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樹里ちゃん、選挙の応援を頼まれる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日も樹里は笑顔全開で出勤します。


「行って来ます!」


 長女の瑠里はレギュラー獲得を成し遂げ、今まで以上に部活に力を入れています。


 そのせいで、ボーイフレンドのあっちゃんとはうまくいっていません。


「余計なお世話よ!」


 親身になって心配している地の文に容赦なく切れる瑠里です。


「行ってらっしゃい」


 瑠里があっちゃんとうまくいっていないのを知った不甲斐ない夫で情けない父親の杉下左京は嬉しそうに言いました。


「やめろ!」


 真実を明らかにしただけの地の文に血の涙を流して切れる左京です。


 不甲斐なくて情けないのは認めるようです。


「かはあ……」


 痛いところを突いた地の文のせいで、血反吐を吐く左京です。


「はっ!」


 我に返ると、樹里は昭和眼鏡男達と駅に向かっており、次女の冴里と三女の乃里は集団登校で小学校へと歩き出していました。


「パパ、ちこくしちゃうよ!」


 四女の萌里がほっぺを膨らませて左京を叱りました。


「わかったよお、萌里ィ」


 いつものように気持ち悪い顔で応じる左京です。


「ワンワン!」


 ゴールデンレトリバーのルーサが、


「バカが酷くなっているぞ」


 そう言っているかのように吠えました。


 


 樹里は何事もなく五反田邸に到着しました。


「では樹里様、お帰りの時にまた」


 眼鏡男達は敬礼して去りました。


「樹里さーん!」


 そこへ騒がしいだけが取り柄の目黒弥生が走って来ました。


「騒がしいだけが取り柄って何よ!?」


 地の文に八つ当たりする弥生です。では、「元泥棒の目黒キャビー」の方がいいですか?


「騒がしいだけが取り柄の方がいいわよ!」


 涙目で更に切れる弥生です。


「はっ!」


 我に返ると、樹里はすでに着替えをすませ、庭掃除を始めていました。


「樹里さん、私もすぐに始めますう!」


 泣きながら走り出す弥生です。


「え?」


 弥生は何かを感じました。ア◯ロ・レイでしょうか? 


 今、その話題は御法度センシティヴだと思う地の文です。


「違うわよ! 悪寒が走ったのよ!」


 弥生が切れていると、黒塗りのリムジンが車寄せに停まりました。


 しばらくぶりに、あのバアさんの登場です。


「誰かが悪口を言っているようだけど、幻聴なのよ!」


 後部座席から現れたのは、落ち目の作家の大村美紗です。


「また悪口が聞こえたような気がするけど、空耳なのよ!」


 更に叫ぶ美紗です。


「いらっしゃいませ、大村様」


 樹里と弥生はリムジンに駆け寄り、頭を深々と下げました。


「あら、ご機嫌よう、樹里さん、愛さん」


 美紗はまたしても弥生の名前を間違えました。


(このクソババア、わざとだろ!)


 舌打ちする弥生です。




 美紗はいつものように応接間に通されました。


「実はね、樹里さん、今日はお願いがあって来ましたの」


 美紗はソファにふんぞり帰って言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「どうぞ」


 弥生が紅茶の入ったカップをテーブルに置きました。


「選挙が始まっているでしょう?」


 美紗はったままです。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「私、ある方を応援していますの。ですから、樹里さんにもその方を応援していただきたくて、それを頼みに来ましたのよ」


 とても頼んでいるような態度には見えない美紗の仰け反り方です。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず、笑顔全開で応じました。


(クソババアの応援する候補者なんて、泡沫候補でしょ?)


 弥生は肩をすくめました。


「是非とも、樹里さんに応援演説をしてほしいんですの。この通り、お願いしますわ」

 

 美紗は顔を元に戻しました。美紗的には、これが頭を下げている状態です。


(全然、お願いしてねえだろ、クソババア)


 弥生は呆れて応接間を出て行きました。


「どなたの応援演説でしょうか? 旦那様にも頼まれておりまして」


 樹里が笑顔全開で告げると、


「ええ!?」


 美紗の顔色が悪くなりました。


(五反田さんが推している候補は、梅田ゆずるさんだわ。でも、お願いしたいのは、花札寅雄さん)


 絶対に無理だと悟った美紗は、


「出直しますわね」


 作り笑顔全開で応じると、応接間を出て行きました。


「お帰りですか?」

 

 樹里は慌てて美紗を追いかけました。するとそこへ、


「ヤッホー、樹里! 頼みがあって来たよお!」

 

 いきなり松下なぎさが現れました。


「ひいい、なぎさ、なぎさ!」


 美紗はなぎさを見た途端、ひきつけを起こしてしまいました。


「ああ、叔母様、いらしてたの?」


 なぎさは美紗を見て驚きましたが、ひきつけに気づいていません。


「叔母様、樹里の作ってくれるクリームソーダは絶品だから、飲んで行きなよ」


 なぎさは強引に応接間に美紗を連れて行きました。そして、


「樹里、クリームソーダ二つ、お願いね」


 ドアを閉じました。その次の瞬間、


「なぎさ、なぎさ!」


 美紗の断末魔のような叫び声が聞こえ、ドタッと倒れる音がしました。


「叔母様、どうしたの? 寝不足なの?」


 ようやく美紗の異変に気づいたなぎさです。


「大村様、どうなさいましたか?」


 樹里はドアを開けて、応接間に入りました。美紗は床に倒れていました。


「樹里、叔母様、睡眠不足みたいなの。ソファに寝かせよう」


 なぎさは樹里に手伝わせて、美紗をソファの上で横にしました。


「脈拍も正常、血圧も落ち着いています」


 樹里はすぐさま看護師の顔になり、美紗をました。


「ああ、そうだ。樹里は今度の選挙、誰に投票するの?」

 

 いきなり踏み込んだ事を訊くなぎさです。


「まだ決めていません」


 樹里が笑顔全開で告げました。


「ああ、そうなんだ。だったらさ、六ちゃんが推してる梅干さんに入れてあげてよ。六ちゃん、その人と小学校の同級生で、それ以来会った事がないらしいんだけど、仕方なく応援しているんだって。落選してしまいそうだからって、私もお願いされたんだよ」


 梅干さんではなく、梅田さんの間違いです。このままでは、なぎさの一票は無効になると思う地の文です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


「左京さんにもお願いできるかな?」


 なぎさが呟きました。左京は公民権が停止されているので、無理だと思う地の文です。


「されてねえよ!」


 どこかで切れる左京です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開です。美紗は気絶全開です。


 めでたし、めでたし。

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