樹里ちゃん、クリスマスパーティに参加する
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
今日は日曜日で、クリスマスイヴです。
樹里一家は五反田氏の招待で、五反田グループ主催のクリスマスパーティに出席しています。
でも、不甲斐ない夫の杉下左京はドレスコードに引っかかったので出席できません。
「できるよ!」
一丁羅の礼服で地の文に切れる左京です。どう見ても告別式です。
「ネクタイが違うんだよ!」
無節操な地の文に切れる左京です。
「そうなんですか」
それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。
左京とは違い、ネイビーブルーのイヴニングドレスをエレガントに着こなしています。
娘達もお揃いのターコイズブルーのパーティドレスを着ています。
全て、樹里が買ってあげたのは左京には内緒です。
「かはあ……」
自分の不甲斐なさに血反吐を吐いて悶絶する左京です。
長女の瑠里はドレスアップすると大人びて見え、樹里によく似ているのがわかります。
次女の冴里も背伸びしてお姉ちゃんに張り合おうとしていますが、身長が低いので、ドレスに着られているようです。
三女の乃里はまだ丈が長い感じで、四女の萌里は裾がずりそうなので、樹里が長さを調整しました。
「ようこそいらっしゃいました」
そこへ五反田氏の愛娘で性格に難ありの麻耶が現れました。
「うるさいわね!」
細かい描写をしたはずの地の文に切れる麻耶です。
「おお!」
周囲にいた招待客達がどよめきました。麻耶のドレスはクリスマス仕様で、赤のドレスです。胸元もざっくりを開いており、背中も肩甲骨の下まで見えているものです。
でも、着ている人が貧相なので、あまりセクシーには見えません。
「うるさいわよ!」
正しい指摘をしたはずの地の文に激ギレする麻耶です。
「おお!」
しかし、左京と麻耶の恋人の市川はじめは目を見張りました。
「パパ、目がエッチ」
瑠里と冴里が半目で言いました。
「な、何言ってるんだよ、瑠里、冴里」
嫌な汗をしこたま掻いて動揺する左京です。
「麻耶お嬢様、素敵です。よくお似合いですよ」
樹里は笑顔全開で言いました。
「ありがとう、樹里さん」
麻耶は樹里に誉められて、照れ臭そうに微笑みました。
「麻耶ちゃん、すごく綺麗だよ」
はじめも慌てて言いました。
「あっそ」
付け足したように言ったはじめを睨みつけると、麻耶は瑠里達を連れて、バイキングスタイルの飲食コーナーへ行ってしまいました。
「ああ、麻耶ちゃん!」
はじめが麻耶を追いかけました。
「メリクリ、樹里!」
そこへ、麻耶よりもざっくり胸元が割れたライトグリーンのドレスを着ているなぎさが、タキシードが左京より似合っている夫の栄一郎と来ました。
「おお!」
麻耶の時とは違い、ダイナマイトなボディをしているなぎさのドレスは、周囲にいた男達の目を釘付けにしました。
「このドレス、胸元が開き過ぎで、何度もおっぱいがこぼれ出たよ」
何の悪気もないなぎさの言葉に左京は危うく鼻血を噴きそうになりました。
「そうなんですか」
樹里はそれでも笑顔全開で応じました。
「なぎささん、これをかけてください」
栄一郎がなぎさの肩にストールを巻きました。
「あ、これいいね。おっぱいがこぼれても、隠せるね」
更に凄い事を言うなぎさです。左京は遂に鼻血を垂らしてしまい、慌ててハンカチで隠しました。
「あ、六ちゃん、来たよ!」
なぎさはオロオロする栄一郎を尻目に五反田氏を見つけると、スタスタ歩いて行きました。
なぎさに気づいた五反田氏のSP達が慌てて脇へ退きました。なぎさは誰にも止められないのです。
「やあ、なぎさちゃん、来てくれたんだね。嬉しいよ」
他の招待客と歓談していた五反田氏がなぎさを見ました。
「なぎささん、素敵ね」
隣にいる妻の澄子が言いました。澄子も濃紺のイヴニングドレスを着ており、大企業のオーナー夫人という雰囲気を醸し出しています。
「ありがとう。澄子さんも素敵だよ」
なぎさにしては珍しく、お世辞を言いました。
ボケたのに誰も突っ込んでくれないので、寂しい地の文です。
「叔母様も誘ったんだけど、欠席するって言ってたよ。その後、もみじから連絡があって、叔母様が入院したので、もみじ達も来られないって」
なぎさはやれやれというふうに肩をすくめました。恐らく、「叔母様」である大村美紗は、なぎさが原因で入院したと推測する地の文です。
「それは大変だね。すぐにお見舞いの花を贈らせよう」
五反田氏はある程度事情がわかっているので、苦笑いをしました。
「なぎささん、ようこそ」
麻耶が瑠里達を引き連れて戻って来ました。
「おお、麻耶ちゃん、頑張ったね。なかなかセクシーだよ」
なぎさが言うと、五反田氏がピクンとしました。澄子が動揺する五反田氏を宥めました。
「ありがとう、なぎささん」
また照れる麻耶です。お世辞だと思う地の文です。
「うるさいわよ!」
正当な事を述べただけの地の文に切れる麻耶です。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
「樹里さんとなぎささんに挟まれると、何だか気後れするわ」
麻耶がモジモジしました。
「麻耶ちゃんもお二人に負けていないよ」
はじめが作り笑顔で言いました。
「見え透いたお世辞はやめて!」
麻耶ははじめに詰め寄りました。
「いや、そんなつもりはないよ。僕、お世辞なんか言えないから」
後退りしながら弁解するはじめです。
「ありがとう、はじめ」
麻耶ははじめに抱きついて、頬にキスをしました。
「おお!」
それを見た五反田氏が近づこうとしましたが、
「貴方、みっともないからおやめないさいよ」
澄子が引き止めました。
「麻耶ちゃん」
はじめは顔を真っ赤にして麻耶を見つました。その時、音楽な流れました。ダンスタイムです。
はじめと麻耶がダンスを始めました。決して、洒落ではありません。
「樹里」
左京が樹里を誘い、ダンスを始めました。
五反田氏と澄子もステップを軽やかにしました。
なぎさと栄一郎もダンスを始めました。他の招待客達も次々にダンスを始めました。
「あーあ、あっちゃんを誘えばよかった」
瑠里が呟きました。
「今日はわっくんいないのね」
冴里はなぎさの長男の海流が来ていないのを悲しみました。
二人は羨ましそうに麻耶とはじめのダンスを見ていました。
「樹里、今日は一段と綺麗だよ」
左京が顔に似合わない事を言いました。
「やかましい!」
チャチャを入れた地の文に切れる左京です。でも、大坂の陣は関係ありません。
「左京さんも素敵ですよ」
樹里は笑顔全開で言いました。
「樹里」
その言葉に涙ぐむ左京です。
めでたし、めでたし。