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樹里ちゃん、真里を励ます

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里の年の離れた妹の真里が大学入試共通テストを受験しました。


 真里自身は自己採点であまり良い成績ではなかったのがわかっており、試験が終わった翌日にはかなり落ち込んでいました。


(俺が慰めてあげよう)


 下心丸出しの不甲斐ない夫の杉下左京は思いました。


「下心なんかねえよ!」


 図星を突かれて動揺しながら切れる左京です。


「左京ちゃん、デートしてよ」


 真里は作り笑顔で樹里の家に現れ、左京に言いました。


「で、デート!?」


 左京は大喜びしました。


「違うよ!」


 真里は左京以外誰もいないと思って、事務所に来たのですが、ちょうど運悪く、不倫相手の坂本龍子弁護士がいました。


「不倫相手じゃねえよ!」


 全力で否定する左京ですが、


「ええと、私は……」


 口籠もってモジモジする龍子です。


(この人も左京ちゃんが好きなんだっけ)


 真里は苦笑いをしました。


(この子は、樹里さんの妹さんで、ええと……)


 龍子は真里の名前がわかりません。


「左京ちゃんがお世話になっています。樹里の妹の真里です」


 真里はいつもの事なので、笑顔全開で言いました。


「そうなんですか」


 バツが悪い龍子は、樹里の口癖で応じました。そして、


「じゃあ、左京さん、私はこれで」

 

 そそくさと事務所を出て行ってしまいました。


「ああっと、龍子さん……」


 左京は真里と二人きりは困るので、龍子を引き止めようとしましたが、彼女はさっさと行ってしまいました。


「左京ちゃん、デート、デート!」


 真里は強引に左京を連れ出しました。


「どこへ行くつもりだよ?」

 

 左京は無理やり腕を組んでいる真里に尋ねました。


「デートと言ったら、フレンドランドに決まってるでしょ!」


 真里は笑顔全開で応じました。


(出会った頃の樹里にそっくりだな)


 左京は顔を赤らめました。御徒町一族はあまり年を取らないのですが、さすがに出会った頃の樹里は今よりは幼く見えました。だから、年齢的に近い真里が樹里にそっくりなのは当然です。


(フレンドランドはあまりいい思い出がないんだよな)


 左京は溜息を吐きました。


「ああ、左京、不倫してるの?」


 そこへ世界で一番出会いたくない人物が現れました。誰でしたっけ?


「加藤ありさよ!」


 記憶力が衰えた地の文に切れるありさです。もうすぐ十歳の長女の加純ともうすぐ七歳の長男のたすくを連れています。


「朝から寝ぼけているなよ、ありさ。義理の妹の真里だよ」


 左京は呆れて言いました。


「ええ!? 義理の妹と不倫? あんた、最低だね、左京」


 ありさは更にボケました。左京は呆れ過ぎて、ありさを無視して歩き去りました。


「ちょっと、待ちなさいよ、左京! 子供達に何か買ってあげなさいよ!」


 意味不明な事を叫ぶありさを置き去りにして、左京は真里とフレンドランドへ入って行きました。


「相変わらずだね、ありささんは」

 

 真里は苦笑いをしました。


「ああ、全くだ」


 左京も苦笑いで応じました。


「でも、義理の妹って紹介するの、嫌だな。せめて、第二の愛人くらいにしてよ」


 真里が言うと、


「バカな事言ってるんじゃないよ! 樹里に言いつけるぞ」


 左京が脅すと、


「それだけはやめて! 樹里姉、怖いんだから」


 真里が涙ぐんで懇願したので、


「そ、そうなのか」


 左京は顔を引きつらせました。


(樹里は身内に厳しいからな)


 こうして、左京は真里と観覧車に乗ったり、メリーゴーラウンドに乗ったり、ジェットコースターに無理やり乗せられたりしました。


「大丈夫、左京ちゃん?」


 ジェットコースターから降りた時、左京は失神寸前でしたが、真里は余裕の笑顔です。


「あのお父さん、だらしないね」


 通りかかった小学生くらいの男の子に笑われました。


「情けない……」


 その言葉に落ち込む左京です。


「ありがとう、左京ちゃん。楽しかったよ」


 真里は左京の右頬にキスをしました。


「おいおい、そんなのは、好きな奴にとっとけよ」


 左京は狼狽うろたえて真里を見ました。


「いいんだよ。だって、私、左京ちゃんの事、大好きだもん」


 真里は照れ臭そうに言いました。


「ええ!?」


 左京は真里の突然の告白に仰天しました。


「でも、樹里姉が激怒するから、絶対に内緒だよ?」


 真里は笑顔全開で言いました。


「言う訳ないだろ。俺が樹里に怒られるよ」


 左京は顔を引きつらせました。


「いやいや、怒られるのは私だよ。だって、樹里姉は左京ちゃんにベタ惚れだもん」


 真里は口を尖らせました。


「え?」


 左京は顔を真っ赤にしました。


「いけない、萌里のお迎えに行かないと」


 左京は我に返りました。


「大変!」


 真里もハッとして、二人で走り出しました。




 二人が四女の萌里をお迎えに行って帰宅すると、ちょうど長女の瑠里と次女の冴里が帰って来て、三女の乃里はリヴィングルームで宿題をしていました。


「あれ、真里ちゃん、パパと一緒だったの?」

 

 実はファザコンの瑠里がムッとしました。


「ファザコンじゃないわよ!」


 図星を突かれた瑠里が地の文に切れました。


「デートしてたの」


 真里は笑顔全開で告げました。


「ええ!?」


 瑠里と冴里は目を見開きました。


「変な事されなかった?」


 瑠里が訊きました。左京はそれを聞いて項垂れました。


「されないよ」

 

 真里は笑顔全開で応じました。




 みんなで夕食の準備をしていると、樹里が帰宅しました。


「ママ、お帰り!」


 瑠里と冴里が出迎えました。


「真里ちゃんが来ているよ。パパとデートしたんだって」


 早速言いつける瑠里です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


「ごめんね、樹里姉。ちょっと左京ちゃんを借りちゃった」


 てへっと笑う真里です。


「みんな、ちょっと真里と話があるから、リヴィングルームへ行って」


 樹里が真顔で告げたので、ビクッとして従う娘達です。真里もドキドキしました。


「真里、ちょっと慌てて答え合わせをしましたね。貴女の採点より、ずっと良い点数でしたよ」


 樹里が採点した用紙を渡しました。


「え?」


 真里はそれを見て驚きました。


「大丈夫。真里なら合格できますよ」


 樹里は更に笑顔全開で告げました。


「ありがとう、樹里姉!」


 真里は泣きながら樹里に抱きつきました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 めでたし、めでたし。

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