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樹里ちゃん、大食い番組の収録に参加する(後編)

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里達は今、大食い選手権の収録中です。


「まずいな。樹里さんがぶっちぎりで一番食べてるよ」


 ディレクターが言いました。


「どうにかしなさい! 樹里さんが一人勝ちしたら、つまらないでしょ!」


 酒野投馬美が怒鳴りました。


「常務、声が大きいです」


 ディレクターが焦って言いました。


「ああ、ごめんなさい」


 つい、夫と喧嘩しているテンションで叫んでしまった酒野です。


「夫と喧嘩なんかした事ないわよ!」


 妄想を空想した地の文に切れる酒野です。


 ああ、今は別居中ですよね。


「別居もしていません! 夫婦円満です!」


 酒野は誰もいない空間に向かって叫びました。


(大丈夫か、常務は?)


 それを見て心配になるディレクターです。


(樹里さんが一番食べているの?)


 酒野の声を聞きつけた中曽根まどかはギアを切り替えました。


「ああ、中曽根さんがスピードアップです! すごい勢いです!」


 実は底意地の悪い畠町真理子アナが煽りました。


「負けない!」


 現在大食いクイーンであるアンジョリーナ沢入そうりがスピードを上げました。


「ふえええ……」


 すでにギブアップ気味のクロコダイル藤山です。


「うーん、食べられる寿司が回ってこないよお」


 西園寺伝助は、まだ玉子焼きしか食べていません。失格にした方がいいと思う地の文です。


「終了です!」


 畠町アナが言いました。


 ディレクターの指示で、ADが挑戦者の皿を数えました。


「中曽根さん、二百五皿」


 畠町アナが集計結果を読み上げました。


(勝った!)


 ガッツポーズする中曽根ですが、


「アンジョリーナ沢入さん、二百二十九皿」


 沢入があっさりと抜きました。悔しがる中曽根です。


「クロコダイル藤山さん、棄権です」


 藤山は伸びていました。


「西園寺さん、ゼロ」


 畠町アナは呆れ顔で言いました。


「はあ……」


 項垂れる伝助です。


「松下なぎささん、三百皿」


 畠町アナは目を見開きました。


「えええ!?」


 勝ったと思っていた沢入も仰天しました。ディレクターと酒野も驚いています。


「御徒町樹里さん、四百皿」


 しかし、樹里はもっと食べていました。唖然とする沢入と畠町アナとディレクターと酒野です。


「何だ、樹里の方が食べてたの。残念だなあ」


 寿司以外にカットメロンやプリンを百皿食べていたなぎさです。


(もう店じまいするしかない)


 店長は顔を引きつらせていました。


「では、次の対戦会場に移動します」


 気を取り直して告げる畠町アナです。


「では、三十分休憩してから、焼肉店へ向かいます」


 ディレクターが言いました。


「じゃあ、トイレ行くね」


 なぎさは走って行きました。


「クロコダイル藤山さんはどうしますか?」


 ADがディレクターに尋ねました。


「帰ってもらえ。奴が映っているところは全部カットして、ギャラも払わない」


 非情な事を言うディレクターですが、伸びている藤山には聞こえていません。


「西園寺さんはどうしますか?」


 ADが訊きました。ディレクターは腕組みをして考え込み、


「まあ、いいだろう。焼肉店であまり食えないようなら、帰ってもらうから」


 伝助は樹里と雑談しているので気づいていません。


「わかりました」


 ADは走って行くと、他のADと藤山を運び出しました。


(藤山、お前の死は無駄にはしない)


 死んでもいないのに、運ばれて行く藤山に手を合わせる極悪な伝助です。


「次の焼肉店は、量ではなく、金額で競ってもらいますので、何を食べるのかよく考えてくださいね」


 畠町アナが挑戦者達に言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じましたが、中曽根と沢入は樹里を睨んでいました。


「お店に来る前に、酔い止めの薬を飲むために水を飲んだのがよくなかったね」


 トイレから戻って来たなぎさが言いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


(確か、なぎささん、二リットルのペットボトルを二本、空にしていたはず……)


 なぎさの底なしの胃袋にゾッとする畠町アナです。


「薬のせいで、トイレが近くて困るよ。次は、食べてる最中にトイレに行かせてもらわないと」


 薬のせいではなく、水のせいだと思う地の文です。


「では、出発します」


 ディレクターが告げました。樹里達はロケバスに乗り込み、焼肉店へ向かいました。


「樹里さん、お腹の調子は如何ですか?」


 畠町アナが尋ねました。


「大丈夫ですよ」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「そうなんですか」


 畠町アナは樹里に口癖で応じました。


(樹里さん、あんなに食べたのに全然苦しそうじゃないもんなあ。すごいよなあ)


 伝助は嫌らしい目で樹里のお腹を見ています。


「嫌らしい目はしてねえよ!」


 地の文の鋭い指摘に動揺しながら切れる伝助です。


「ああ、また酔い止めの薬を飲まないと」


 なぎさは水をがぶ飲みして薬を飲みました。


(寿司とスイーツをあれだけ食べて、またあんなに水を飲めるって、モンスターだわ)


 畠町アナは身震いしました。


「うまく飲めないなあ。ねえ樹里、お薬の上手な飲み方、教えてよ」


 なぎさが言いました。


「ジェル状の経口補助食品で飲むと簡単に飲めますよ」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「ああ、そうなんだ。じゃあ、今度からそれにするね」


 なぎさは薬を飲むのを諦めて、ケースに戻しました。


「あの二人は、次回は参加させない方がいいと思います」


 畠町アナがディレクターに耳打ちしました。


「でも、樹里さんとなぎささん、数字を持ってるんだよなあ。それに常務の推しもあるからさあ」


 ディレクターは畠町アナを舐めるようにして見ました。


「違う! 誤解だ!」


 地の文の陰謀に切れるディレクターです。


「そうですか」


 畠町アナはチラッと酒野を見てから、自分の席へ戻りました。


 陰謀が渦巻いていますが、まだ終わりそうにないので、次回から「焼肉戦」として装いも新たに進むと思う地の文です。


 一旦、終了です。

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