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樹里ちゃん、父の日を祝う

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は父の日です。樹里と璃里は、妹の真里と希里と絵里、そして娘達と共に父の日の準備に追われています。


「母の日はどうだったかしら?」


 記憶にない璃里が呟きました。ドキッとする地の文です。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず、笑顔全開です。


「ママ、飾りつけ終わったよ」


 最年長の実里が言いました。


「そう。こっちもケーキができたわ」


 璃里が言いましたが、実際に作ったのは樹里なのは内緒にする地の文です。


「内緒にしなさいよ!」


 涙目で地の文に切れる璃里です。


 


 一方、不甲斐ない夫の杉下左京は、まだ山神村にいました。


「とっくに戻って来ているよ!」


 番外編と本編の区別ができない地の文に切れる左京です。


 左京は、璃里の夫の竹之内一豊、樹里の父の赤川康夫、樹里の義父の西村夏彦と共に、全然儲かっていない探偵事務所にいました。


「そこそこ儲かっているよ!」


 真実を突きつけたはずの地の文に切れる左京です。


「何か、ドキドキしますね。父の日は忘れられやすいイベントですから、あまり期待するとガッカリするかも知れませんね」


 悲観的な発想が得意の夏彦が言いました。


「毎年、盛大に祝ってくれているじゃないですか。期待しましょう」


 一豊が夏彦を励ましました。


「そうなのかね」


 康夫は笑顔全開で応じました。


(みんな、一癖も二癖もある人達だなあ)


 左京は思いました。貴方が一番変わっていますよ。


「うるさいよ!」


 ズバッと指摘した地の文に切れる左京です。


「準備できたから、来て」


 冴里と乃里が知らせに来ました。


「わかったよ」


 左京が応じました。冴里と乃里はキャッキャと騒ぎながら、渡り廊下を走って行きました。


「さあ、行きましょうか」


 左京を先頭に父親達が渡り廊下を進みました。


「うわっ!」


 渡り廊下と母家の間にある扉を開くと、実里と阿里と瑠里と冴里と乃里と萌里と真里と希里と絵里が一斉にクラッカーを鳴らしました。


 左京達は全員、心臓が止まりそうになりましたが、可愛い娘達の笑顔を見て、何とか踏み留まりました。


(しかし、壮観だな。これだけたくさんの樹里と同じ顔の女性が集まると)


 左京は真里と希里と絵里の区別がつきません。


(年子じゃなくて、三つ子だよなあ)


 左京がそんな事を思っていると、


「左京おじさん、私達の中で誰が一番綺麗?」


 高校三年の真里が言いました。高校二年の希里と高校一年の絵里も真里に負けまいとしてポーズをとっています。


「おじさんはないだろ? お姉さんの結婚相手だから、お義兄さんだろ?」


 左京が言うと、


「ええ? 樹里姉よりずっと年上なんだから、お義兄さんはおかしいよ。おじさんで決まり!」


 絵里が言いました。


「それはどうでもいいから、一番綺麗なのは誰?」


 希里が割って入って尋ねました。すると左京は、


「それはもちろん、樹里だよ」


 左京は盛り付けをしている樹里を抱き寄せて言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「ずるーい。私達三人の中でだよ。樹里姉入れちゃだめ!」


 真里がふくれっ面をしました。


「真里お姉ちゃん、お待たせ!」


 そこへ瑠里と同級生の紅里くり瀬里せり智里ちりの三つ子が来ました。


「紅里、瀬里、智里! お母さんと一緒じゃなかったの?」


 真里が尋ねました。


「お母さん、すねちゃって、一緒に来ないのよ。だから、放っておこうってなって、私達だけで来ちゃったの」


 瀬里が言いました。


「後で面倒な事になるから、お義父さん、電話してください」


 璃里が夏彦に言いました。


「うわあ、それ、嫌な役回りだなあ」


 夏彦は項垂れながらも、由里に連絡しました。


「さあさあ、席に着いてください」


 実里と瑠里が四人の父親達を誘導して、テーブルに座らせました。


「せーの」


 真里の掛け声で、


「お父さん、いつもありがとう」


 十四人の娘達が一斉に言いました。左京と一豊は涙ぐんでいます。


「そうなのかね」


 康夫は笑顔全開で応じました。夏彦は号泣しています。


「数年後には、誰かの奥さんになっているんだねえ……」


 夏彦はそんな事を考えて、号泣していたのです。


「まだ先だよ、お父さん」


 紅里が夏彦を慰めました。それを見て、左京ももらい泣きです。


「もう、ちょっと、お祝いの席なのにそういうのやめてよ」


 真里が呆れ顔で言いました。


「ホント。だから、おじさんなんだよ」


 絵里が左京に言いました。


「私は、美玖里みくりママの養女になって、御徒町の姓を継ぐんだよ」


 瑠里が言いました。


「え?」


 左京は青天の霹靂のような気がしました。


(瑠里、杉下の姓を捨てるのか?)


 左京は別の意味で涙が出ました。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


「大丈夫だよ、パパ。私、むこようしを取って、杉下家を受け継ぐから」


 計算高い冴里が言いました。


「冴里、ありがとう」


 左京が抱きしめようとすると、冴里はサッとかわしました。


「ううう……」


 また別の意味で泣いてしまう左京です。


「パパ、私、結婚しても、竹之内の名字を名乗るよ」


 実里が言いました。


「実里」


 一豊もとうとう泣いてしまいました。


「ケーキを切り分けましたから、食べてください」


 璃里はすっかり呆れてしまい、事務的に言いました。


「はい」


 場の雰囲気を壊した事にようやく気づいた父親達は、康夫を除いてかしこまりました。


(まあ、娘は父親にとって特別な存在なのよね。許してあげようか)


 璃里は溜息を吐きながら思いました。


「お父さんは、誰かに赤川姓を名乗って欲しい?」


 真里が康夫に尋ねました。


「別にどちらでも構わないよ。私が願うのは、みんなの幸せだからね」


 康夫が言うと、真里、希里、絵里、璃里が泣いてしまいました。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


 めでたし、めでたし。

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