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樹里ちゃん、お雛様になる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は三月三日です。全国的にひな祭りの日です。


 そして、皮肉な事に汚れ芸人の西園寺伝助の誕生日でもあります。


「汚れ芸人じゃねえよ!」


 正しい表現をした地の文に理不尽に切れる伝助です。


 では、事故芸人ですか?


「誰が〇〇〇○だ!」


 具体名を出して切れる伝助です。咄嗟に伏せ字にするコンプラに忠実な地の文です。


 では、○○害芸人ですか?


「やめろ!」


 タイムリーなボケをかました地の文に震えながら切れる伝助です。


 遡る事、一週間前です。


「伝助さん、誕生日企画を考えておりまして、何かご希望はありますか?」


 よく一緒になる親しい関係のテレビ江戸のプロデューサーが尋ねました。


 俗に言う「ズブズブな裏金のつながり」です。


「それもやめろ!」


 コンプライアンスに過敏になっている伝助が地の文に切れました。


「じゃあさ、御徒町樹里さんと雛人形になって記念撮影したい」


 デレデレな顔になって言う伝助です。気持ち悪いです。


「おお、それいいですね。早速、樹里さんにお伝えします」


 プロデューサーは、樹里が出てくれれば汚れ芸人の企画でも視聴率が取れると判断したようです。


「やめろ!」


 異口同音に地の文にそれぞれの理由で切れる伝助とプロデューサーです。


 実のところ、多分断わられるだろうと思ったプロデューサーですが、


「いいですよ。西園寺さんには、先日、助けていただきましたから」


 樹里に快諾されたので、


「そうなんですか」


 樹里の口癖で応じました。


「衣装はこちらで用意しますね」


 樹里に言われて、


「ありがとうございます!」


 予算の大幅な削減に成功したプロデューサーは歓喜しました。


 


 そして、ひな祭り当日です。


「お待ちしておりました」


 局の正面玄関で出迎えたプロデューサーがついうっかり不適切発言をしてしまいました。


「お待たせして申し訳ありません」


 樹里は深々と頭を下げて謝罪しました。


「いや、そんなつもりはなくてですね……」


 焦るプロデューサーです。


「ああ、ママに謝罪を強要したわね!」


 すかさず指摘する長女の瑠里です。


「パワハラだわ」


 次女の冴里が言いました。


「パラパラだわ」


 三女の乃里と四女の萌里がボケなのか、言い間違いなのかわからない事を言いました。


(うわ、ミニ樹里さんの団体!)


 初めて見る樹里にそっくりな四姉妹に驚愕するプロデューサーです。


「いや、そんなつもりはなくてですね……」


 気を取り直したプロデューサーが弁解すると、樹里達はすでにそこにはおらず、伝助に先導されて奥へ進んでいました。


「待ってください、樹里さん!」


 涙ぐんで追いかけるプロデューサーです。


 


「今日はですね、うぃんたーずの番組を急遽生放送にして、その中で伝助さんと樹里さんに雛人形の格好をしていただいて記念撮影をするというていにします」


 追いついたプロデューサーがゼイゼイしながら説明ました。


「そうなんですか」


 樹里達は笑顔全開で応じました。


(樹里さんも可愛いけど、娘さん達も可愛いな)


 コンプラ違反になりそうな顔をする伝助です。


「そんなつもりはねえよ!」


 ロリコン疑惑をかけた地の文に切れる伝助です。


「ねえ、おじいちゃんはいくつになるの?」


 全然悪気なく尋ねる乃里です。


「お、おじいちゃん?」


 ショックのあまり、固まってしまう伝助です。


 実は瑠里達の祖母である由里は伝助より若いという悲しい現実があります。


「かはあ……」


 地の文の残酷な囁きに血反吐を吐いてしまう伝助です。


「伝助さんは、今日で五十五歳になります」


 プロデューサーも悪気なく言いました。


「くうう……」


 七転八倒する伝助です。


「お祖母ちゃんの方が若いね」


 ダメ押しをする冴里です。


「本当だ」


 瑠里が追い討ちをかけました。


「まずいな。逃げるか?」


 伝助と同世代のうぃんたーずの二人はヒソヒソ話しています。


「お二人は伝助さんと同級生ですよね?」


 何の悪気もなく、公表してしまう「うぃんたーずの一歩二歩散歩」のアシスタントを務めるテレビ江戸のアナウンサーの髙橋真冬です。


「そうなんですか」


 樹里達は笑顔全開で応じましたが、


「そうなんですよ」


 引きつり全開で応じるうぃんたーずの下柳誠と丸谷一男です。


 満身創痍の伝助とうぃんたーずの二人は、何とかプロとしての務めを果たして、番組を進行し、遂に雛人形の撮影になりました。


「おお!」


 樹里は四姉妹と共に十二単衣じゅうにひとえに着替えて登場しました。


 そこにいた男性陣が色めきたちました。樹里も綺麗ですが、瑠里と冴里もすでに美人の域に達しています。


(画角から外れたい)


 髙橋真冬アナは思いました。そこへ貧乏貴族の三人が来ました。


「誰が〇〇〇〇○山だ!」


 また不適切発言をする伝助です。素早く伏せ字にする地の文です。


 苦笑いをしている下柳と丸谷です。


「はい、では記念撮影をします。皆さん、並んでください」


 恥知らずの伝助は中央に立ち、樹里と瑠里に挟まれました。ご満悦な変態です。


「変態じゃねえよ!」


 正しい指摘をした地の文に切れる伝助です。恥知らずなのは認めるようです。


 身の程をわきまえている下柳と丸谷は後列に並びました。


「いやいやいやいや、私は遠慮します!」


 泣きながら拒んだ真冬アナですが、瑠里と冴里の間に立たされました。


(ああ、私のおたふく顔が目立ってしまう……)


 可愛い系で売っていた自分を呪いたくなる真冬アナです。


(顔を出さなくて正解だった)


 スタジオの扉の陰から覗き見ているのは、先代のアシスタントを務めた江藤さつきアナです。


「あ」


 すると、プロデューサーがさつきアナに気づきました。さつきアナは身の危険を感じた小動物のように震え出し、逃走しました。


「あれ? さっき、そこに江藤がいなかったか?」


 プロデューサーが女性のADに尋ねました。


「いたような気がしますが」


 女性のADは苦笑いしました。するとプロデューサーは、


「じゃあ、代わりにお前、記念撮影に加われ」


 陰湿な目で告げました。


「断固拒否します!」


 しかし、Z世代のADには通用しませんでした。


「そうなんですか」


 プロデューサーはコンプラの厚い壁に阻まれて、樹里の口癖で応じました。


 めでたし、めでたし。

 

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