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樹里ちゃん、祖母を送る

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里の祖母にあたる御徒町美玖里が、樹里の不甲斐ない夫の杉下左京に恋をしてしまい、家まで尾いて来ました。


「いい加減な事を広めるんじゃないよ!」


 正確無比な事を述べた地の文に理不尽に切れる美玖里です。顔が真っ赤です。


「うるさいよ!」


 左京が入浴した時、こっそり覗きに行った美玖里です。


「やめてくれ!」


 真実を突きつけられ、涙ぐんで地の文に懇願する美玖里です。


(ああ、私はどうかしている。樹里の旦那の入浴を覗こうとするなんて……)


 結局、未遂で終わったようです。


(それにしても、似過ぎてるんだよ、あの人に……)


 美玖里は遠い目をしました。亡くなった夫の事を思い出しているようです。


「お祖母ちゃん、朝食の準備ができましたよ」


 今日は日曜日なので、樹里は休みです。ついでに左京はいつも休みです。


「うるせえ!」


 無職ではなく、仕事がないだけだと言い張っている左京が、地の文に切れました。


「そうかい。ありがとうね。今日で帰るよ」

 

 美玖里は寂しそうに告げました。


「もっといてくれていいんですよ、お祖母ちゃん」


 樹里は笑顔全開で言いました。美玖里は苦笑いをして、


「そうもいかないんだよ。番頭からのラインがとんでもない量来ていてね。最初は私がいなくて、ホッとしていたらしいんだけど、だんだん仕事が追いつかなくなって、早く帰って欲しいと矢の催促なんだよ」


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「帰りは、新宿駅まで送ってもらえれば、I温泉経由のK温泉行きのバスがあるから、それに乗って帰るよ」


 美玖里が言うと、


「旅館まで送るそうですよ、左京さんが」


 樹里が笑顔全開で告げました。


「え?」


 美玖里はギクッとしました。


「まさか、ヒモ亭主だけなのかい?」


 美玖里は心臓が口から出そうなくらいドキドキしました。


「左京さんだけがいいのですか?」


 樹里が笑顔全開で突っ込んだ質問をしました。


「そ、そんな訳ないだろ! 樹里達も一緒に来ておくれ。あいつに襲われたら、困るから」


 美玖里は顔を真っ赤にして、とんでもない事を言いました。


 いくら左京が女好きでも、貴女は襲わないと思う地の文です。


「うるさいよ!」


 真実を突きつけた地の文に切れる美玖里です。


「俺は女好きじゃねえよ!」


 大嘘吐きの左京が地の文に切れました。


 こうして、樹里達は美玖里を送るためにミニバンで出発しました。


 長女の瑠里と次女の冴里は留守番です。


「ワンワン!」


 ゴールデンレトリバーのルーサが、


「二人の警護は任せてくれ!」


 そう言っているかのように吠えました。


(信用ないんだなあ)


 運転を任せてもらえると思った左京は、助手席に座らされて、がっかりしています。


 美玖里は三女の乃里と四女の萌里に挟まれて、中部座席に座っています。


「出発します」


 樹里の合図で、ミニバンは発車しました。


(この角度、そっくりだ)


 美玖里は助手席の左京をうっとりして見ています。


「ひいお祖母ちゃん、パパが好きなの?」


 いきなり直球の質問をぶっ放す乃里です。


「な、何を言うんだい、萌里!?」


 あたふたして曾孫ひまごの名前を間違える美玖里です。


「わたしはのりだよ。もりはそっち」


 乃里はムッとして萌里を指差しました。


「ああ、そうかい、ごめんよ、乃里」


 美玖里は苦笑いをして言いました。そして左京をこっそり見ると、能天気な左京は樹里に夢中でした。


(樹里はわたしが若い頃にそっくりだね)


 美玖里は妄想をしました。


「そっくりなんだよ!」


 疑念を抱いた地の文に抗議する美玖里です。


(ごめんよ、お前さん。いくら似ているとはいえ、この人は孫の夫だよね。私が好きなのは、あんただけだよ)


 気持ち悪い事を考えている美玖里です。


「余計なお世話だよ!」


 地の文に更に切れる美玖里です。


 樹里の高等テクニックにより、ミニバンはたちまち関越自動車道に乗りました。


(さすが樹里! 俺にはできない)


 早速運転交代を諦める左京です。


 樹里は三つ先の信号のタイミングを見切り、次々に交差点を曲がり、数十台の車を抜いていました。


「こちらの方が空いています」


 渋滞予測は、カーナビより優れており、快適なドライビングです。


(もはや神の領域だ)


 心の中で絶賛する左京です。


 その日は、最寄りのインターチェンジのSIインターチェンジが事故渋滞しているので、樹里はMインターチェンジで降り、国道を巧みに乗り継いで、予定時刻より早く、御徒町旅館に到着しました。


「大女将、お帰りなさい!」


 涙ぐんで出迎える番頭です。


「苦労かけたね、番頭さん。もう大丈夫だよ」


 美玖里は笑顔全開で応じました。


(似ているな、樹里と)


 左京は美玖里と樹里を重ねました。


(美玖里さんと由里さんも似ているという事は、樹里も将来美玖里さんか由里さんみたいになるのか?)


 左京はゾッとしてしまいました。


「ありがとうね、樹里、左京さん。またおいでよ」


 美玖里がいいました。


「はい、お祖母ちゃん」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「また来ます、美玖里さん」


 左京も笑顔で応じました。ミニバンは御徒町旅館を出発しました。


「あれ?」


 左京はその時、やっと気づきました。


「さっき美玖里さん、初めて『左京さん』て言ってくれた」


 左京が言うと、


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「やっと、認めてもらえた気がするよ」


 左京は樹里を見ました。


「そうなんですか」


 樹里はまた笑顔全開で応じました。乃里と萌里は疲れて眠っています。


「また来ような。今度は家族全員で」


 左京が言うと、


「それでは、マイクロバスにしないといけませんね」


 樹里が言いました。


「え? それって、由里さん一家も一緒って事?」


 顔が引きつる左京です。


「お姉さん一家も一緒がいいですか?」


 樹里が悪気なく尋ねました。


「樹里に任せます」


 引きつり全開で応じる左京です。


 めでたし、めでたし。

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