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樹里ちゃん、引き続き大掃除をする

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 暮れも押し詰まって来て、樹里は五反田邸の大掃除に気合が入っています。


「もう回復しましたから、大丈夫です」


 前回、仮病を使って仕事をサボった目黒弥生が言いました。


「仮病じゃないわよ!」


 涙目で地の文に切れる弥生です。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず笑顔全開で応じました。


「では今日は、二階の大掃除をしましょう」


 前回、弥生が早退した後もフル回転で大掃除をした樹里は、一階の隅々まで磨き上げました。


「申し訳ありません」


 弥生が帰ってからの方が効率よく稼働できた樹里です。


 要するに弥生はいない方がいいという結論に達した地の文です。


「やめてー!」


 自分でもその危惧があったので、今回は命懸けで掃除をするつもりの弥生が、非情な決断を下した地の文に懇願しました。


「はっ!」


 我に返ると、すでに樹里は階段を登り、二階の掃除を始めていました。


「樹里さん、待ってください、私の立場がどんどん悪くなりますう!」


 涙ぐんで樹里を追いかける弥生です。


「そうなんですか」


 それでも笑顔全開の樹里です。


 


 こうして、一悶着あった弥生もペースを上げて、二階の大掃除を始めました。


「弥生さん、そこはもう終わりましたよ」


 弥生は樹里が完了した箇所を掃除してしまうというボケをかましました。


「すみません!」


 弥生は慌てて手を止め、別の場所を掃除しました。


 やはり、来年からは、昭和眼鏡男達と共に降板してもらうのがベストだと考える地の文です。


「どうして我らが巻き込まれるのですか!?」


 どこかで地の文に切れる眼鏡男達です。


「私、頑張るから!」


 目を潤ませて地の文を色気で落とそうとする弥生ですが、長月葉月派の地の文には通じません。


「ううう……」


 なす術なく、項垂れるしかない弥生です。


 こうして、通常の三倍のスピードで稼働した樹里のおかげで、二階の掃除は午前中に完了しました。


 弥生は通常の二分の一のスピードで稼働したので、樹里との差は歴然としていました。


「弥生さん、麻耶お嬢様のお部屋は掃除しなくていいそうです」


 弥生が麻耶の部屋に入ろうとした時、樹里が告げました。


「そうなんですか」


 弥生は危うく命を落としそうになったのを知りました。


 五反田氏の愛娘である麻耶の部屋は魔窟と呼ばれており、一度入ると二度と出て来られないのです。


「そんな訳ないでしょ! 嘘も大概にしなさいよ!」


 講談師のように見て来たように嘘を吐く地の文に激ギレする麻耶です。今日も大学をサボっているようです。


「もう冬休みよ! 今日は会社にいるのよ!」


 地の文の誤情報を訂正して切れる麻耶です。


「麻耶お嬢様のお部屋には、大事な資料があるので、私達には触れないのです」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「そうでしたか」


 弥生は苦笑いをしました。


「では、お昼にしましょう」


 樹里は笑顔全開で告げると、弥生と共にキッチンへ行きました。


「今日は、奥様がお帰りになるので、昼食の用意をしてから、食事をします」


 樹里は冷蔵庫にあるものを使って、魔法のように見事な料理を完成させました。


「奥様がお戻りのようです。玄関へ急ぎましょう」


 樹里と弥生は素早く玄関へ行きました。


「お帰りなさいませ」


 樹里と弥生が玄関の車寄せに出ると、五反田夫人の澄子を乗せたリムジンが到着しました。


「樹里さん、弥生さん、ありがとう」


 澄子は微笑んでリムジンを降りました。


「お食事の用意ができております」


 樹里が笑顔全開で言いました。


「ありがとう」


 澄子は樹里と弥生に先導されて、ダイニングルームへ行きました。


 ダイニングルームはキッチンと繋がっており、五反田氏や麻耶も食事の時に利用しています。


「いただきます」


 澄子は着席すると、樹里が給仕した食事を摂りました。


「ご馳走様」


 澄子はゆっくりと食事をしたので、弥生が昼食を摂る時間がなくなりました。


(クソババア、もっと早く食えよ!)


 心に中で澄子を罵る弥生です。


「思ってないわよ!」


 嘘八百を並べ立てる地の文に蒼ざめて切れる弥生です。


「ごめんなさいね。樹里さんと弥生さんも、ゆっくりお食事してね」


 澄子は悪気なく告げました。


「ありがとうございます」


 樹里と弥生は深々とお辞儀をしました。


「はっ!」


 弥生が樹里を見ると、すでに食事を終えていました。


(嘘!? いつの間に食べたの?)


 早飯早〇〇芸のうちだと思う地の文です。


「私も!」


 弥生も急いで食事をすませました。


「あれ?」


 食器を片付けようとすると、樹里はすでに洗い物を済ませて、キッチンを出て行きました。


「樹里さん、早過ぎます!」


 泣きながら樹里を追いかける弥生です。


「弥生さん、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。休憩時間はまだ残っていますから」


 樹里は弥生に紅茶を淹れてくれたのでした。


「ありがとうございます」


 感動して涙を流す弥生です。


「弥生さんが頑張ってくれたおかげで、予定より早く終わりそうです」


 樹里が言いました。


「そうなんですか」


 全く貢献していないと思っていた弥生は樹里の言葉に号泣しました。


(どこまでも優しい人だ)


 一生ついて行こうと思う弥生です。


 二人は紅茶をゆっくり飲んで、じっくり休憩をしました。


「では、もう少しがんばりましょう」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「はい!」


 ヘトヘトになりかけていた弥生ですが、樹里の言葉に奮起しました。


「旦那様と奥様の寝室は、念入りにお掃除しましょう」


 樹里と弥生は最後に残っていた五反田氏と澄子の寝室へ行きました。


 掃除はかなりの力仕事になりました。寝室のベッドはキングサイズとクイーンサイズで、樹里と弥生は専用の器具を使ってベッドを移動し、下にある埃をきれいにしました。


「毎日の掃除ではできないところをするのが年末の大掃除ですから」


 樹里は他意なく言いました。


「そうなんですか」


 大掃除をする意味に異議を唱えてしまった弥生は反省しました。


(私は浅はかだった)


 弥生は心を入れ替えて、真っ当な人間になろうと誓いました。


「もうとっくに真っ当な人間よ!」


 過去をほじくり返すのが好きな地の文に切れる弥生です。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開です。


 めでたし、めでたし。

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