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樹里ちゃん、代役を務める

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


「樹里さん、今度の日曜日、空いていますか?」


 汚れ芸人が性懲りもなく連絡して来ました。


 既読スルーでいいと思う地の文です。


「汚れ芸人じゃねえよ! それに連絡は電話だよ!」


 正しい表現をした地の文に切れる西園寺伝助です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「実は、ピン芸人のシイちゃんが不祥事を起こして番組に出られなくなったんです。その代役で、誰かいないかと言われて、樹里さんを推薦したら、プロデューサーが偉く乗り気になってですね……」


 要するに引っ込みがつかなくなり、樹里に泣きついて来た汚れ芸人です。


「ううう……」


 やはり自分は汚れ芸人だと自覚して項垂れる伝助です。


「空いていますから、いいですよ、私などで差し支えないのであれば」


 樹里は笑顔全開で快諾しました。


「えええ!? 出てくれるんですか? 恩に着ます、樹里さん」


 伝助は嘘泣きをして喜びました。


「嘘泣きなんかじゃねえよ!」


 真実しか語っていない地の文に切れる伝助です。


「では、早速グループの担当に連絡しますね。すぐに西園寺さんの携帯電話に連絡があると思います」


 樹里が告げると、


「そうなんですか」


 顔を引きつらせて応じる伝助です。実はそういう事が苦手なので、芸人になりました。


「かはあ……」


 図星を突かれて血反吐を吐く伝助です。今日は左京が登場しないので、代わりにのたうち回っています。


「出番なしかよ!」


 不甲斐ない夫で、頼りない父親の杉下左京が、またしても猫を探しながら地の文に切れました。




 そして、日曜日です。テレビ局が手配した高級ハイヤーが樹里を迎えに来ました。


「ではお姉さん、子供達をお願いします」


 樹里は姉の璃里に四姉妹を託すと、ハイヤーで出かけました。


 左京は朝から猫探しで、すでに家にはいません。今日中に猫を見つけないと、報酬がもらえないのです。


「気をつけてね!」


 璃里は自分の娘二人と、樹里の娘四人を預かるという重労働を押し付けられましたが、いつも樹里が代表して祖母の美玖里の旅館に行っているので、文句は言えないようです。


「そんなつもりはないわよ!」


 勘繰った地の文に切れる璃里です。


 璃里達は樹里が乗るハイヤーを見送りました。




 ハイヤーは何事もなく、テレビ局に着きました。そこは伝助のホームでもあるテレビ江戸です。


「樹里さん、今日はありがとうございます」


 伝助、高橋真冬アナ、ディレクター、プロデューサーが車寄せで出迎えました。


「よろしくお願います」


 樹里はハイヤーを降りると、深々と頭を下げました。


「ではこちらへ」


 プロデューサーが樹里を先導して、楽屋へ案内しました。


「あ、樹里さん、久しぶり」


 そこへスケベコンビが現れました。


「誰がスケベコンビだ!」


 地の文の紹介にイチャモンをつけるお笑いコンビのうぃんたーずのよりスケベな丸谷一男です。


 むっつりなスケベの下柳誠はにやけているだけです。


「お久しぶりです」


 樹里は丁寧に挨拶しました。


「樹里さん、そんな奴放っておいて構いませんよ」


 先輩の伝助が言い、樹里は奥へと進みました。


「けっ」


 丸谷と下柳は舌打ちしました。


「もしかして、シイちゃんの代役か? 伝助さん、すごいな。樹里さんなら、シイちゃんが出るより視聴率取れるだろ?」


 丸谷が言いました。


「だな」


 下柳はニヤニヤしました。


「シイちゃん、もう戻れないかもな」


 実はシイちゃんが好きだった丸谷は残念がりました。


「変な意味はねえよ!」


 意味深な事を述べた地の文に抗議する丸谷です。


 


「ええ? それはまずいでしょ? 五反田グループを敵に回しますよ?」


 伝助はプロデューサーと揉めていました。


「いや、でも、シイちゃんの代役で出てもらうのですから、シイちゃんがいつも着ている被り物を着てもらわないと」


 プロデューサーは伝助に詰め寄りました。


「そうですね……」


 テレビ江戸にはお世話になっている伝助は、プロデューサーに強く出られると何も言えません。


 汚れ芸人の面目躍如です。


「ううう……」


 反論の余地がないので、項垂れるしかない伝助です。


「樹里さんを説得してください、西園寺さん」


 嫌な役回りまで押し付けられる伝助です。


「わかりました」


 伝助は被り物を受け取り、樹里がいる楽屋へ行きました。


 


「どうぞ」


 樹里はノックに応じました。


「失礼します」


 伝助が被り物を抱えて入って来ました。


「樹里さん、伝えていない事があったんですが」


 伝助は消え入りそうな声で告げました。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず、笑顔全開で応じました。


「実はですね、元々番組に出ていたシイちゃんが着ていた衣装がありまして、それを樹里さんに着てほしいそうなんです」


 伝助は被り物を樹里に渡しました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で受け取りました。それは鶏の被り物で、身体の部分は、へそ出しのタンクトップと、太もも剥き出しのショートパンツです。


(断られるよなあ……)


 伝助は項垂れていました。


「素敵な衣装ですね」


 樹里が笑顔全開で意外な事を言ったので、


「ええ?」


 伝助は樹里を見ました。


「私は西園寺さんに助けられたので、西園寺さんの頼みであれば、喜んでお引き受けしますよ」


 樹里は笑顔全開で告げました。


「樹里さん!」


 伝助は号泣しました。


「着てみますね」


 樹里はおもむろに着替えを始めたので、


「あああ、俺、出ますから!」


 伝助は慌てて楽屋を出ました。


 


 こうして、テレビ江戸は開局以来の高視聴率を叩き出しました。


 鶏の被り物をして、へそ出しで太ももむき出しの樹里は、笑顔全開でスタジオを盛り上げました。


(樹里さん、俺、一生貴女の奴隷になります)


 伝助は人知れず涙しました。


 


 ママが生放送に出ると瑠里達は揃って番組を観ていましたが、樹里の格好を見て、璃里は顔を引きつらせ、左京は卒倒しました。


 しかし、瑠里達と実里、阿里は大喜びをしました。


「ママ、かっこいい!」


 瑠里と冴里が叫び、乃里と萌里は飛び跳ねました。実里と阿里も瑠里と冴里とハイタッチしました。


(子供達が喜んでいるのなら、いいのかな?)


 璃里は苦笑いをしました。左京は気絶したままです。


 めでたし、めでたし。

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