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樹里ちゃん、お墓参りにゆく(前編)

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 今日は日曜日です。樹里達は亡き夫の杉下左京のお墓参りと御徒町家のお墓参りに行く途中です。


「まだ生きてるよ!」


 樹里が運転するミニバンの助手席で地の文に切れる左京です。


「そうなんですか」


 樹里はそれにも関わらず笑顔全開で応じました。


「先に左京さんのご両親のお墓へ行きましょう」


 樹里が言いました。


「そうなんですか」


 長女の瑠里、次女の冴里、三女の乃里、四女の萌里が笑顔全開で応じました。


「そうだな。美玖里さんの旅館に一泊して帰るか」


 左京が言いました。宿泊費は貴方が出すのですね?


「勘弁してください」


 会心の土下座で地の文に懇願する左京です。


 群馬県吾妻郡山神村の事件を解決した報酬を既に使い尽くした左京には、到底そんな大金はありません。


 無駄遣いが過ぎると思う地の文です。


「無駄遣いじゃねえよ! 車を買い替えたんだよ!」


 地の文に抗議する左京です。あのオンボロの車を下取りに出したら、ゼロ査定の上、処分料がかかってしまい、思った以上の出費になったのです。


「ううう……」


 一から十まで真実なので、項垂れるしかない左京です。


「宿泊費は只ですから、大丈夫ですよ」


 樹里が笑顔全開で悪気なく言いました。


「そうなんですか」


 左京は引きつり全開で応じました。


 ミニバンは関越道を走り、埼玉県に入ると一般道に降り、国道を走って左京の両親の墓に着きました。


「墓が遠いから、近くに移したいな」


 左京が言うと、


「いいよ、ここで。ドライブできるから」

 

 瑠里が言いました。


「そうだよ」


 冴里が賛成しました。乃里は眠い目を擦りながら、


「おしっこ」


 左京は慌てて乃里と萌里を連れて、霊園の公衆トイレへ走りました。


 瑠里と冴里は桶と柄杓を借りて、水を汲むと、樹里と一緒に霊園の奥へと行きました。


「待ってくれ!」


 萌里を抱きかかえ、乃里の手を引いて追いかける左京です。寄る年波には勝てないと思う地の文です。


「うるせえ!」


 左京の心臓を心配した地の文に理不尽に切れる左京です。


「ウチの実家のお墓参りがありますから、お墓はこのままでいいと思います」


 樹里が笑顔全開で言いました。


「そうなんですか」


 左京は引きつり全開で応じました。


 やがてお墓の前に着きました。左京と樹里が石塔を磨き、瑠里と冴里が持って来た花を切り揃えました。


 乃里と萌里は樹里が朝早く起きて作ったお団子の入った容器を出して並べました。


「よし、線香に火を点けるぞ」


 左京が線香の束を持って、ライターで火を点けました。樹里が瑠里と冴里には分けて渡し、乃里と萌里の分は自分で持ちました。


「ママが二人の分を上げますから、手を合わせてください」


 左京と瑠里と冴里が線香を上げ、樹里が自分の分と乃里と萌里の分を上げました。


 そして、みんなで手を合わせました。乃里と萌里は早く目を開けてしまい、ハッとしてまた拝みました。


「さあ、次はママのおうちのお墓へ行くぞ」


 左京が言いました。


「わーい!」


 乃里と萌里が喜んだので、


「お墓で騒いじゃダメ!」


 瑠里がお姉ちゃんぶって言いました。


「はい」


 乃里と萌里は瑠里が怖いのか、素直に応じました。瑠里は樹里の真似をしたので、乃里と萌里は怖がったようです。


(さすがおねえちゃんね)


 冴里はもう少ししたら真似しようと思いました。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開、左京は引きつり全開で応じました。


「そう言えば、お義母さんとお義姉さんは行かないのか?」


 不意に左京が尋ねました。由里の事はついでで、璃里が行くかどうか知りたいようです。


「やめろ!」


 見事な勘ぐりをした地の文に焦って切れる左京です。


「母と姉は、先に行っているはずですよ」


 樹里は笑顔全開で言いました。由里はともかく、璃里はこっちにも来て欲しかったと思う左京です。


 由里に伝えようと思う地の文です。


「勘弁してください」


 今日、二度めの土下座で地の文に懇願する左京です。


「ああ、そうなんだ」


 喜び半分、悲しみ半分の左京です。


「ううう……」


 その通りなので、地の文に反論できずに項垂れる左京です。


 


 ミニバンは関越道に戻り、群馬県へと向かいました。


 瑠里と冴里は外の景色を見ていますが、乃里と萌里は眠ってしまいました。


「まだまだ子どもね」


 瑠里は微笑んで、乃里と萌里にタオルケットをかけてあげました。


「瑠里は優しいな」


 左京が振り返って誉めました。


「えへへ」


 瑠里は照れくさいのか、顔を赤らめて笑いました。


「さーたんもやさしいよ!」


 冴里がふくれっ面をしました。


「そうだな。冴里も優しいな」


 左京は冴里に微笑みました。


「えへへ」


 冴里は嬉しそうに笑いました。何でもお姉ちゃんと競いたいのです。以前の瑠里なら、ムッとして何か言ったのですが、もうすぐ小学六年生になるので、何も言いませんでした。


(偉いぞ、瑠里)


 左京はそんな瑠里を見て頷きました。


「パパ、キモ」


 それを見て瑠里が言いました。左京はまた項垂れました。


「瑠里」


 樹里がルームミラー越しに瑠里を真顔で見ました。瑠里はギクッとして、


「パパ、ごめんなさい」


 すぐに左京に謝りました。


「ハハハ」


 左京は何とも複雑な顔で乾いた笑いをしました。


「もうすぐI温泉ですよ」


 樹里はインターチェンジを降りて言いました。


「わーい! ひいおばあちゃんちだ!」


 乃里がパッと目を覚まして言いました。


「乃里、ダメだよ。ひいおばあちゃんなんて言ったら、おこづかいもらえなくなるよ」


 瑠里がたしなめました。


「あ、そうだった。おねえちゃん、ナイショにしてね」


 乃里が言いました。


「内緒にしてあげる」


 瑠里は微笑んで応じました。


「さーたんもナイショにしてあげる」


 冴里が言いました。


「おねえちゃん、さーたん、ありがとう」


 乃里は二人にお礼を言いました。


(こんな可愛い娘達に囲まれて、俺は何て幸せなんだろうか)


 左京は涙ぐんでいました。もう思い残す事はありませんね。


「違う!」


 抹殺しようとした地の文に切れる左京です。


「そうなんですか」


 樹里は笑顔全開で応じました。


 もうすぐ目的地ですが、次回に続くと思う地の文です。

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