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樹里ちゃん、神社のお祭りにゆく

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は日曜日です。


 樹里達が住んでいる町にある神社の春の例大祭がある日です。樹里達は皆で神社に行く予定になっています。


「すまん、樹里。クライアントがどうしても今日探してくれって言ってるんだ」


 不甲斐ない夫の杉下左京は、不倫をするために見え透いた嘘を吐きました。


「違うよ! 仕事だよ!」


 鋭い推理を展開した地の文に切れる左京です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。左京の事はどうでもいいようです。


「ううう……」


 何となくそんな気がしてしまった左京は大きく項垂れました。




「ヤッホー、樹里」


 樹里の親友の松下なぎさの家族と途中で合流しました。


「大丈夫ですかね、樹里さん。僕達、違う町の住民なのに」


 なぎさの夫の栄一郎が言いました。


「大丈夫ですよ」


 樹里は笑顔全開で言いました。


「そうなんですか」


 栄一郎は引きつり全開で応じました。


「栄一郎は心配性過ぎだよ」


 なぎさはガハハと笑いました。一度も人生で何か気にかかった事がないのだろうと推測する地の文です。


「わっくんは来ないの?」


 なぎさの長女の紗栄さえしかいないので、樹里の次女の冴里が尋ねました。


海流わたるは今日は同級生の子のお誕生日会なんだよ。それがさ、可愛い子なんだよね」


 冴里が悲しそうな顔になったのもお構いなしに笑うなぎさです。


「なぎささん、その話はしない約束だったでしょう?」


 栄一郎がたしなめました。するとなぎさは舌を出して、


「あ、そうだった。ごめんね、瑠里ちゃん」


 間違えて樹里の長女の瑠里に謝りました。唖然とする栄一郎と冴里です。


「私じゃなくて、冴里に謝ってよ、なぎちゃん」


 瑠里は苦笑いして言いました。


「そうだっけ? ごめんね、冴里ちゃん」


 なぎさは全然反省していない顔で言いました。


「はい」


 半分諦めた冴里が引きつった顔で応じました。


「そうなんですか」


 樹里はそれでも笑顔全開で応じました。


 


 そんな事をしているうちに、樹里達は神社に着きました。


「お待ちしていました、樹里さん」


 神社の宮司が不用意な事を言ってしまいました。


「お待たせして申し訳ありません」


 樹里は深々と頭を下げました。


「あ、いや、そんなつもりで言ったのではなくてですね……」


 宮司は慌てました。


「どうぞ、こちらへ」


 宮司の奥さんが苦笑いをして樹里達を案内しました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。樹里達は拝殿の中に案内されました。そこには神社の氏子達がいました。


 揃いの浴衣で八木節音頭です。


「違うよ!」


 G県の人にしかわからないボケをかました地の文に切れる氏子総代です。


 氏子達は皆、揃いの白い法被はっぴを着ています。襟のところに神社の名前が入っています。


「樹里さん達の法被も用意しておりますので、着てください」


 氏子総代が言いました。


「そうなんですか」


 樹里達は萌里の分まで法被を着せてもらいました。


「あれ? 私達にはないの?」


 無意識に図々しいなぎさが訊きました。氏子総代がギクッとしました。


「ああ、大丈夫です! お気遣いなく!」


 栄一郎が慌てて言いました。ホッとする氏子総代です。


「では、これより、例大祭を執り行います。まず、修祓しゅばつを致します」


 氏子総代が言いました。修祓とは、神様に接する前に、人や物を祓い清める事です。宮司が進み出て、氏子達に大幣おおぬさを振りました。氏子達は低頭しました。


 瑠里達も大人を真似て頭を下げました。


「何、何?」


 一人なぎさはキョロキョロしています。


「ううん!」


 氏子総代が咳払いをしましたが、


「え? みんな、どうしたの? お金を落としたの?」


 全然気づかないなぎさです。


「なぎささん、いいから頭を下げて!」


 たまりかねた栄一郎が言いました。


「え? そうなの?」


 ようやくなぎさも頭を下げました。それを睨んでいる氏子総代です。


「次に宮司一拝です。皆様も宮司に続けて一拝してください」


 氏子総代が言いました。宮司が神前に向かい、頭を深く下げました。氏子達も同じく下げました。


「なぎさん!」


 栄一郎がなぎさを強制的に低頭させました。


 


 なぎさが騒然とさせた式次第は何とか無事に終了しました。樹里達は本殿を出て、帰路につきました。


「何度も頭を下げさせられて、苦しかったよ。もう行きたくないなあ」


 なぎさが言いました。


「なぎささん、神事なのですから、そんな事を言ってはいけませんよ」


 栄一郎がなぎさを嗜めました。


「牧さんがいたの?」


 なぎさが渾身のボケをかましました。


「その伸二じゃないです!」


 誰もわからないボケに果敢に突っ込んでみせる栄一郎です。


「そうなんですか」


 それにも関わらず、樹里は笑顔全開で応じました。


「ママ、ぐうじさんは何を言っていたの?」


 冴里が尋ねました。


祝詞のりとですよ。神様にお話をする時に使う言葉です」


 樹里は笑顔全開で噛み砕いて言いました。


「そうなんですか」


 冴里だけではなく、瑠里も乃里も萌里も笑顔全開で応じました。


「私、眠くなっちゃったよ。何言ってるのか、全然わからないし。神様もわからなかったんじゃないかなあ」


 なぎさは生欠伸なまあくびをして言いました。


「なぎささん……」


 栄一郎は項垂れてしまいました。


「パパ、どうしたの? おなかいたいの?」


 紗栄が心配そうに話しかけました。


「大丈夫だよ、紗栄。ありがとうね」


 栄一郎は紗栄の優しい言葉に涙ぐみました。


「え? 栄一郎もお腹痛いの? 早く帰って、正◯丸飲もうよ」


 なぎさは栄一郎と紗栄を引っ張って急ぎ始めました。


「ちょっと、なぎささん!」


 栄一郎は驚いてなぎさを引き止めました。


「何? もう我慢できないの? 樹里の家の方が近いから、トイレ借りようか?」


 なぎさは大真面目な顔で言いました。


「なぎささん……」


 栄一郎はまた項垂れてしまいました。


「そうなんですか」


 樹里達はそれにも関わらず、笑顔全開で応じました。


 


 めでたし、めでたし。


 

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