樹里ちゃん、相談される
御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。
樹里達は次の対戦会場である焼肉店へと出発しました。
「あれ、アリゲーター淺間さんは?」
なぎさが早速名前ボケをしました。
「クロコダイル藤山さんは急病で帰りました」
苦笑いをして教えるディレクターです。
「九秒で? 随分早いね。次は徒競走に出場した方がいいよ」
更にボケるなぎさです。
「そうですか」
顔を引きつらせて応じるディレクターです。
そんな不毛な会話をしているうちに、ロケバスは焼肉店に着きました。
「ここが次の対戦会場です」
畠町アナが告げました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
(今度は負けないわよ、御徒町樹里。ペース配分を考えていないわね)
ほくそ笑むバカ曽根です。
「中曽根だよ!」
名前ボケを受け継いだ地の文に切れる中曽根まどかです。
(ダークホースだったわね、御徒町樹里。今度こそ、私が一番よ)
アンジョリーナ沢入は樹里を睨みました。
(若い女の子に囲まれて、幸せだなあ)
鼻の下を伸ばしている変態です。
「うるさいよ!」
鼻の下を押さえて地の文に切れる西園寺伝助です。
でも、中曽根は四十歳で、沢入は二十八歳で、樹里となぎさは三十二歳です。
「俺から見れば、若い女の子だよ!」
今年還暦の伝助は涙ぐんで切れました。
「樹里さん、ちょっとよろしいですか?」
常務取締役の酒野投馬美が言いました。
「そうなんですか」
樹里は酒野に呼ばれて、店の奥に行きました。
「このままだと、樹里さんの圧勝になってしまうので、少し手加減してもらえませんか?」
酒野は揉み手をして言いました。
「いいですよ」
樹里は笑顔全開で応じました。
「よろしくお願いしますね」
酒野はヘラヘラしながら去りました。
「では、本番始めますので、皆さん、所定の席に着いてください」
ディレクターが言いました。樹里達はまた互いが見えない席に着きました。
「このお店では、量ではなく、金額の勝負になります。一番たくさん食べるのではなく、一番値の張るものを食べ、合計金額が一番多い方が優勝です。要するに頭脳戦になります」
畠町アナが言いました。
(まずいなあ。俺が一番不利じゃん)
始める前から敗戦濃厚な伝助です。
(考えている間に数をこなせば、結果的に一番金額が多くなるはず!)
考えるのをやめた中曽根は、端から注文しました。
「一番高いのください」
いきなり反則を繰り出すなぎさです。
「そういうのはダメです、なぎささん」
苦笑いをして注意する畠町アナです。
「ええ、だったら、最初に教えておいてよ。知らないよ、私」
なぎさがふくれっ面をしました。
(可愛いな、なぎささん)
デレる伝助です。逮捕してください。
「何でだよ!」
地の文の正当な主張に切れる伝助です。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じながら、次々に注文して焼いていきます。
「数多く注文するのは構いませんが、時間になった時、食べきっていないものはカウントされませんので、お気をつけください」
畠町アナが言いました。
「メニューが少ないから、全部食べ切ったらどうすればいいの?」
なぎさが尋ねました。
「また同じものを頼んでもいいです」
畠町アナが言いました。
「それから、寿司店の時と同じように、焼肉以外は食べても金額に含めませんので、お気をつけください」
畠町アナが言い添えました。
「早く言ってよ」
なぎさはすでにメロンを丸ごと食べていました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開でどんどん焼肉を食べていました。
(あれ? また樹里さんが一番食べているぞ)
酒野が焦り出しました。
「大丈夫です。金額的には、中曽根さんがリードしています」
ディレクターが耳打ちしました。
「あら、そうなの」
ホッとする酒野です。
「ううう」
沢入は慌てていました。
(奢ってもらってばかりなので、値段が全然わからない。どれが高いの?)
沢入はメニュー表を見て眉間にシワを寄せました。
(シャトーブリアンとか、高そうね)
沢入は考えて、
「シャトーブリアンをお願いします」
すると、
「品切れです」
店長が頭を下げました。実は、なぎさが全部頼んでしまったのです。
「えええ!?」
驚愕する沢入です。
(なぎささんが勝つのであれば、決勝が想定できそう!)
喜ぶ酒野です。ところが、
「ああっと、樹里さん、大量注文です」
樹里がサーロインを山盛りで頼みました。
(シャトーブリアンの方が単価は高いが、もうすでに在庫がない。まずい)
今度はディレクターが焦りました。そして、店長のそばへ走り、
「サーロインは止めてください。勝負がついてしまいます」
耳打ちしました。
「了解しました」
店長は厨房へ行きました。
「私もサーロインください!」
沢入が叫びましたが、
「申し訳ありません、品切れです」
また店長に謝られました。
「どういう事よ!?」
切れる沢入です。
(何にしようかなあ)
全然勝つつもりがない伝助は、ゆっくりとメニュー表を眺めていました。
(賑やかしに呼んだが、次はやめとこう)
やる気のない伝助を見て、決断するディレクターです。
「あれ? 何かすごく嫌な予感がするんだけど……?」
そういう事には敏感な伝助がディレクターを見ましたが、ディレクターは顔を背けました。
「残り時間、三十分です」
畠町アナが告げました。
「え? 全然頼めてないよ」
まだ一品も食べていない伝助は泣きそうです。
「よし、今度は樹里に勝てそうだぞ!」
なぎさは次々にシャトーブリアンを食べました。
「げっ」
酒野は中間報告を店長から受け取り、その金額に眩暈がしました。
(四十万円超え? 何がそんなに高いの!?)
酒野は伝票の単価を見て顎が外れそうになりました。
(シャトーブリアンだけで十万? 残りの三十万は?)
そして、それ以上に高い肉を見つけました。
(G県のブランド牛? 赤白牛のサーロインが二十万?)
樹里がサーロインを五キログラムも食べていました。
(百グラム四千円? ちょっと!)
涙目で樹里を見る酒野です。
結局、量で圧倒したなぎさが勝ち、樹里の連覇は阻止され、優勝決定戦に望みをつなぎました。
「次は有名パティシエがいる洋菓子店でホールケーキを食べていただき、制限時間一時間で一番多く食べた人が勝ちです」
畠町アナが言いました。
「そうなんですか」
樹里は笑顔全開で応じました。
(化け物よ、あの二人……)
すでにギブアップ寸前の中曽根と沢入は、身震いしながら樹里となぎさを見ていました。
次回、決着がつくのか、楽しみな地の文です。