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樹里ちゃん、情報番組のコメンテイターを頼まれる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


「樹里さん、お願いです! 弊社の情報番組のキッカリ!のコメンテイターをしていただけませんか?」


 すでに五反田邸に着いて、庭掃除をしていた樹里のところへ、ジャパンテレビのゼネラルプロデューサーだと偽るおじさんが現れました。


「偽ってない! 正真正銘のゼネラルプロデューサーだ!」


 勘繰った地の文に名刺を見せつける一手久蔵いってきゅうぞうです。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「樹里さん、あのテレビ局、不正経理で逮捕者が出たやばいところですよ。五反田グループも広告を引き上げるか検討しているそうですし」


 元泥棒が囁きました。


「元泥棒は関係ないでしょ!」


 真実しか語っていない地の文に血の涙を流して切れる目黒弥生です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


「どうでしょうか?」


 一手Pは揉み手をしながら樹里に近づきました。


「上の者に確認をしてみますね」


 樹里はスマホを取り出して、五反田氏に連絡しました。


「お忙しいところ、申し訳ありません。只今、ジャパンテレビの一手様がお見えになって、コメンテイターをお願いされたのですが?」


 一手Pは固唾を呑んで見守っています。


(断られろ!)


 性格が◯◯ちゃんくらい悪い弥生は祈っていました。


「そんなに悪くないわよ!」


 芸能界の嫌われ者と同列にされた弥生が地の文に切れました。


 ある程度性格が悪いのは認めるようです。


「ううう……」


 地の文の揚げ足取りに項垂れる弥生です。


「はい、わかりました」


 樹里は通話を終え、スマホをポケットにしまいました。


「それで?」


 一手Pが樹里の顔を覗き込みました。


「出てもいいそうです」


 樹里は笑顔全開で告げました。


「ありがとうございます! 一生恩に着ます!」


 その場で土下座をする一手Pです。


 こうして、一手Pは何度も樹里に頭を下げながら、車で帰って行きました。


 弥生は舌打ちをしました。


「してないわよ!」


 焦って地の文に切れる弥生です。


 


 そして、一週間後です。


「すまない、樹里さん。うっかりある人にテレビ出演を話してしまった」


 樹里が出勤すると、五反田氏が玄関で出迎え、頭を下げました。


「そうなんですか?」


 樹里は首を傾げました。麻耶に話してしまったのでしょうか? だとすると面倒臭い事になりそうです。


「違うわよ!」


 早朝会議ですてに本社ビルのどこかにいる麻耶が地の文に切れました。


「昨日、なぎさちゃんと会った時、つい喋ってしまったら、一緒に出たいと言われてね。テレビ局に確認したら、大丈夫ですと言われたんだ」


 五反田氏はなぎさの暴走癖を知っているので、項垂れました。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


「くれぐれも、なぎさちゃんに余計な事を言わせないようにしてくれないかな?」


 五反田氏は苦笑いをして樹里に頼みました。


「承知しました」


 樹里は深々と頭を下げました。


「悪いね。お願いします」


 五反田氏はすぐに社用車で邸を出ました。


「行ってらっしゃいませ」


 樹里はまた深々と頭を下げました。




 その日の午後、番組の打ち合わせのため、一手Pと番組の担当ディレクターと漏斗じょうご一太いちたアナウンサーが来ました。


「お久しぶりです、樹里さん。漏斗です」


 漏斗アナは爽やかな笑顔で挨拶しました。


「担当Dの神崎直美です」


 ロングヘアーのスレンダーな美形です。性格は◯◯ちゃんと同じくらい悪いでしょうか?


「そんな事ありません!」


 神崎Dは果敢に地の文に抗議しました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「どうぞ、こちら、弊社のグッズの詰め合わせです」


 神崎Dが紙袋を手渡しました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で受け取りました。


 ご時世的に「詰め合わせ」という言葉はまずいのではないかと思う地の文です。


 樹里は三人を応接間に通しました。


「どうぞ」


 話に関わりたい弥生が、頼まれてもいないのに紅茶を淹れて来ました。


「うるさいわね!」


 本音を語った地の文に切れる弥生です。


「あの、本日は松下なぎささんはご同席されないのでしょうか?」


 一手Pが顔を引きつらせて尋ねました。神崎Dも同じです。事情を知らないのか、サイコパスなのか、漏斗アナはニコニコしています。


「サイコパスではないです」


 ごく冷静に地の文に抗議する漏斗アナです。その顔に怯えてしまった地の文です。


「なぎささんは、打ち合わせはしない主義だと言っていました」


 樹里は笑顔全開でなぎさの見解を伝えました。


「そうなんですか」


 一手Pと神崎Dは顔を引きつらせたままで、樹里の口癖で応じました。


(大丈夫かな、当日本番……)


 冷や汗が止まらなくなる一手Pと神崎Dです。


「では、資料をお渡しします。こちらはなぎささんの分です」


 神崎Dは樹里に資料を二部渡しました。


「そうなんですか」


 樹里はそれを手に取って見ました。


「ご存知の通り、『キッカリ!』は情報番組です。時事問題を主に取り上げて、それについてのご意見を述べていただきます」


 神崎Dが告げました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「進行はこちらの漏斗が致します。樹里さんとなぎささんにコメントを求める時には、漏斗がお名前をお呼びして、きっかけを作りますので、ご安心ください」


 神崎Dは言いましたが、本番では、なぎさには一切振らない事で一致しています。


 なぎさに伝えましょう。


「やめなさいよ!」


 地の文の悪巧みに切れる神崎Dです。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず、笑顔全開で応じました。


「では、次の日曜日、よろしくお願い致します」


 一手Pと神崎Dは深々と頭を下げましたが、漏斗アナはニコニコしているだけで、会釈すらしませんでした。


 やはり、サイコパスだと思う地の文です。


「樹里さん、なぎささん、大丈夫なんですかね?」


 三人が乗った車を見送った後、弥生が言いました。


「大丈夫ですよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「そうなんですか」


 苦笑い全開で応じるしかない弥生です。


 めでたし、めでたし。

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