早速弥生に伝えましょう。


「やめろ!」


 根が真面目な地の文に激ギレする左京です。


 弥生と左京が一人コントをそれぞれしているうちに、ミニバンは高速に乗り、まだ日が昇る前に東京を離れました。


(早いなあ。樹里さん、道を知り尽くしているなあ)


 弥生は運転を代わらなくて正解だったと思いました。


「樹里、休憩をしなくても大丈夫か?」


 さっきまで居眠りをしていた左京が尋ねました。


「居眠りなんかしてねえよ!」


 革ジャンの襟によだれの跡が付いている左京が、説得力のかけらもない反論をしました。


「くはあ……」


 核心を突いて来た地の文に見事に撃破される左京です。


「大丈夫ですよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。


(樹里さん、タフだ)


 弥生も寝ていないふりをして樹里を見ました。


「私は寝ていないわよ!」


 欠伸あくびばかりしていた弥生が地の文に切れました。


「ううう……」


 それは本当なので、胸が苦しくなってしまう弥生です。


「もうすぐ着きますよ」


 樹里が言いました。


「そうなんですか」


 左京と弥生は申し合わせたかのようにハモりました。


 ミニバンはすでに空港の敷地内に入っており、樹里は五反田グループ直営の駐車場にミニバンを入れました。


 そこはどの駐車場よりも空港の建物に近いので、非常に便利です。


(さすが五反田グループ!)


 感激する弥生と左京です。


「では、参りましょう」


 樹里は笑顔全開で運転席を降りると、左京達に声をかけました。


「あ、うん」


 また居眠りしていた左京が慌てて助手席を降りました。


「してねえよ!」


 しつこい地の文に切れる左京です。


(左京さん、寝ていたんだ)


 弥生は左京を居眠り探偵に認定しました。某探偵とは根本的に違うと思う地の文です。


「こちらです」


 樹里はどんどん建物の中へ入って行き、奥へと進みました。


 何度も五反田氏を送り迎えしているので、すでに場所を完全に把握しているのです。


「ああ、待ってくれ、樹里!」


「待ってください、樹里さん!」


 左京と弥生のポンコツコンビは大慌てで追いかけました。


 バカ丸出しです。


「うるさい!」


 また見事にハモって地の文に切れる左京と弥生です。


 二人が樹里に追いついた時、樹里は皐月と話していました。


 すでに神戸かんべ葉月はづきもいます。


「遅いわよ、弥生」


 皐月が半目で言いました。


「すみません」


 弥生は苦笑いをしました。


「間に合ったんだから、いいじゃないですか、皐月さん」


 いつも弥生には厳しい態度の皐月をたしなめる葉月です。


「まあね」


 皐月は肩をすくめました。


「しばらく留守にするけど、あやめの事、お願いね」


 皐月は一人娘のあやめを葉月に預けたのです。迷惑この上ないと思っている葉月です。


「思っていません!」


 捏造をした地の文に切れる葉月です。


賢葉けんようも遊び相手ができて喜んでいます」


 葉月は微笑んで応じました。


「帰って来るまでに恋人同士になっていたりして」


 弥生が茶化すと、


「冗談じゃないわよ!」


 葉月が叫んでしまってから、ハッとしました。


「冗談じゃないって、どういう事?」


 皐月が顔を引きつらせました。


「いえ、別に深い意味はなくてですね……」


 葉月は嫌な汗を掻きました。弥生はくすくす笑っていますが、後でボコボコにされると思う地の文です。


「まあ、まだ三歳前だから、男も女もないだろうけど、程々にね」


 皐月は弥生を一睨みしてから微笑みました。


「はい」


 葉月も弥生を睨みました。弥生は引きつり全開になりました。


(萌里と会ったら、萌里はお姉ちゃんぶるのかな?)


 末っ子の四女の萌里を思い出す左京ですが、あと何ヶ月かすれば、五女の誕生だと思う地の文です。


「女って決まった訳じゃないだろ!」


 まだそんな幻想を抱いている左京です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


 めでたし、めでたし。


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