樹里ちゃん、瑠里のモテ期を心配する左京を諭す
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
長女の瑠里は、都立本郷中等教育学校に入学してから、たくさんの男子生徒に手紙をもらい、モテまくっています。
瑠里は全然揺るがないのですが、ボーイフレンドのあっちゃん(田村淳)(決してロン◯ーではありません)が気を揉んでいるようです。
そしてもう一人、不甲斐ない父親の杉下左京も気を揉んでいました。
「そうなんですか」
それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。
(瑠里は樹里に瓜二つになって来たから、前から心配だったんだ。それが現実になってしまった)
左京は中学生男子の欲望の強さをよく知っています。自分がそうだったからです。
「やめろ!」
図星を突いた地の文切れる左京です。
(心配だ。瑠里を送り迎えしようか?)
無職の左京なら、それも可能です。
「無職じゃねえよ!」
現実を突きつけた地の文に理不尽に切れる左京です。
「大丈夫だよ、パパ。心配してくれて、ありがとう」
瑠里は真顔の樹里が見ているので、いつもより優しい言葉をかけてくれました。
「そうか」
左京は瑠里の言葉に顔がデレました。気持ち悪いと思う地の文です。
「うるさい!」
正直が信条の地の文に切れる左京です。
「行って来ます!」
入部したバスケ部の朝練に参加するために、瑠里は樹里より早く出かけました。
「行ってらっしゃい、お姉ちゃん!」
最近、松下なぎさの長男の海流とうまくいっている次女の冴里が笑顔全開で言いました。
「いってらっしゃい!」
三女の乃里と四女の萌里も笑顔全開です。
「それでもやっぱり、心配だよ。中学生男子は、樹里が思っている程、品行方正じゃないぞ」
左京は溜息混じりに言いました。
「そうなんですか?」
樹里は首を傾げて応じました。
(可愛い! 樹里、可愛過ぎる!)
左京は娘達がいなければ、樹里に抱きついていました。
「大丈夫ですよ。母に似て、瑠里はしっかりしていますから」
樹里の言葉にギョッとする左京です。
「やっぱり?」
引きつり全開で応じる左京です。
でも、樹里は高校を卒業して数年で、ロリコンの中年と結婚してしまいましたから、瑠里もそうなるかも知れません。
「誰がロリコンだ!」
自分の事を言われたのに気づき、地の文に激ギレする左京です。
(俺は樹里の人生を奪ってしまったのか?)
自己嫌悪に陥る左京です。
瑠里は何事もなく、学校に着きました。
「杉下さん!」
瑠里の入り待ちをしている男子生徒達が群がりました。
「邪魔!」
それを女子バスケ部の部長が蹴散らしました。
「杉下さんは期待の新星なの! あんた達みたいなハイエナに触れさせないわ!」
身長が二メートル近くある部長は、新一年生には驚異です。
「ひいい!」
ほとんどの男子が蜘蛛の子を散らすように逃げました。
「さ、行きましょう、杉下さん」
部長はにこやかに言いました。
「はい、部長」
瑠里は笑顔全開で応じました。
(杉下さん、君のハートは僕のものさ)
それを教室の窓から見ている男子がいました。名もなきモブキャラです。
「違う! 僕は野田慶熙。クラス一のイケメンだ!」
自分の事をイケメンと言ってしまうかなり痛い子です。
(あいつが杉下の事を狙っているのか。諦めるしかないのか?)
瑠里とは小学校の時からの同級生である二人のモブキャラは思いました。
「小島翔だよ!」
一人が叫びました。
「渡部悠斗だよ!」
もう一人が叫びました。
(慶君、貴方の一番はこの私なんだからね!)
野田をジッと見つめている瑠里よりは可愛さで劣る女子がいました。
「私の方が可愛いわよ!」
真実を述べたはずの地の文に切れる女子です。村上麻莉奈と言います。野田とは小学校からの同級生です。
(そうか。野田が杉下を狙っているのか。ならば、私がその仲を裂いてやる)
枕草子は思いました。
「それは随筆のタイトル! それに私は清少納言じゃないわよ!」
名前ボケに余念がない地の文に切れる清原納言です。クラスのボス的存在になりつつあります。
(杉下瑠里。この学校のマドンナは私だよ)
みゆきはニヤリとしました。
「その納言じゃないよ!」
名前ボケが止まらない地の文に切れる納言です。
「はあ……」
新学期が始まって一週間で、すでに疲労困憊の村崎真紘先生です。
(クラスの男子が杉下さん派と清原さん派に分かれて対立しているのが一番疲れる)
実は村崎派も存在しているのを知らない真紘先生です。
「村崎先生、溜息を吐くと幸せが逃げていきますよ」
教頭先生が言いました。今時、そんな事を言う人は珍しいと思う地の文です。
「ああ、すみません、教頭先生」
真紘先生は苦笑いで応じ、そそくさと職員室を出て行きました。
「クラス担任は荷が重過ぎたかしらねえ」
教頭先生は腕組みをしました。
「お帰りなさい、ママ」
樹里が帰宅すると、冴里と乃里と萌里が出迎えました。
「パパはどうしましたか?」
樹里が笑顔全開で尋ねました。
「瑠里お姉ちゃんが心配だって、学校まで行ったみたい」
冴里が言いました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
「只今」
するとそこへ、左京が瑠里と帰って来ました。
「瑠里、先にお風呂に入ってしまいなさい」
樹里が告げました。
「はーい」
瑠里はさっさと浴室へ行きました。樹里は冴里達をリヴィングルームへ行かせると、
「左京さん、ダメですよ、瑠里の様子を見に行ったりしては」
樹里が真顔で言いました。
「は、はい」
左京はビクッとして応じました。
「でも、私は良いパパだと思っています」
樹里は笑顔全開で告げました。
「そうなんですか」
左京は引きつり全開で応じました。
「瑠里と一緒に帰れて嬉しいですか?」
樹里が尋ねました。左京は顔を赤らめて、
「う、嬉しいよ。もうそろそろ、『パパ、臭い』って言われそうだからさ」
「そうなんですか? そんな事は言わないと思いますよ」
樹里は笑顔全開で応じました。
「え? どうして?」
左京はキョトンとしました。
「瑠里はパパの事が大好きだからですよ」
樹里が笑顔全開で言ったので、
「そ、そうなんですか」
左京は赤面全開で応じました。
めでたし、めでたし。