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樹里ちゃん、週刊誌に狙われる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は日曜日です。


 長女の瑠里が見事に中高一貫校に合格したので、樹里は早速学校ご用達の百貨店で必要なものを買う事にしました。


 ちなみに不甲斐ない夫の杉下左京は、ドレスコードに引っかかって、出禁になったので、入れません。


「違うよ! 九州に一泊で仕事なんだよ!」


 俺は忙しいんだアピールをする左京ですが、本当は不倫相手の坂本龍子弁護士と温泉旅行に行くのです。


「それも違うよ!」


 全力で否定する左京ですが、


「それでもいいかな」


 同行を熱望したのに、仕事が重なって断念した龍子が呟きました。Xにではありません。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、笑顔全開で応じる樹里です。


「樹里様にはご機嫌麗しく」


 日曜日にも関わらず、樹里のスケジュールを把握している昭和眼鏡男と愉快な仲間達が現れました。


 もはやストーカーとしか思えないので、通報しようと思う地の文です。


「我らはストーカーではありません!」


 法と秩序にのっとって行動しようとした地の文に切れる眼鏡男達です。


「はっ!」


 そんな事をしているうちに、樹里は予約していたタクシーで出発していました。


「ああ、樹里様、タクシーはギリ五千円でしか降りられないのではないのですか?」


 意味不明な謎ルールを叫んで泣きむせぶ眼鏡男達です。


「どうしたの、おじさん?」


 そこへ眠い目を擦りながら現れた三女の乃里です。


「何でもありません、乃里様。失礼致します」


 涙を拭いて立ち去る眼鏡男達です。いつもよりセリフが多いので満足しています。


「へんなの」


 乃里は首を傾げて家に戻りました。


「ママはもう出かけたの?」


 一緒に行きたかった瑠里が悲しそうに尋ねました。


「うん、いったよ。おねえちゃん、おねぼうするからだよ」


 乃里は厳しい現実を突きつけました。


「そうなんですか」


 瑠里は顔を引きつらせて応じました。


 


 樹里は何事もなく無事に百貨店に着き、必要なものを買い揃えました。


「ありがとうございました」


 百貨店の一同が揃って見送りました。


「失礼します」


 樹里は笑顔全開で応じると、帰りは路線バスに乗りました。


 うまく乗り継いでいけるか、不安になる地の文です。


(御徒町樹里、一体どこへ行って来たんだ? 怪しいな)


 運悪く、そのバスには写真週刊誌のプライマリーデーの記者とカメラマンが乗っていました。


 樹里と鬼ごっこをするのでしょうか?


「違うよ! スキャンダルを捏造するんだよ!」


 大声でとんでもない事を叫ぶ記者です。


「あっ!」


 その声でバスの乗客全員が二人を見ました。二人は慌てて座席に身を伏せました。


「そうなんですか」


 樹里も二人を見ましたが、何も訊く事なく笑顔全開で応じただけです。


「危なかったです」


 カメラマンが言いました。


「気をつけろよ」


 自分のせいなのにカメラマンに注意する身勝手な記者です。


「すみません」


 先輩後輩なので、仕方なく謝るカメラマンです。


(いつかまとめてぶちのめす)


 その代わりに憎しみはどんどん蓄積しているようです。


 


 やがて、バスは終点の駅前に着きました。樹里はバスを降りました。


「追うぞ」


 記者とカメラマンもバスを降りました。樹里は駅の構内に入って行きました。


「電車に乗るのか。どこへ行くんだ?」


 記者が独り言を言いました。家に帰るのだと知っていますが、教えてあげない地の文です。


「あ、樹里さんだ」


 樹里は改札口の手前でファンの人達に囲まれました。


「サインください」


「握手してください」


「電話番号を教えてください」


「ラインを交換してください」


 危ない人達もいましたが、


「そうなんですか」


 無難にこなす樹里です。


(相変わらず人気者だな)


 羨ましい記者です。


(樹里さん、もう三十代なのに可愛いよなあ)


 間抜けな事を思っているカメラマンです。


「あれ?」


 記者は樹里がトイレに入るのを見ました。


(大女優でも、排泄はするのか)


 気持ち悪い事を想像する記者に寒気がする地の文です。


「え?」


 樹里が出てくるのが早かったので、驚く記者です。


(着替えたのか?)


 入って行った時と違う服装なので、更に驚く記者です。樹里はそのまま改札を通り、ホームへ出ました。


「乗ったぞ」


 記者とカメラマンも電車に乗りました。


(どこまで乗るんだろう?)


 樹里は五駅先で降りました。慌てて降りる記者とカメラマンです。


 樹里は地下鉄に乗りました。


(本当にどこへ行くんだ? 自宅とは方角が違うぞ)


 記者の勘が叫びました。これは怪しいと。怪しいのは貴方達だと思う地の文です。


 樹里は三駅先で降りました。


「え?」

 

 そこは桜田門駅でした。


(官庁街じゃないか。官僚と不倫でもしているのか?)


 バカな事を考える記者です。不倫は夫の専売特許だと思う地の文です。


「専売特許じゃねえよ! そもそも不倫なんてしてねえし!」


 九州へ向かう飛行機の中で地の文に切れる左京です。


(歩くの速いな)


 記者とカメラマンは必死になって樹里を追いかけました。


(こ、ここは!?)


 樹里が入って行った建物を見てビビる二人です。そこは中央合同庁舎2号館で、警察庁が入居している建物です。


「貴方達、ずっと私を尾けていたわね? どういうつもりかしら?」


 樹里が戻って来て言いました。後ろには制服の警察官が二人います。


「し、失礼しました!」


 二人はまさに逃げるように走り去りました。


「よろしいのですか、逃がしてしまって?」


 警察官が訊きました。


「心配要りません。多分、写真週刊誌の記者とカメラマンです。妹と間違えたのでしょう」


 そう言って微笑んだのは、樹里の姉の璃里でした。よく見れば、璃里の方が老けているのがわかります。


「死にたいのですか?」


 目が全く笑っていない顔で地の文に告げる璃里です。身体中の水分が蒸発してしまった地の文です。


「そうなんですか」


 警察官二人は樹里の口癖で応じました。


 


 一方、樹里は何事もなく帰宅しました。


「ママ、お帰り。早かったね」


 瑠里と次女の冴里、乃里、四女の萌里が出迎えました。


「只今。お留守番ありがとう。お土産ですよ」


 樹里は百貨店で買ったケーキを見せました。


「わーい!」


 大喜びする四姉妹です。


 めでたし、めでたし。

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