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樹里ちゃん、番組のオファーを受ける

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は、五反田邸にあるテレビのスタッフが来る事になっています。


 そして、始まりは変則的で、いきなり五反田邸からです。


 多くの人が登場をカットされ、地の文に対して抗議文を読み上げていますが、全て既読スルーにする地の文です。


「樹里さん、今回は何のお話なんですか?」


 カットを免れた元泥棒が庭掃除をしながら尋ねました。


「やめて、お願いだから!」


 いつまでも絶える事なく過去をほじくり返す地の文に涙を流して懇願する目黒弥生です。


「知りません」


 笑顔全開で応じる樹里です。


「そうなんですか」


 あまりにもあっさりとした返事に樹里の口癖で応じてしまう弥生です。




 庭掃除を終えて、玄関に戻って来たところで、黒塗りの某国産車が来ました。


 言わずと知れた「楽しみにしていたテレビじゃない」でお馴染みのブジテレビの常務取締役の酒野さけの投馬美つまみです。


「違うわよ!」


 キャッチフレーズを間違えた地の文に切れる酒野です。


「いらっしゃいませ」


 樹里と弥生が玄関の前で深々とお辞儀をしました。


「本日はお時間を割いていただき、恐縮です」

 

 酒野も頭を下げましたが、気持ちがこもっていません。


「やめて!」


 イチャモンをつけた地の文に抗議する酒野です。そして、いつものように酒野は応接間に通されました。


「早速ですが、企画書です」


 酒野はペライチの資料を樹里に渡しました。


「ペライチじゃないわよ!」


 大声を出すしか能がない関西芸人に渡す台本とは違うと言いたい酒野です。


 そこへ知りたがりの弥生が頼まれてもいないのにコーヒーを淹れて来ました。


「頼まれているわよ!」


 でたらめが大好きな地の文に切れる弥生です。


「そこに書かれているように、今回樹里さんに出演をお願いしたいのは、大食い番組なんです。樹里さんは以前、大食い番組にも出演なさっていますよね」


 酒野が言いました。


「いいえ、出ていませんよ」


 樹里は笑顔全開で否定しました。


「ええ!?」


 酒野は樹里が大食いタレントを負かしたのを知っているのですが、樹里に出演を否定されて仰天しました。


 樹里は単に大食い番組と自覚していないだけなのは内緒にしておく地の文です。


「まあ、それはそれで、今回、出演していただけませんか? ご友人の松下なぎさ様にもご出演いただく事になっているのですが」


 なぎさにもオファーはしていますが、まだ返事をもらっていない事は樹里に伝えようと思う地の文です。


「ダメ、絶対!」


 涙目で地の文に抗議する酒野です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じると、


「なぎささんが出演するのであれば、私も出ます」


 なぎさの出演を条件に承諾しました。


「そうなんですか」


 なぎさが出てくれないと、この企画はボツになってしまうと思い、顔が引きつる酒野です。


「他の出演者は、元大食い女王の中曽根まどかさん、新進気鋭の大食いクイーンのアンジョリーナ沢入そうりさん、芸人の西園寺伝助さん、同じく芸人のクロコダイル藤山さんです」


 ライバルになりそうなのは、アンジョリーナ沢入だけだと思う地の文です。


 伝助と藤山は数合わせです。


「うるせえ!」


 どこかで聞きつけたクロコダイル藤山が地の文に切れました。

 

「また樹里さんと一緒に出られるのかあ。嬉しいなあ」


 伝助は呑気な事を考えていました。そろそろ降板させましょう。


「嫌だよ! もっと頻繁に登場したいよ!」


 子供のように駄々をこねる伝助です。


「まずは回転寿司の店舗を貸切にして、制限時間内に誰が一番たくさん寿司を食べるかを競います」


 酒野が企画書を見ながら説明しました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


「次に、焼肉店へ移動して、食べ放題の二時間で誰が一番高い金額のものを食べるかを競います」


 酒野は樹里がずっと笑顔全開なので、ちょっとだけ不安になっていました。


「最後には、有名パティシエがいる洋菓子店でホールケーキを食べていただき、制限時間一時間で一番多く食べた人が勝ちです」


 酒野は樹里の反応を見ながら言いました。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


「三つの競争で、それぞれ一位が決まりますが、同点だった場合、ラーメン店で決勝が行われる事になっています」


 それでも酒野は説明を続けました。


「そうなんですか」


 樹里はまた笑顔全開で応じました。


「ご了解いただけましたでしょうか?」


 酒野は愛想笑いをして訊きました。


「大丈夫ですよ。なぎささんが出演するのでしたら」


 樹里がダメ押しのように告げたので、


「そうなんですか」


 引きつり全開で応じる酒野です。


「ありがとうございます。では、よろしくお願います」


 酒野は何度も頭を下げて、五反田邸を出ました。


「大食い大会ですか。大変そうですね」


 他人事ひとごとのように言う弥生です。


「そんな事はありません!」


 心情を見破った地の文に切れる弥生です。


「大丈夫ですよ。なぎささんがいますから」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「そうなんですか」


 弥生は樹里の口癖で応じました。


 


 酒野は五反田邸から直接なぎさの家へ向かいました。


 ところが、なぎさは不在でした。


(あれえ、今日はご在宅だとご主人から聞いていたのに)


 焦る酒野です。なぎさの携帯電話にかけましたが、留守電になってしまいます。


(まずい、まずいぞ。なぎささんが出ないと、樹里さんも出ない事になる)


 嫌な汗を掻きながら、酒野は車の中で思案しました。すると、なぎさから電話がかかって来ました。


「ごめーん、ちょうどう○こしてたから、出られなかったよ」


 ストレートな表現のなぎさの言葉に顔が引きつる酒野です。


「先日、お願いしました大食い大会ですが、ご出演いただけますでしょうか?」


 酒野は祈りながら言いました。


「ああ、それ、ダメだよ。私、ダイエット中なんだよ。無理だよ」


 なぎさはけんもほろろに断って来ました。


「えええ!?」


 目の前が真っ暗になる酒野です。


(まずい、まずい。企画がボツになってしまう!)


 取締役会で解任される自分を思い描いてしましました。


(一か八かだ)


 酒野は思い切って、


「樹里さんはご出演くださるのですが。如何でしょうか?」


 賭けに出ました。


「え? そうなの? 樹里が出るのなら、出るよ。先にそれを言ってよ」


 あっさり承諾するなぎさに、


「そうなんですか」


 樹里の口癖で応じた酒野は、寿命が縮んだと思いました。


 めでたし、めでたし。

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