樹里ちゃん、瑠里を応援する
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
長女の瑠里は、女子バスケ部の部長に見出され、毎日朝から部活に励んでいます。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で自分より早く家を出る瑠里を見送りました。
「心配だ」
不甲斐ない夫の杉下左京は、また瑠里が通学するのをずっと見守ろうとしました。
「ダメですよ、左京さん。過保護は瑠里に悪影響です」
樹里は笑顔全開で左京を止めました。
「そうなんですか」
引きつり全開で応じる左京です。実は都立本郷中等教育学校の女子生徒を見に行きたいだけなのは内緒にしておこうと思う地の文です。
「違う、断じて違う!」
しばらくぶりに某進君の真似をして地の文に切れる左京です。
「樹里様と冴里様と乃里様と萌里様にはご機嫌麗しく」
そこへ降板させたはずの昭和眼鏡男と愉快な仲間達が現れました。
「我らは降板などしていません!」
涙ぐんで地の文に抗議する眼鏡男達です。
「瑠里様の事はご安心ください。我らの仲間が陰ながら護衛しております」
眼鏡男が言いました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開、左京は引きつり全開で応じました。
(こいつら、樹里だけではなく、瑠里にまで触手を伸ばして来たのか?)
左京は眼鏡男達の底知れなさに恐怖しました。でも、スペースコロニーは落としていません。
「では、行って参りますね」
樹里は眼鏡男達に守られて、JR水道橋駅へと向かいました。
「行って来ます」
次女の冴里と三女の乃里は、集団登校で小学校へ向かいました。
「パパ、いっちゃうよ」
四女の萌里が仁王立ちで告げました。
「わかったよお、萌里」
相変わらずの気持ち悪さで応じる左京です。
「うるせえ!」
正直に描写した地の文に理不尽に切れる左京です。
そして、樹里は何事もなく五反田邸に到着しました。
「では樹里様、お帰りの時にまた」
眼鏡男達は敬礼して去りました。
「樹里さーん!」
そこへやはりしばらくぶりに登場の目黒弥生が走って来ました。
「おはようございます」
樹里は笑顔全開で挨拶しました。
「おはようございます。瑠里ちゃん、中学校生活、慣れましたか? 早いものですよね」
弥生はしみじみ思い出しました。瑠里がまだよちよち歩きの頃から知っているからです。
「何だか、年を取った気がします」
弥生は樹里より若いはずなのに、もう初老のようです。
「やめてよ!」
年齢を詐称する地の文に涙ぐんで切れる弥生です。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
「長男の颯太も、すぐに中学生になってしまうのでしょうね」
弥生がまたしみじみ言うと、樹里はすでに玄関に着いていました。
「樹里さん、待ってください!」
泣きながら走る弥生です。
「あれ?」
瑠里は朝の練習を終え、教室に戻りました。何故か、瑠里の席の椅子がありません。
意地悪な◯イカが隠したのです。
「その清原じゃないわよ! 私の名前は納言よ!」
名前ボケが三度の飯よりも好きな地の文に切れる清原納言です。
「まあ、いっか」
瑠里はしれっと納言の椅子を取り、座りました。
「ちょっと! それは私の椅子よ! 返しなさいよ!」
納言が瑠里に食ってかかりました。
「そういうの、やめなよ、清原さん。君が杉下さんの椅子を隠したの、見たよ」
自称イケメンの野田慶熙が言いました。
「自称じゃなくて実際イケメンだよ!」
また臆面もなく自分の事をイケメンだと言い張る野田です。
「く……」
納言は瑠里派の男子達に睨まれて、仕方なく引き下がりました。そして、掃除用具入れに隠した瑠里の椅子を取り出して、
「貴女、生意気なのよ」
瑠里に返しました。
「生意気?」
身に覚えがない瑠里は首を傾げました。
(か、可愛い!)
それを見た瑠里派の男子は一斉に思いました。
(キイイ!)
野田が瑠里にぽおっとしているのを見て、野田と幼馴染である村上麻莉奈がいきり立っていました。
(私の方が可愛いのよ! 慶熙、目を覚まして!)
茉莉奈は思いました。目を覚ますのは貴女の方だと思う地の文です。
「うるさいわね!」
真実を述べた地の文に切れる茉莉奈です。
「左京さん、聞いてます?」
仕事の依頼に来た坂本龍子弁護士が、上の空状態の左京に言いました。
「え? あ、すみません」
左挙は我に返って謝罪しました。
「瑠里ちゃんが中学校に行くようになって、心配なのはわかりますが、仕事はきちんとしてくださいね」
龍子はムッとしました。
「申し訳ない」
左京は平謝りです。
ああ、私も左京さんの子供が産みたかった。龍子は思いました。
「そんな事、思ってないわよ!」
心情を捏造した地の文に切れる龍子です。でも、欲しいのは事実です。
「やめて!」
しつこい地の文に更に切れる龍子です。顔が真っ赤です。
やがて夜になり、樹里が帰宅しました。
「ママ、お帰りなさい」
冴里と乃里と萌里が出迎えました。
「パパはどうしましたか?」
樹里が笑顔全開で尋ねました。
「パパはお仕事だよ」
冴里が言いました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じて、リヴィングルームへ行きました。その時、瑠里が帰宅しました。
「お帰り、お姉ちゃん」
冴里が出迎えました。乃里と萌里も、
「おかえり」
樹里と共に出迎えました。
「ママ、ちょっといい?」
瑠里は樹里に言いました。
「いいですよ」
樹里は瑠里を伴って、瑠里の部屋へ行きました。
「何かあったのですか?」
樹里は笑顔全開で訊きました。瑠里はベッドに腰かけて、
「今日、学校で、椅子を隠されたの。清原さんていう子なんだけど、私の事を生意気だって言ったの」
珍しく涙ぐみました。ボーイフレンドのあっちゃんと喧嘩しても、あっちゃんを泣かしてしまう瑠里なのに。
「違うわよ!」
捏造が止まらない地の文に切れる瑠里です。
「そうなんですか」
樹里はそれにも関わらず笑顔全開で応じました。そして、
「ママも、いじめられたことがあったらしいのです」
瑠里は首を傾げて、
「らしいってどういう事?」
すると樹里は、
「私はいじめられた記憶がないのですが、璃里伯母さんによると、毎日いじめられていたそうです」
「ええ?」
瑠里は驚きました。ママはクラスの人気者だと聞いていたからです。
「大丈夫ですよ。ママは何があっても、瑠里の味方です」
樹里は瑠里を優しく抱きしめました。
「ありがとう、ママ」
瑠里は涙をこぼして礼を言いました。
めでたし、めでたし。