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樹里ちゃん、麻耶を見舞う

 御徒町樹里は日本湯数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


「麻耶お嬢様、大丈夫ですか?」


 樹里は五反田邸に出勤すると、離れの二階の寝室で休んでいる麻耶を見舞いました。


 そういう事で、今回はあらゆる人が登場を省略されました。


 何か、叫んでいるようですが、完全に無視する地の文です。


「樹里さん、ありがとう。つわりがここまで酷くなるなんて、思っていなかったから……」


 麻耶は妊娠の初期はつわりが重くなかったのですが、十週目くらいに重くなりました。


 それは、夫のはじめが不倫をしたからです。


「違うわよ!」


 ベッドで吐き気を催しながらも、心ない発言をしたまるで◯◯◯ルマのような地の文に切れる麻耶です。


「つわりについては、まだわかっていない事が多いようです。安静になさってください」


 樹里は笑顔全開で告げました。


「ありがとう、樹里さん」


 麻耶は微笑んで応じると、目を瞑りました。


「失礼します」


 樹里は静かにドアを閉じると、離れを出ました。


 


「どうでした、麻耶お嬢様は?」


 玄関で目黒弥生が上辺だけ取り繕って尋ねました。


「違うわよ!」


 真実を言い当てたはずの地の文に切れる弥生です。


「初めての妊娠で、ご不安なのだと思います。はじめ君が忙しくて、お嬢様に寄り添ってあげられないのも、理由の一つかも知れません」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「ああ、それわかります。私も初めて妊娠した時、祐樹がそばにいてくれなくて、つわりが酷くなった事がありました」


 弥生が思い出したように言いました。


「はっ!」


 ところが、すでに樹里はそこにはいず、二階の掃除をしていました。


「樹里さん、それはないですう!」


 涙ぐんで樹里を追いかける弥生です。




 樹里達が掃除を終えて、キッチンで麻耶の食べられそうな献立を用意していると、


「只今帰りました」


 はじめがズル早退をして来ました。


「違います! 今日は早上がりなんです!」


 捏造が止まらない地の文に抗議するはじめです。


「お帰りなさいませ」


 樹里が笑顔全開で応じました。弥生は無視しました。


「してないわよ! ちゃんと挨拶したでしょ!」


 地の文の陰湿なイジメに切れる弥生です。


「麻耶の食事ですか? 僕が持って行きます」


 はじめは樹里からトレイごと受け取りました。


「麻耶がどんどんやつれていくので、心配なんです」


 はじめが言うと、


「大丈夫ですよ。お嬢様はきっとお元気になり、丈夫な赤ちゃんをお産みになります」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「ありがとうございます、樹里さん」


 はじめは涙ぐんで頭を下げると、キッチンを出て行きました。


「大丈夫ですかね。お嬢様、最近、はじめ君にきついみたいですけど」


 弥生が柄にもなく心配したので、


「そうなんですか?」


 樹里は首を傾げました。


「ちょっと! 柄にもなくってどういう事よ!?」


 時間差で地の文に文句を言う弥生です。


「私、この前見ちゃったんです。はじめ君がお嬢様に罵られているのを」


 弥生は身震いしました。それは今に始まった事ではないと思う地の文です。


「心配要りませんよ。あのお二人はそれがいつもの事ですから」


 樹里が笑顔全開で応じたので、


「そうなんですか」


 呆気に取られる弥生です。




 そして……。


「そこに置いといてって言ったでしょ!」


 麻耶が怒鳴りました。


「ああ、うん……」


 はじめは枕元までトレイを運ぼうとしたのですが、麻耶がそれを拒んだので、仕方なくドアの脇にあるワゴンに置きました。


「麻耶が心配なんだよ」


 はじめはそれでも麻耶に近づこうとしました。


「来ないで! 出て行ってよ!」


 麻耶は布団をかぶってしまいました。


「わかった……」


 はじめはショックで涙ぐみ、部屋を出て行きました。


「ううう……」


 麻耶ははじめが出て行ったのを見て、涙を流しました。


 


「樹里さん、ちょっといいですか?」


 はじめはキッチンで洗い物をしている樹里に声をかけました。


 不倫するつもりでしょうか?


「違う!」


 名推理を展開した地の文に切れるはじめです。


「どうしましたか?」


 樹里は笑顔全開ではじめを見ました。


「麻耶に避けられているみたいなんです。僕、何か麻耶を怒らせるような事をしてしまったのでしょうか?」


 はじめは涙ぐみながら樹里に訊きました。


(私の事、見えてないの?)


 樹里の隣で洗い物をしている弥生を完全に無視して樹里と話をしているはじめです。


「違いますよ」


 樹里はそれにも関わらず、笑顔全開で応じました。


「え?」


 はじめは樹里の反応に目を見張りました。


「お嬢様は何日もお食事をできない状態が続いています。ですから、お顔の色も優れず、頬もこけてしまっているのです」


 樹里は笑顔全開で麻耶の状態を説明しました。


「そうなんですか」


 はじめは顔を引きつらせて応じました。


「お嬢様は、そんなお顔を見られたくないのですよ。だから、避けているのです」


 樹里の言葉にはじめはハッとしました。


「愛する人に自分のやつれた顔を見られたくない。お嬢様は恥ずかしかったのだと思います」


 樹里は笑顔全開で告げました。


「ああ……」


 はじめは自分の独りよがりな考えを恥じました。


「お嬢様に避けられても、お顔を優しく触ってあげてください。そうすれば、お嬢様は貴方の優しさに気づきますよ」


 樹里が笑顔全開で諭すと、


「はい。ありがとうございます!」


 はじめは深々と頭を下げ、キッチンを飛び出して行きました。


「ラブラブですね、はじめ君と麻耶お嬢様」


 弥生がニヤリとしました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 


「はい、あーん」


 はじめは麻耶に自分の思いを伝えて、麻耶に食事を摂らせました。


「あーん」


 麻耶は微笑んではじめの給仕を受けました。


「おいしい?」


 はじめが尋ねました。


「うん、おいしい。樹里さんが作ってくれたのよね?」


 麻耶が言いました。


「そ、そうだよ……」


 はじめは麻耶が久しぶりに笑顔を見せてくれた事に感動して、涙を流しました。


「どうして泣くのよ、はじめ? どこか痛いの?」


 麻耶は不思議そうに訊きました。


「どこも痛くないよ。嬉しかったんだ」


 はじめは涙を拭って応じました。


「変なの」


 麻耶はクスッと笑いました。


 めでたし、めでたし。

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