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樹里ちゃん、スキーにゆく(後編)

 御徒町樹里は日本有数の大富豪である五反田六郎氏の邸の専属メイドです。


 樹里達は五反田グループが所有するスキー場へ向かっています。


 乗っているバスも、もちろん五反田グループのもので、豪華なリムジンバスです。


 不甲斐ない夫の杉下左京が一生かかっても買えないくらい高いです。


「うるせえ!」


 樹里の姉の璃里と留守番する事を選んだエロ左京が地の文に切れました。


「やめろ!」


 図星を突かれ、動揺しながら切れる左京です。隣で半目で見ている璃里です。




 樹里達は楽しくゲームをしながら、バスに乗っていました。


 一人を除いて。


「うるさいわね!」


 自分の事だと直感して、地の文に切れる麻耶です。


「麻耶ちゃん、機嫌直してよ」


 拗ねて毛布にくるまっている麻耶に召し使いが言いました。


「召し使いじゃないです!」


 見事にハモって地の文に切れる麻耶と恋人のはじめです。


「機嫌悪くないわよ」


 ツンと顔を背けて応じる麻耶です。


「はじめ君、今はそっとしておいた方が……」

 

 元泥棒の目黒弥生が小声で言いました。


「やめて!」


 過去をほじ繰り返すのを生きがいにしている地の文に懇願する弥生です。


「そうですね」


 年配の女性に言われて、はじめは麻耶を慰めるのを諦めました。


「私はまだ三十歳よ!」


 年齢の事には敏感な弥生が地の文に切れました。でも、はじめから見れば年配だと思う地の文です。


「ううう……」


 反論できずに項垂れるしかない弥生です。


 そうこうしているうちに、バスはスキー場に着きました。


 セキュリティの問題で、どこのスキー場かは伏せる地の文です。


「わーい、雪だ!」


 長女の瑠里は大喜びです。


「わーい!」


 次女の冴里と三女の乃里も大喜びして、雪の上を走っています。


「はしゃぐと転びますよ」


 樹里が真顔で注意しました。


「はい!」


 途端に直立不動になる三姉妹です。


(樹里さん、怖い)


 弥生とはじめもビクッとしました。


(はじめ君のバカ。樹里さんにデレデレして……)


 麻耶は口を尖らせています。キスをしたいのでしょうか?


「違います!」


 セクハラをした地の文に切れる麻耶です。

 



 樹里達はそれぞれレンタルでウェアやスキー板などを借りました。


 麻耶と弥生とはじめは一式レンタルして、リフトで上に行きました。


 樹里達はゲレンデの下の方で、ソリで滑っています。


 顔がそっくりな美人と美少女達に気づいた男共が自分の妻や彼女をそっちのけで見入っていて、どやされています。


「お嬢さん、俺らと滑らない?」


 おバカな男達が三人で樹里達に近づきました。


「そうなんですか」


 樹里達は笑顔全開で応じました。


「四姉妹?」


 おバカの一人が尋ねました。


「いえ、三人は私の娘です」


 樹里が笑顔全開で言いました。


「えええっ!?」


 どう見ても二十代前半に見える樹里が三人の子持ちと知り、顎も外れんばかりに驚くおバカ三人です。


(一体、何歳で子供を産んだんだ? どこのどいつだ、そのうらやましい男は?)


 三人が三人共、樹里の夫の事を羨みました。その正体は不倫男です。


「違う! 断じて違う!」


 某主人公のセリフをまだパクって家で叫ぶ左京です。


(犯罪だ。絶対にそうだ。酷い男だ)


 樹里が年端としはもいかない時に無理やり子供を産まされたと想像し、涙ぐんで同情するおバカ三人ですが、


「あれ?」


 妄想劇場に浸っているうちに、樹里達を見失いました。


「お嬢さーん!」


 ゲレンデで樹里達を探すおバカトリオですが、樹里達は瑠里達が疲れたので、レストハウスに入っていました。


「ママ、ソフトクリームが食べたい」


 瑠里が言うと、冴里と乃里が大きく頷きました。


「スキー場は冷えるので、ダメです。ホットミルクにしなさい」

 

 樹里が言いました。真顔ではないのですが、笑顔でもないので、


「はい」


 三人は顔を引きつらせて応じました。


 


 一方、弥生とはじめと麻耶はリフトを降りて、ゲレンデを滑り降りていました。


 小さい頃から来ている麻耶は綺麗なターンで滑り降り、周囲にいるスキーヤーを追い抜いてどんどん先に行ってしまいます。


「あああ!」


 どちらかというと運動が苦手なはじめはスキー板をハの字にしてゆっくりと滑っていましたが、前にいた女性のスキーヤーを避けようとし、バランスを崩して倒れてしまいました。


「やっぱり無理でした」


 付き添ってくれた弥生に苦笑いをして言うはじめです。


「大丈夫ですか?」


 弥生は手を貸してはじめを立たせました。


「ありがとうございます」


 女性に免疫がないはじめは弥生に助けられて赤面しました。


(お嬢様も、冷たいわね。先に行ってしまわれて)


 弥生はもう下まで降り切った麻耶を見て溜息を吐きました。


「麻耶ちゃんは、僕が鈍臭いから、怒っているんですよ。さっきもリフトを乗る時と降りる時に止めてしまいましたから」


 はじめは自嘲気味に言いました。


「最初は誰でもそうですよ。仕方ないです」


 弥生のショタの虫が湧いたようです。


「違うわよ!」


 核心を突かれたため、真っ赤になって地の文に切れる弥生です。


(何とかしてあげたいけど、お嬢様がねえ……)


 弥生はまたリフトに乗った麻耶を見て思いました。


「はじめ君、何してるのよ? 弥生さんに迷惑かけて」


 麻耶が滑り降りて来て、初めのそばで止まりました。


「あ、いけない、ちょっと樹里さんに頼んでいた事を思い出しました」


 やっと自分がお邪魔虫なのに気づいた弥生がわざとらしく先に滑って行きました。元泥棒のキャビーなので、素晴らしい大滑降です。


「やめてー!」


 滑りながらも地の文に懇願する弥生です。


「スキー経験があまりないのなら、そう言ってよ。私がすごく冷たい女みたいじゃない」


 麻耶は顔を赤らめて言いました。


「ごめん、麻耶ちゃん」


 はじめも顔を赤らめました。


「私について来て。そうすれば、うまく降りられるから」


 麻耶は板をハの字にして、ゆっくり滑り出しました。


「うん」


 はじめは涙ぐんで笑い、麻耶の後に続きました。




「どちらも照れ屋さんなんですね。もう少し、素直になれるといいかも」


 ゲレンデの下で、弥生が言いました。


「そうなんですか」


 樹里達は笑顔全開で応じました。


 


 めでたし、めでたし。

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