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樹里ちゃん、マラソン大会に誘われる

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は日曜日です。不甲斐ない夫の杉下左京はいつものように仕事がありません。


「たまたまだよ!」


 最近、不倫相手の坂本龍子がたくさん仕事を持って来てくれるので、久しぶりに休みが取れた左京が地の文に切れました。


「不倫相手じゃねえよ!」


 いつものように地の文に切れる左京です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


 樹里達は全員、リヴィングルームでくつろいでいました。


 その時、ドアフォンが鳴りました。


「わたしがでる!」


 玄関に一番近い位置で遊んでいた四女の萌里が宣言して、廊下へ飛び出ました。


「萌里じゃ無理だよ!」


 長女の瑠里が萌里を追いかけました。


「いらっしゃい」


 しかし、萌里はすでに玄関のドアを開いて、訪問者を招き入れていました。


「お邪魔します」


 来たのは南州◯郎さんでした。


「違うよ!」


 往年の昭和のボケをかました地の文に切れる自治会長です。以前登場したのと違う人になっています。


「ママ、自治会長さんだよ」


 気がついた瑠里がすぐに樹里を呼びました。


「自治会長さん?」


 左京は首を傾げて樹里と玄関へ向かいました。


「お休みのところ、悪いですね。実は折り入ってご相談したい事がありましてね」


 自治会長は左京を見ずに樹里を見て言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開、左京は引きつり全開で応じました。


「実はですね、この辺一帯の自治会長の総会で、決まった事がありましね」


 更に樹里に話す自治会長です。左京は肩を落としてリヴィングルームへ退散しました。


「そうなんですか」


 樹里は更に笑顔全開で応じました。自治会直は揉み手をしながら、


「地域を盛り上げるために、マラソン大会を開催する事になったんですよ」


 いかにも樹里に出て欲しい顔で告げました。


「そうなんですか?」


 話が一向に見えて来ない回りくどい言い方をする自治会長に首を傾げる樹里です。


「それでですね、以前、芸能人運動会か何かで、素晴らしい脚力をお見せになった樹里さんに、是非とも我が自治会から出場していただきたいと思いまして、お願いに上がった次第です」


 自治会長の揉み手が早くなりました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「どうですかね? 出ていただけますか?」


 自治会長は揉み手を続けながら、樹里に詰め寄りました。


(あのジジイ、距離が近いよ!)


 心配になった左京がそれをこっそり見てイラついています。


「いいですよ」


 すぐに承諾する樹里です。左京ががっくりと項垂れました。


「それはよかった! これで我が自治会の優勝は決まったも同然です! ありがとうございます!」


 自治会長は図々しくも、樹里の右手を両手で握って喜びました。


(樹里に触れるな、ジジイ!)


 悶絶する左京です。そんな父親を瑠里と次女の冴里が冷め切った目で見ていました。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


「では、詳細がわかりましたら、すぐにお知らせに参りますね!」


 自治会長は嬉々として帰って行きました。


(知らせに来なくていいよ! 回覧板で間に合うから!)


 左京は自治会長が帰ると、すぐに玄関のドアを施錠しました。


「すごいね、ママ。頑張ってね!」


 瑠里がはしゃいでいます。


「さっすが、ママだね!」


 冴里も嬉しそうです。


「ママ、がんばれ!」


 三女の乃里も大喜びしました。


「パパはでられないの?」


 他意なく萌里が尋ねました。顔を引きつらせる左京です。


「パパはね、もう若くないから、マラソンは無理なんだよ」


 情け容赦のない瑠里の言葉に、


「そうなんですか」


 萌里は笑顔全開で応じました。左京は項垂れ全開です。


「明日から、駅まで走って、備えないといけませんね」


 樹里が言いました。


「そうだな。俺も手伝うよ、樹里」


 左京が言うと、


「パパは無理しないで。ぎっくり腰とかになると困るし、返って迷惑だから」


 瑠里がピシャリと言ったので、


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じましたが、左京は引きつり全開で応じました。


 


 その頃、樹里の家があるところから少し離れた場所にある松下なぎさの家でも、同じような事がありました。


「出ていただけませんか、奥さん?」


 別の自治会長がなぎさにお願いしていました。


「奥さんて、私の事?」


 なぎさは隣にいる夫の栄一郎に尋ねました。


「そうですよ、なぎささん」

 

 呆れ気味に応じる栄一郎です。別の自治会長は苦笑いをして、


「どうですかね?」


 念を押しました。


「いいよ。私、こう見えてまだ若いから」


 おかしな形容をして、なぎさは胸を張りました。


「おお!」


 その豊かな胸を見て、別の自治会長は目を見張りました。


「よろしくお願いしますね、松下さん。優勝目指しましょう」


 別の自治会長は嬉しそうに帰って行きました。


「もしかして、樹里さんも出るのですかね?」


 樹里が隣の自治会なのを知っている栄一郎が言いました。


「ああ、そうだね。だったら、優勝は私か樹里だよ。栄一郎、ダメだよ、樹里を応援したら!」


 栄一郎が樹里派だと思い込んでいるなぎさがほっぺを膨らませて言いました。


「そんな事ありませんよ。僕が応援するのはなぎささんですよ」


 嫌な汗を掻きながら弁明する栄一郎です。


「だったら、いいよ。栄一郎、大好き!」


 なぎさは栄一郎に抱きついてキスをしました。


「な、なぎささん、子供達が見ていますよ!」


 長男の海流わたると長女の紗栄さえがジッとこちらを見ているのに気づき、栄一郎は慌てました。


「別にいいじゃん、減るものじゃないし」


 何も気にしないなぎさは更に栄一郎にキスをしました。


「な、なぎささん!」


 恥ずかしさのあまり、栄一郎は顔を真っ赤にしました。


 


「誰からだった?」


 樹里がスマホで通話を終えると、左京が尋ねました。


「なぎささんですよ。なぎささんも、自治会のマラソン大会に出場するそうです」


 樹里は笑顔全開で告げましたが、


「ええ? なぎささんも出るのか? それは強敵だな」


 左京は腕組みしました。


「大丈夫だよ。ママが勝つから」


 瑠里が口を挟みました。


「そうだよ。なぎちゃんも速いけど、ママはもっと速いから」


 冴里が言いました。


「そうだな」


 左京は娘達の反論にタジタジです。


 さてさて、どうなりますか。

 

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