樹里ちゃん、敬老の日に祖母の旅館へゆく
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
今日は敬老の日です。樹里一家と璃里一家と由里一家は、G県S市にある樹里達の祖母である美玖里の経営する御徒町旅館へ行く事になっています。
「あーあ、嫌だ嫌だ。私だけ欠席するって事にならない?」
由里は樹里が借りた観光バスに乗る直前になってゴネ始めました。
ここは、五反田グループ傘下のバス会社の駐車場です。
「そうなんですか」
それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。
「わかりました。では、お祖母ちゃんには、お母さんは後で一人で来ますって言っておくから」
璃里が半目で脅しました。
「バカな事言わないでよ! 一人で行く訳ないでしょ! 冗談よ、冗談」
由里はさすがに顔を引きつらせました。
(璃里さん、凄い)
璃里の反撃に心の中で惚れ直す不甲斐ない夫で情けない父親の杉下左京です。
「惚れ直してはいねえよ!」
深層心理を見抜いた地の文に切れる左京です。
「そうなんですか」
それでも樹里は笑顔全開です。
今日は、樹里一家が六人、璃里一家が四人、由里一家が九人の総勢十九人なので、観光バスを借りたのです。
バスが大きいので、三女の乃里、四女の萌里は大興奮です。
「UNOしよう!」
長女の瑠里、次女の冴里、璃里の長女の実里、次女の阿里、由里の六女の紅里、瀬里、智里は最後部の座席に陣取りました。
「みんな、元気ねえ」
由里の三女の真里はすっかりおばさんです。
「おばさんじゃないわよ!」
心ない地の文の発言に切れる真里です。
「でも、あいつらから見たら、私ら、叔母さんだよ」
由里の四女の希里が言いました。
「そうだけど、嫌だな。私、まだJKだよ」
由里の五女の絵里が頬杖を突いて応じました。その言い方がおばさんだと思う地の文です。
「うるさいわね! あんたこそ、おじいちゃんでしょ!」
真実を述べただけの地の文に切れる絵里です。地の文には年齢はないので、おじいちゃんではありません。
「フンだ!」
卑怯な地の文に言い返せなくなってそっぽを向く絵里です。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で運転席に座りました。
「樹里、大丈夫なのか?」
実は左京は、樹里から妊娠したと言われ、ソワソワしています。
「大丈夫ですよ」
樹里は笑顔全開で応じました。
「そうなんですか」
そう言われるとは思っていたけど、やっぱりそうだったと思いながら、顔を引きつらせて樹里の口癖で応じる左京です。
「そうなのかね」
樹里の実父の赤川康夫が笑顔全開で応じました。その隣にちゃっかり座っている由里です。
(由里さん……)
隣席に座れず、通路を挟んで隣に座っている樹里の義父の西村夏彦です。少し涙ぐんでいます。
(壮観だなあ)
そんな御徒町一族を俯瞰で眺めている璃里の夫の竹之内一豊です。もちろん、璃里の隣に座っています。
それを羨ましそうに見ている左京です。
「違う!」
図星を突かれ、動揺しながら地の文に切れる左京です。
(樹里の隣に座りたかった)
樹里は運転席なので、隣には座れないのです。
「何だか寂しそうね、お義兄さん」
そこへ物好きな真里が来て、隣に座りました。
「物好きって何よ!?」
真里は地の文に切れました。
「お、おにいさん?」
左京は真里が以前妙な事を言っていたのを思い出して、ギクッとしました。
「そう。だって、樹里姉の旦那さんだもの、私から見れば、お義兄さんでしょ?」
まりはニッと笑いました。
(あの頃の樹里に似ているよなあ)
早速鼻の下を伸ばすエロ左京です。
「伸ばしてねえよ!」
チャチャを入れた地の文に切れる左京です。
「真里、左京さんをからかうんじゃありません」
そこへ璃里が来て、真里を嗜めました。
「はあい」
真里は璃里も怖いのか、しょんぼりして自分の座席に戻りました。早速、希里と絵里に突っ込まれています。
「ごめんなさい、左京さん、ダメな妹で」
璃里は左京に詫びを入れると、一豊の隣に戻りました。
ああ、璃里さん。せめて隣に座って欲しかった。左京は思いました。
「思ってねえよ!」
捏造をした地の文に切れる左京です。
(ああ、いつの間にか、関越自動車道に乗っていたな)
左京は窓の外を見ました。
「トイレ休憩します」
樹里がマイクを通して告げました。バスは高坂サービスエリアに入りました。
「樹里はいいのか、休憩は?」
トイレに行って来た頻尿の左京が尋ねました。
「頻尿じゃねえよ!」
正しい事を言ったはずの地の文に切れる左京です。
「大丈夫ですよ」
樹里は笑顔全開で応じました。
「ああ、左京ちゃん、それってセクハラだよ」
絵里と戻って来た希里が言いました。
「せ、セクハラ?」
左京は動揺しました。
「違いますよ。左京さんは私の身体を気遣ってくれたのです」
樹里は笑顔全開で希里を嗜めました。
「そうなんですか」
希里は樹里が少しだけ怒っているのに気づき、絵里と共に座席に戻って行きました。
「樹里姉、どうかしたの、璃里姉?」
希里が璃里に訊きました。
「さあ」
璃里は樹里から妊娠の事を聞いていましたが、樹里から他言しないように言われていたので、とぼけました。
(でも、バスの運転なんてして、平気なのかしら?)
璃里も樹里の身体を心配していました。
「出発します」
樹里がアナウンスしました。そして、
「左京さん、ガイド席に座りますか?」
折り畳まれているガイド専用の座席を出しました。
「ああ、ありがとう!」
左京は嬉しそうにそれに座り、シートベルトを締めました。
バスはゆっくりと駐車場を離れ、関越道を走りました。
「樹里姉、嬉しそうだね」
真里が言いました。
「そりゃ、最愛の人と並んで座れるの、嬉しいでしょ?」
希里が言いました。
「そうね」
少し寂しそうな真里です。
(左京ちゃんたら、私の事、完全に眼中にないんだもん、ムカつく)
真里はまだ左京を諦めていないようです。
樹里の前に、もっと強敵の坂本龍子弁護士がいるのを思い出して欲しい地の文です。
続くと思う地の文です。