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樹里ちゃん、左京の実家の墓参りにゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里達は今は亡き夫の杉下左京の墓参りに行く事になっています。


「俺はまだ生きてるよ!」


 稼ぎもないのに自己主張する不甲斐ない夫の左京です。


「かはあ……」


 久しぶりに血反吐を吐く程打ちのめされる左京です。


「そうなんですか」


 それでも樹里は笑顔全開で応じました。


 いつものように樹里の運転するミニバンで出発しました。


 ゴールデンレトリバーのルーサもケージで一緒です。


「ワンワン!」


 まるで、


「相変わらず、情けねえ奴だな」


 そう言っているかのように吠えるルーサです。


 


 そうこうしているうちに、ミニバンは左京の実家のお墓がある霊園に着きました。


「わーい!」


 まだ無邪気全開の四女の萌里が笑顔全開で駆け出しました。


「危ないよ、萌里!」


 長女の瑠里が追いかけました。


「こら、乃里も走っちゃダメ!」


 次女の冴里が三女の乃里を引き止めました。


 左京と樹里は無料で貸し出されている桶と柄杓を借り、水を汲んで娘達を歩いて追いかけました。


 瑠里と冴里の素早い対応のおかげで、萌里と乃里は確保されました。


「走らなくても、お墓は逃げたりしないから」


 左京が言いました。


「パパはママににげられないようにしてね」


 何の悪意もない笑顔で萌里が言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開ですが、左京は引きつり全開です。


「ママはパパが大好きですから、逃げたりしませんよ」


 樹里は笑顔全開で言いました。左京はそれを聞いて涙ぐみました。


(ああ、俺は何て幸せな男なんだろう!)


 左京はいつ死んでもいいと思いました。


「思わねえよ!」


 生きる事に誰よりも貪欲な左京が地の文に切れました。


「ヒューヒュー!」


 瑠里と冴里が左京を冷やかしました。


「さあ、じいじとばあばのお墓を掃除しますよ」


 樹里が真顔で言いました。


「はい!」


 四人の娘達は母が真剣なのに気づき、直立不動になりました。


「樹里」


 左京は駐車場からお墓までの道のりをつらそうに歩くルーサを見て樹里に声をかけました。


「ルーサもすっかりおじさん犬になりましたね」


 樹里が笑顔全開で言いました。するとルーサが急にシャキンとしました。


(何だ、こいつ、人間のエロ親父みたいな反応しやがって)


 左京はルーサもオスだと思いました。貴方と一緒ですね。


「うるせえ!」


 鋭い指摘をした地の文に動揺しながら切れる左京です。


「まだ若いと主張しましたね」


 樹里が笑顔全開で言うと、


「ワンワン!」


 そうだそうだとばかりに吠えるルーサです。


「そうだな」


 左京は苦笑いをしました。


 ルーサは近くの木に繋がれました。


 そして、左京と樹里と瑠里と冴里で石塔を掃除しました。


 乃里は持ってきた生花を揃えて瑠里に渡しました。瑠里はそれを花立に生けました。


 萌里はすでに拝んでいます。


 樹里が家で手作りした団子を供えました。


 左京が線香に火を点けて、樹里と瑠里と冴里に分けました。


 乃里と萌里は樹里が代わりに線香を上げて、皆で手を合わせました。


 親父、お袋、もうすぐそっちに行くよ。左京は思いました。


「まだ行かねえよ!」


 勝手に心の声を捏造した地の文に激ギレする左京です。


「さあ、お供えしたお団子を一つずつ食べましょう」


 樹里は半分をお供えしたままにして、人数分の団子を取りました。


「わーい!」


 食べ物をもらえれば嬉しい萌里が大喜びました。それを見て微笑む左京です。


「ぜんぜんあじがしないよ、ママ」


 乃里が不満そうに口を尖らせました。


「お供えのお団子ですから、そのまま食べなさいね。ワガママはダメです」


 樹里が真顔全開で告げたので、


「はい!」


 巻き込まれたように左京や瑠里、冴里、萌里までもが返事をしました。


「帰りにお昼ご飯を食べましょう」


 樹里が笑顔全開に戻ったので、


「そうなんですか」


 左京達はほっとした顔で応じました。


 


 樹里達は国道を戻り、関越自動車道で東京を目指しました。


 やがて、ミニバンはサービスエリアに立ち寄り、レストランでお昼にしました。


「あ、あの人!」


 瑠里が知り合いに気づきました。それはすでに老けこんで誰だかわからない程変わってしまった元人気作家の大村美紗と売れっ子作家の内田陽紅こと内田もみじ、そしてその夫の京太郎でした。


「誰かが私の悪口を言っているのよ、もみじ! 幻聴なんかではないわ!」


 レストランで大騒ぎする美紗です。


「ご無沙汰しております、大村先生」


 左京が愛想笑いをして近づきました。


「しばらくです、左京さん」


 もみじと京太郎が挨拶を返しましたが、美紗は顔を背けて何も言いません。


 美紗はもみじが左京をモデルにした大森警部シリーズを書いているのが面白くないのです。


 相変わらず、器が小さいバアさんです。


「ほら、聞こえたでしょう!? 確実に私を誹謗している輩がいるのよ!」


 美紗はまた騒ぎ始めました。


「左京さんのおかげで、大森警部というキャラクターができました。本当に感謝しています」


 もみじは美紗を無視して言いました。


「私も感謝しています」


 京太郎が言いました。


「いやあ、むしろ、大森警部の事で、私も知名度が上がって、依頼が増えているんです。感謝するのはこっちの方ですよ」


 左京は若くて美人のもみじにデレデレしています。


「やめろ!」


 やや真実に近いので、焦って地の文に切れる左京です。


「今日はどちらへいらしていたのですか?」


 樹里が笑顔全開で美紗に尋ねました。


「今日は、しばらくぶりに私達の都合がついたので、母のお墓参りに一緒に行って来ましたのよ」


 美紗は踏ん反り返って言いました。


「そうなんですか。大村先生のご実家は、確か、G県のT市でしたね」


 樹里が笑顔全開で言いました。


「そうですのよ。毎年、映画祭の審査員に呼ばれるのですが、都合がつかなくて行けませんの」


 美紗は言いましたが、本当は一度も呼ばれていないのを知っている地の文です。


「キイイイ!」


 とうとう美紗は怒りのあまり、絶叫してその場に倒れてしまいました。


「ああ、お母様!」


「お義母さん!」


 もみじと京太郎が慌てて駆け寄り、抱き起こしました。レストランの従業員も驚いて来ました。


「大丈夫です。いつもの事ですから」


 もみじは従業員に言いました。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず、笑顔全開です。


 めでたし、めでたし。


 

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