表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
763/839

樹里ちゃん、プールへゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は日曜日です。


 樹里は、長女の瑠里、次女の冴里、三女の乃里、四女の萌里を連れて、東京フレンドランドに新しくできた室内プールへ行く事になっています。


 不甲斐ない夫の杉下左京は、ゴールデンレトリバーのルーサと仲良くお留守番です。


「ううう……」


 不倫相手の坂本龍子弁護士が仕事の事で来るため、出かけられないのです。


「不倫相手じゃねえよ!」


 番外編では龍子と仲睦まじい関係になっている左京が、地の文に切れました。


「それも違う!」


 捏造を繰り返す地の文に更に切れる左京です。


「はっ!」


 我に返ると、樹里達は護衛をしている昭和眼鏡男と愉快な仲間達と共にすでに立ち去っていました。


「樹里ー!」


 涙目で叫ぶ左京です。


「ワンワン!」


 ルーサが、


「相変わらず、バカだな」


 そう言っているかのように吠えました。


 


 いつもと違い、目的地はすぐそばのフレンドランドなので、もう着いてしまった樹里達です。


「お名残惜しいですが、我らはこれにて失礼致します」


 眼鏡男達は敬礼して去りました。


「ありがとうございました」


 樹里は深々と頭を下げてお礼を言いました。


「樹里さん、奇遇ですね」


 そこに面白くない芸人が現れました。


「やめろ!」


 気にしている事を臆面もなく言ってのけた地の文に激ギレするアリゲーター鋸山のこぎりやまです。


「クロコダイル藤山だよ!」


 更に地の文に切れる藤山です。


「おはようございます、藤山さん」


 樹里は笑顔全開で挨拶しました。瑠里と冴里は知らない芸人には見向きもせずに先に行ってしまいました。


「お、おはようございます」


 樹里に間近で見つめられて、上がってしまう藤山です。只のスケベだと思う地の文です。


「今日は、私が所属するムーンリバーコンチネンタル事務所がプール開きを祝ってお笑いライブをするんです」


 藤山が言うと、


「三千世界は出るの?」


 瑠里と冴里が戻って来て尋ねました。


「三千世界は事務所が違うので、出ません」


 苦笑いをして藤山が言いました。


「何だ、つまらない」


 二人はすぐに去りました。呆然とする藤山です。


「楽しみにしています」


 樹里は笑顔全開で告げると、乃里と萌里を連れて中へ入って行きました。


(ウチには若手の芸人がいない。一番若い奴で、三十五歳だからな)


 項垂れる藤山です。


 


 樹里達は更衣室で着替えて水着になり、室内プールのプールサイドに行きました。


「おおお!」


 周囲にいた男達が、セパレートの水着を着てパレオを巻いている樹里にどよめきました。


 瑠里はビキニを着ていますが、あまり反響はありません。冴里も同じです。


「ううう……」


 ダイナマイトなボディの母親と歩くと、自分達の貧相さが目立つので、項垂れるしかない瑠里と冴里です。


 このプールには、そういう方達はいないようだと推測する地の文です。


「どういう方達よ!」


 暗に瑠里と冴里をディスった地の文に切れる二人です。


 乃里と萌里はスクール水着っぽいのを着ています。そういう方達も今日は排除されているようだと推察する地の文です。


「そうなんですか」


 乃里と萌里は笑顔全開です。


 樹里達は流れるプールに入りました。瑠里と冴里が浮き輪なしで、乃里は浮き輪を使って入りました。


 萌里は樹里に押されて小さなゴムボートで揺られています。


 すると、流れるプールの奥にあるステージにゾロゾロと中年の親父達が上がって来ました。


「他の表現はないのか!?」


 身も蓋もない描写をした地の文に切れるMCを兼ねている藤山です。


 藤山と一緒にステージに上がったのは、ピン芸人の中島ミドルアイランドです。訳すと「中島中島」という間抜けな芸名です。


 その次に上がって来たのは、妖気怪談というコントコンビです。


 怖い話をモチーフにしたネタが多いのですが、自分達はとてつもなく怖がりで、ボケ担当の佐藤オケラとツッコミ担当の釜戸ジェルという日本人とアメリカ人の変わったコンビです。


 更に続いて上がって来たのは、十年以上前、一世を風靡したピン芸人のピンチ小浜こはまです。某国の大統領に似ていると人気になりましたが、その大統領が引退して、たちまち忘れ去られました。


「皆さん、こんにちは」


 最後に登壇したのは、テレビ夕焼を退社して、フリーアナウンサーになった長田祥子おさだしょうこです。


 かつて、アナウンサー時代、樹里に対抗心を燃やしていたイタイ系の人です。


「イタイ系じゃないわよ!」


 鋭く地の文に突っ込む長田アナです。


「今日は、東京フレンドランドに新しくオープンした室内プールの初日という事で、汚れ芸人の皆さんに来ていただきました!」


 長田アナが台本通りに言いました。


「ちょっと! 汚れ芸人はないでしょう!?」


 一斉に突っ込む芸人達ですが、実際に汚れ芸人なので、あまり受けていません。


「うるさいよ!」

 

 チャチャを入れた地の文に切れる藤山です。


「失礼しました。では、テレビで見た事がない芸人の皆さんですね?」


 台本にはないボケをかます長田アナです。すると、流れるプールにいる客達が湧きました。


「その通りなんで、何も言えません!」


 ピンチ小浜が涙ぐんで言いました。中島ミドルアイランドは図星過ぎたのか、しゃがみ込んでしまいました。


「今月は二回出ましたよ!」


 かろうじてテレビに出ている芸人だった妖気怪談の二人が言いました。


「もう七月も終わりそうなのに、二回しか出ていないんですか? 芸人辞めた方がいいのではないですか?」


 長田アナの暴走が止まりません。妖気怪談の二人は撃沈しました。


 藤山もまだ三回しか出ていないので、言い返せません。


(この姉ちゃん、すげえ毒舌だな。コンプラ、大丈夫か?)


 それでも長田の行く末を案じる優しい藤山です。


「さあ、それではそろそろ会場も温まって来たので、ライブを始めましょう。一組目は、中島ミドルアイランドさんです! 張り切ってどうぞ!」


 容赦なく進行を始める長田アナです。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「つまんないね」


 瑠里と冴里は真顔全開で呟きました。


 こうして、室内プールの初日は、暗く沈んだ状態で過ぎていきました。


 めでたし、めでたし。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ