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樹里ちゃん、市川はじめに相談される

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は日曜日です。樹里は四人の娘達と公園に遊びに出かけました。


 不甲斐ない夫の杉下左京は、坂本龍子弁護士と仕事と偽って、不倫旅行に出かけました。


「違うよ! 坂本先生に迷惑だろ! 仕事だよ!」


 東北新幹線の中で地の文に切れる左京です。


「私は別に構いませんけど」


 龍子はもじもじしながら言いました。それを聞いて顔を引きつらせる左京です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


 公園に着くと、三女の乃里と四女の萌里は追いかけっこを始めました。


 長女の瑠里は近々あるマラソン大会に向けて、公園の周囲にある整備された長距離用のコースを走っています。


「お姉ちゃん、珍しく気合い入ってるね」


 次女の冴里は手持ち無沙汰風に樹里と並んでベンチに座っています。


「優勝したら、パパにスマホを買ってもらうそうですよ」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「それって、絶望的な約束だね」


 冴里が正直に言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で言いましたが、全くその通りなので、何も言えない左京です。


「ママはお姉ちゃんがスマホを持つの、反対じゃないの?」


 早速探りを入れる冴里です。あわよくば、自分も買ってもらおうと企んでいます。


「ママは反対しませんよ。でも、瑠里が使い方を考えないようなら、すぐに契約を解除するだけです」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「そうなんですか」


 樹里の怖さを改めて知った冴里は顔を引きつらせました。


(ここは、様子を見た方がいいかな)


 冴里は慎重にいこうと思いました。


「こんにちは」


 そこへ五反田氏の愛娘である麻耶の召し使いが現れました。


「召し使いじゃないです!」


 正しい立場を述べたはずの地の文に切れる市川はじめです。


「はじめ君、こんにちは。今日は麻耶お嬢様と一緒ではないのですか?」


 樹里は笑顔全開で尋ねました。


(あれ? 麻耶お姉ちゃんの彼氏って、よく見るとかっこいいな)


 次女オブ次女の冴里がはじめに狙いを定めました。樹里の親友の松下なぎさの長男の海流わたるはどうなるのでしょうか?


「うるさいわね!」


 肉食系の冴里が余計な事を心配する地の文に切れました。


「こんにちは、はじめお兄ちゃん。私、冴里です」


 冴里は笑顔全開ではじめの右手を両手で握りました。


「あ、どうも、冴里ちゃん」


 はじめは冴里に麻耶と同じ匂いを感じて、後退あとずさりしました。


「冴里、はじめ君は麻耶お嬢様の恋人なのですから、あまり馴れ馴れしくしてはいけません」


 樹里渾身の真顔全開が炸裂したので、


「はい!」


 ビビった冴里は慌てて樹里の隣に座りました。


(樹里さん、怖い)


 その余波を食らってしまったはじめも樹里にビビりました。


「麻耶ちゃんは今日はお父さんと仕事に行きました」


 はじめは寂しそうに言いました。


「そうなんですか」


 麻耶は以前、五反田グループの会社には就職したくないと言っていたのですが、はじめのためにその考えを改めたのです。そして、父である五反田氏の秘書として働く事を決意し、土日祝日は五反田氏と行動を共にしています。


「あの、樹里さんに相談したい事があるのですが、聞いてもらえますか?」


 はじめは樹里の前に立って言いました。


「いいですよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。はじめはホッとした顔になり、


「実は、麻耶ちゃんと結婚の話をしているのですが、麻耶ちゃんは結婚式も披露宴も挙げたくないって言うんです」


 深刻な顔で言いました。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。はじめは顔を引きつらせながら、


「僕の事を思って、麻耶ちゃんがそんな事を言っているのだとしたら、僕、自分が情けなくなってしまって……」


 涙ぐんだ目で樹里を見ました。


「はじめ君はどう思っているのですか?」


 樹里が笑顔全開で尋ねました。はじめはハッとして、


「僕は麻耶ちゃんが挙げたくなのであれば、それで構わないと思っています」


 すると樹里は真顔になって、


「はじめ君の意志はそこにあるのですか?」


 どこかの女将のような事を言いました。


「え?」


 はじめはギクッとしました。


「麻耶お嬢様は、はじめ君の考えを聞きたいのだと思いますよ。ですから、はじめ君がしっかりと自分の意見を言うのが正しい答えだと思います」


 樹里はまた笑顔全開で言いました。


「そうなんですか」


 思わず樹里の口癖で応じてしまうはじめです。


「僕は、結婚に式や披露宴は必ずしも必要ではないと思っています。麻耶ちゃんが同じ考えなのであれば、結婚式も披露宴もしなくていいのではないかと考えています」


 はじめは樹里をまっすぐに見て言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「では、その通りに麻耶お嬢様に伝えればいいのではないですか?」


 樹里は笑顔全開で告げました。


「はい。そうですね」


 はじめはにこやかに言いました。


「どうもありがとうございました」


 はじめは深々と樹里に頭を下げました。


「私は何もしていませんよ。はじめ君が答えを出したのですよ」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「いえ、樹里さんの的確なアドバイスがあったおかげです」


 はじめはもう一度頭を下げると、


「失礼します」


 さっと駆け去りました。


「あれ、今ここにはじめお兄ちゃんいなかった?」


 息を切らせた瑠里が戻って来ました。


「いましたよ」


 樹里が笑顔全開で言うと、


「ああん、お話ししたかったのに! あっちゃんとの事、はじめお兄ちゃんに相談しようと思ってたの」


 瑠里は冴里を見て、


「お兄ちゃん、どっちに行った?」


 冴里はくすくす笑いながら、


「あっちだよ」


 指差しました。


「よし、追いつける!」


 瑠里はまた走り出しました。


「お姉ちゃん、まさか、結婚の事、相談するのかな?」


 冴里がボソリと言うと、


「どうでしょう?」


 樹里は笑顔全開で応じました。左京がいたら、卒倒していると思う地の文です。


「ママ、のどかわいた」


 乃里と萌里が駆け寄って来ました。


「はい」


 樹里は用意して来た麦茶のペットボトルを二人に差し出しました。


「あ、私も飲みたい」


 冴里が言いました。


「どうぞ」


 樹里は冴里にもペットボトルを渡しました。


 めでたし、めでたし。

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