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樹里ちゃん、東京に戻る

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里達が母親の由里の実家であるG県のI温泉の御徒町旅館に帰省してから、一週間目の日になりました。


「あっという間だったね」


 樹里の祖母の美玖里が名残惜しそうに言いました。


「そうですね。左京さんはまだ泊まれますけど、どうしますか?」


 樹里が笑顔全開でとんでもない事を言いました。


「ええっ!?」


 仰天する左京です。


「な、何を言い出すんだい、樹里! 揶揄からかうんじゃないよ!」


 何故か美玖里は赤くなっていました。


(ああ、そういう事なんだ)


 それを見ていた長女の瑠里はニヤリとしました。


(ひいお祖母ちゃんの部屋にあったパパによく似た人、ひいお祖母ちゃんの……)


 瑠里は全てを知りました。


(ひいお祖母ちゃん、可愛い)


 瑠里がニコニコして自分を見ているので、美玖里はますます顔を赤らめました。


(どういう事?)


 由里には何もわかっていません。


「パパ、残ってあげたら。ひいお祖母ちゃん、喜ぶよ」


 瑠里は左京に囁きました。でも、決して船場○兆ではありません。


「瑠里までそんな事を言うのか? パパには帰ってほしくないんだな」


 左京は涙ぐみました。


「大人を揶揄うんじゃないよ!」


 美玖里はぷりぷりして、奥へ行ってしまいました。


「お祖母ちゃん、また来ますね」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「また来るね」


 瑠里と次女の冴里が言いました。


「またね」


 三女の乃里と四女の萌里が言いました。


「美玖里さん、お世話になりました」


 ◯上順みたいな事を言う昭和な左京です。


「違うよ!」


 意味不明な事を言った地の文に切れる左京です。


「ババア、今度来る時まで生きてろよ!」


 由里が捨て台詞を言いました。


「うるさいよ!」


 美玖里が戻って来て、由里の頭を扇子で叩きました。


「痛いよ、クソババア!」


 由里が叫びました。


「生きてる証拠だよ!」


 負けずに言い返す美玖里です。


「仲良しですね、お祖母ちゃんとお母さんは」


 樹里が笑顔全開で言いました。


「そうなの?」


 左京はキョトンとしました。


 樹里達は美玖里と別れを惜しんで旅館を出発しました。


「あのババア、前より元気になっていたよ」


 由里は中部座席でふんぞり返って言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開、左京は引きつり全開で応じました。


「そうですね。お祖母ちゃん、百歳まで生きるって言っていましたからね」


 樹里が更に笑顔全開で言いました。


(確かに美玖里さんなら、百まで生きそうだな)


 左京は苦笑いをしました。


「そもそも、美玖里さんは何歳なの?」


 左京は樹里に尋ねました。


「七十三歳ですよ」


 樹里が笑顔全開で答えました。


「そうなのか。百まで生きると、俺はその時、七十四歳か。生きてるかな?」


 左京は不健康自慢が趣味ですから、もういないと思う地の文です。


「うるせえよ!」


 口さがない地の文に切れる左京です。


「左京さん、悲しい事を言わないでください」


 樹里が涙ぐんで左京を見ました。


「ああ、いや、すまない」


 左京は樹里の涙を見て、申し訳ない気持ちになりました。


「左京ちゃんは大丈夫よ。樹里が健康管理しているからね」


 由里が話に割り込んで来ました。


「ありがとうございます」


 左京は引きつった顔で応じました。


「孫の顔を見るまでは、死ねません」


 左京は前を見て言いました。


「ひ孫まで頑張ってよ」


 後部座席の瑠里が言いました。


「ああ、頑張るよ」


 しばらくぶりに瑠里と父娘の会話ができて、感無量の左京です。


「毎日話してるよ!」


 嘘ばかり吐く地の文に激ギレする左京です。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず、笑顔全開で応じました。


「私、なるべく早くあっちゃんと結婚するね」


 瑠里が言ったので、


「そうなの?」


 それはそれで寂しいので、左京は涙ぐみました。


「じゃあ、私も、ひ孫を見るまで頑張らなくっちゃね」


 由里が言いました。


(貴女は頑張らなくても、ひ孫を見られますよ)


 左京は由里を微笑んで見ました。


(由里さんは、俺の歳で既に孫がいたんだよな。俺、結婚が遅かったから、厳しいな)


 現実に引き戻されて、左京は切なくなりました。


「左京さん、御徒町一族の女は、早婚ですから、ひ孫も見られますよ」


 樹里が笑顔全開で言いました。


「そうだな。期待しているよ」


 しかし、瑠里達が結婚するのは悲しい左京です。


(その悲しみを四回も味わうのかよ。つらいな)


 萌里の結婚式の頃には、左京はもう自分が誰かわからなくなっていると思う地の文です。


「やめろ!」


 生きていても、そんな状態になるのは嫌だと思う左京は、血も涙もない事を言う地の文に切れました。


(俺の両親は若くして死んじまったからな。あれ? 何で死んでしまったんだっけ?)


 いくら考えても、自分の親がどうして亡くなったのか、思い出せない左京です。


 確かにその事について触れた事がないと思う地の文です。


(まあ、とにかく萌里の結婚までは絶対に生きたい。でも、誰にも結婚して欲しくない!)


 自分は樹里がまだ二十歳の時に結婚したくせにと思う地の文です。


「ううう……」


 そこを突かれると反論できない左京です。


「さあ、着きましたよ」


 樹里が言いました。いつの間にか、自宅の前です。


「今日は泊まらせてもらおうかね」


 由里が言いました。


「実家に帰ってください」


 樹里は笑顔全開で拒絶しました。


(珍しいな、樹里がそんな事を言うなんて)


 左京は驚きました。


「わかったよ。冷たいねえ、樹里は」


 由里は肩をすくめると、駅の方へ歩いて行きました。


「バイバイ!」


 瑠里達が手を振って見送りました。


「左京さんの家のお墓に行けませんでしたね」


 樹里が言いました。


「いいよいいよ。お彼岸に行けばさ」


 左京は樹里に言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じると、不意に左京にキスをしました。


「樹里……」


 左京は顔を赤らめました。


「長生きしてくださいね、左京さん」


 樹里がまた涙ぐんでいるのを見て、


「ああ。長生きするよ」


 左京は樹里の肩を抱いて、玄関へ向かいました。


 めでたし、めでたし。

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