樹里ちゃん、誕生日を祝ってもらう
御徒町樹里は居酒屋でサンタバージョンで働くメイドです。
今はメイド服を着ていないので、メイドではないのかも知れません。
樹里の名ばかりの夫である杉下左京は、樹里に誕生日のお祝いをする事を話すつもりでしたが、樹里の話に驚愕して、言い出せなくなりました。
樹里の誕生日は、十一月二十七日です。
左京はこっそりプレゼントを買って来ました。
そして探偵事務所に行きました。
「何ニヤニヤしてるのよ、左京?」
先日の一件で、ダメ所員から卒業した宮部ありさが言います。
「樹里の誕生日なんだ」
言ってしまってからハッとする左京です。
「あら、いつ?」
「あ、明日」
左京は項垂れています。
「何よ、その反応? 私には内緒にするつもりだったな!?」
ありさはムッとして左京を睨みます。
「お前、ロクな事しないからだよ! 高校の時の事、忘れたのか!?」
左京はありさを睨み返します。
「あはは、忘れたわん」
ありさは笑って誤魔化そうとします。
「ケーキの中にまんじゅう入れやがって」
左京が言うと、ありさは、
「もうそんな事しないから、私も参加させてよ。樹里ちゃんにはいろいろとお世話になってるからさ」
「絶対だな?」
左京はまだ疑っています。
「絶対よ」
ありさも真顔で応じました。
「それから、樹里には内緒だぞ。ビックリさせるんだからな」
「はいはい」
ありさは肩を竦めて言いました。
ありさは左京との約束をした後、すぐに事務所を出ます。
営業に行くフリして、樹里にばらしに行くのです。
「左京め、私を除け者にしようとした罰よ」
ありさは樹里がいる居酒屋に着きました。
「いらっしゃいませ」
樹里がサンタの格好で現れたので、ありさの悪戯心が増大します。
「樹里ちゃん、お願いがあるんだけど」
「何でしょうか?」
樹里は笑顔全開です。
そして誕生日当日です。
樹里は居酒屋を早上がりして、十時頃事務所に来る事になっています。
事務所では、母親の由里や妹達、そして姉の璃里も参加して飾り付けをしてくれました。
「じゃあねえ、左京ちゃん」
由里達は樹里が来る前に事務所を去ります。
「ああ、一緒にお祝いしましょうよ、お母さん達も」
左京が止めましたが、由里は、
「そんなの、野暮ってものよ、左京ちゃん」
「そうですよ。二人きりでお祝いして下さい」
お腹の大きくなった璃里も樹里と寸分違わぬ笑顔で言います。
「あ、ありがとうございます」
由里と璃里は、嫌がる真里、希里、絵里を引き摺るようにして帰って行きました。
「ありさの奴も、結局いなくなったし……」
左京は何故かドキドキして来ました。
(樹里と二人きり……)
妄想で鼻血が出そうな左京です。
そして夜の十時。樹里が事務所に到着しました。
「遅くなりました、左京さん」
樹里はロングコートを着て現れました。
「あれ? そんなの持ってたのか?」
「ありささんに借りました」
樹里が笑顔全開で言います。
「あの、これ?」
樹里は周りを見回します。
「HAPPY BIRTHDAY JURI!」と書かれた横断幕があります。
たくさんのモールと電飾で彩られた事務所は、別世界のようです。
「誕生日おめでとう、樹里」
左京は背中に隠していたラッピングされた箱を差し出します。
「左京さん」
樹里が笑顔のまま涙ぐみます。
「さあ、座って。蝋燭に火を点けるから」
「はい」
樹里はコートを脱いでソファに座ります。
「ブ!」
左京は鼻血を垂らしてしまいました。
樹里はサンタの服のままだったのです。ムチムチバージョンの方です。
ありさの悪戯です。樹里はそのままの格好で帰るように言われたのでした。
「早く火を点けて下さい、左京さん」
樹里が笑顔全開で言いました。
「あ、ああ……」
左京は貧血を起こして倒れてしまいました。
「左京さん?」
樹里は驚いて左京に駆け寄ります。
「ハッピバースデイ、樹里」
左京は意識が朦朧とする中、それだけ言いました。
「ありがとうございます、左京さん」
樹里が左京にソッと口づけしたのを左京は知りません。
めでたし、めでたし。