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樹里ちゃん、マラソン大会に出場する

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は自治会対抗のマラソン大会当日です。


 全部で十二の自治会が参加するそこそこ大きな行事になっています。


「ヤッホー、樹里!」


 樹里達が大会が開催される運動公園に到着した時、松下なぎさと夫の栄一郎が現れました。


 不甲斐ない夫の杉下左京は、なぎさのタンクトップとショートパンツ姿に鼻の下を伸ばしました。


「やめろ!」


 詳しく解説したい地の文に切れる左京です。


「なぎささん、おはようございます」


 樹里は上下淡いピンクのジャージ姿です。左京は樹里の方が可愛いと思いました。


「なぎちゃん、寒くないの?」


 裏起毛のスウェット上下に厚手のコートを着た長女の瑠里が尋ねました。


「全然寒くないよ。もう、二十キロ走って来たから」


 なぎさはスポーツドリンクをラッパ飲みしました。


「そうなんですか」


 瑠里は引きつり全開で応じました。


「あれ、今日は冴里ちゃんだけなの?」


 なぎさが瑠里に訊きました。


「私は瑠里だよ、なぎちゃん。冴里達は全員、璃里伯母さんと留守番だよ。インフルエンザが流行っているから、外出禁止なんだよ」


 瑠里は苦笑いをして応じました。


「へえ。インフルエンサーがいるんだ、冴里ちゃんの学校は」


 またまた名前を間違えるなぎさです。しかも、インフルエンザとインフルエンサーを間違えるというベタなボケをしています。


「だから、私は瑠里だよ。それにインフルエンサーじゃなくて、インフルエンザだよ」


 瑠里は脱力しながら訂正しました。


「そんなの大した事じゃないから、気にしなくていいよ、乃里ちゃん」


 なぎさのボケ無双が始まってしまいました。


「ハハハ」


 もう訂正する気力もなくなった瑠里は乾いた笑いで応じました。


「マラソンに参加される方はお集まりください」


 大会事務局の関取が言いました。


「関取じゃねえよ!」


 ちょっとふくよかな女性が口さがない地の文に切れました。


「大会事務局の関町です。よろしくお願いします」


 関町さんは樹里となぎさに挨拶しました。


「うん、よろしくね、◯青龍さん」


 なぎさが絶対に言ってはいけない事を言いました。


「関町です!」


 関町さんは震えながら訂正しました。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


「樹里さん、期待してますので、頑張ってください」


 自治会長が来て、樹里に近づきました。


(こいつ、馴れ馴れしいんだよ)


 左京がすかさず樹里をガードしましたが、


「さ、こちらへ」


 自治会長は樹里だけではなく、なぎさの手も取って行ってしまいました。


「何なんだ、あの爺さんは!」


 左京がイラついていると、


「パパ、恥ずかしいから、大きな声を出さないで」


 瑠里に半目で注意されました。


「はい……」


 しょんぼりする左京です。


 


 樹里となぎさは、運動場のトラックに整備されたスタート地点にいます。


 左京達は応援席に移動しました。


 樹里となぎさ以外は、男です。男達は、樹里となぎさが美人の上、スタイルが抜群なので、デレデレしています。


(あの連中、スケベ根性丸出しじゃねえか)


 またイラつく左京ですが、貴方も同類だと思う地の文です。


「ううう……」


 図星を突かれて項垂れるしかない左京です。


「位置について!」


 スターターは上から目線作家ではなく、自治会総会の会長です。


「また誰かが私の事を言っているようだけど、気のせいなのよ!」


 その上から目線作家はどこかで叫んでいました。


「用意」


 ピストルの号砲で、競技者達が一斉に走り出しました。


 しかし、抜け出したのは、樹里となぎさです。二人の美しい脚を間近で見ようとした男達は、たちまち置いていかれました。


「樹里様、頑張ってください!」


 どこかで聞きつけた昭和眼鏡男と愉快な仲間達が沿道で旗を振っていました。


「なぎさお姉ちゃん、ファイト!」


 内田京太郎・もみじ夫妻も旗を振って応援しています。


「あ、もみじ、叔母様は元気?」


 なぎさは立ち止まってもみじに話しかけました。


「お姉ちゃん、ダメだよ、競技中だよ」


 もみじが慌ててなぎさをたしなめました。


「あ、そっか! じゃあ、また後でね!」


 なぎさは先を行く樹里を追いかけました。


「あの二人、速過ぎよ」


 関町さんは運動場の出入り口で樹里達を見送っていました。


「待ってー!」


 そこへ置いて行かれたスケベ男達が走って来て、もう遥か先へ行ってしまっている樹里となぎさを追いかけて行きました。


(あんなに飛ばしたら、そのうちペースが落ちるはず。そこを逆転だ)


 男の中には多少は頭が切れる者もいましたが、樹里となぎさはペースは落ちないと思う地の文です。


「え?」


 ぎくっとする男達です。


 


 結局、樹里となぎさはデッドヒートを繰り返し、そのまま逃げ切る形で、運動場へ戻って来ました。


「もう帰って来た!」


 そのせいで、関町さん達大会事務局の人達は大慌てて準備を始めました。


「すごい、ママとなぎちゃん!」


 瑠里は感激していました。


「樹里、頑張れー!」


 左京が涙ぐんで叫びました。


「なぎささーん、頑張ってー!」


 栄一郎も珍しく大きな声を出しました。運動場のトラックを一周でゴールです。


 樹里となぎさはまるで百メートル走のような速さでトラックを回りました。


「あの二人、全然疲れていないみたい……」


 唖然とする関町さん達です。


「なぎささーん!」


 栄一郎が大声で応援しました。すると、


「何、栄一郎?」


 なぎさはゴールへと行かずに、応援席へ走ってしまいました。


「あああ、なぎささん!」


 栄一郎は慌てましたが、その時すでに樹里がゴールテープを切っていました。


「なぎささん、こっちに来てはダメですよ!」


 栄一郎が叫びましたが、


「栄一郎が呼んだから来たんだよ? 何、その言い草は!」


 なぎさが切れてしまいました。


「えええ!?」


 仰天する栄一郎です。


「やったあ、ママが優勝!」

 

 瑠里が飛び上がって喜びました。左京は号泣しています。


「あーあ、栄一郎のせいで、樹里に負けちゃったよ。もう、どうしてくれるの?」


 なぎさの怒りは収まりません。


「すみません、なぎささん……」


 結果的に自分が悪かったのを思い知った栄一郎は項垂れました。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開です。


 めでたし、めでたし。

 

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